岡山天音「日本を代表する監督の現場に立てたことが大きな収穫」巨匠・黒沢清監督作品に初出演『Cloud クラウド』【インタビュー】

2024年9月26日 / 12:00

(C)エンタメOVO

-大半の場面でマスクをかぶったままの登場ですが、ご苦労もあったのでは?

 やっぱり、大変でした。視界が限られていたので、目出し穴の位置も細かく調整していただきましたし。ただ、この映画のムードとして、どこか浮世の話でない雰囲気がありつつ、同時にすごく生々しい瞬間があり、奇妙な話なのに、実際にあるかも、と思わせるものがあります。そのはざまを行き来する絶妙なバランスが作品の面白さだと思ったので、この世界観なら“マスクをかぶった人の生理”みたいなものが、そのまま仕草として出ても面白いのではないかと。だから、とっぴな存在ではあるけれど、そもそもマスクに慣れているキャラクターではないので、見づらいときはその都度、マスクを直すようにしていました。

-そうすると、お芝居としては、共演者とのやり取りの中から生まれるものが大きかったのでしょうか。

 それももちろんあります。ただやっぱり、黒沢監督が明確に「ここはこう動いてほしい」とアイデアを提示してくださったことが大きかったです。特に大事なシーンについては、クランクイン前から、「こういう動きで」と明確な指示がありました。そこに黒沢監督という人が表れている気がしたので、きちんと再現するつもりで撮影に臨みました。その一方で、どういう感情の流れでその動きになるのかは、こちらに任せてくださった印象です。まず外見の動きを監督に見せていただき、どんな感情の流れでその動きになるのかは、逆算して自分で埋め、ズレがあれば再度、監督に修正していただく、という感じでした。

-そういう黒沢流の演出はいかがでしたか。

 すべて指示通りに…ということではなく、俳優が自由にできる領域も残してくださったので、面白かったです。しかも、黒沢監督が現場で見ているものも、すごく興味深くて。すべて事前に決めた通りではなく、現場でインスピレーションを刺激されるものがあれば、「面白いですね。じゃあ、それも生かしましょうか」ということもありましたし。

-具体的にはどんなことでしょうか。

 例えば、僕がトイレでボコボコに殴られているシーンでは、現場で打ちのめされた僕の顔のすぐ横に小便器があるのを見た黒沢監督が「そこに血を吐いてください」と。そんなふうに、自由に動ける“遊び”の部分も残っていて、その柔軟性とご自身の美意識へのこだわりのバランスが見事で。こういうやり方なら、俳優はみんなやりやすいだろうなと。いろんな方と、いろんなスタイルの作品を撮られてきた監督なので、その中で洗練されてきた結果が、今の形なのかなと思いました。

-その結果、完成した映画をご覧になった感想はいかがでしたか。

 文字からは想像できない気味悪さや怖さが、映像や音で表現されていて面白かったです。黒沢監督以外では味わえない世界が詰まった作品だと思うので、ご覧になった皆さんの感想がすごく気になります。

-黒沢作品に出演したことで、俳優として収穫になったことは?

 日本を代表する映画監督のお1人なので、その方の現場に立てたことは大きな体験になりました。知らなかった場所に一歩、足を踏み込ませていただき、そこがこういう作りになっているんだと、目で見て、肌で感じられたこと自体が大きな収穫です。今回だけに終わらず、ぜひまたご一緒できるように、これからも頑張っていきたいです。

(取材・文・写真/井上健一)

(C)2024「Cloud」製作委員会

『Cloud クラウド』9月27日(金)TOHOシネマズ日比谷ほか全国ロードショー

  • 1
  • 2
 

特集・インタビューFEATURE & INTERVIEW

原田琥之佑「この映画は、何でもあるけど、何にもないみたいなところが一番の魅力だと思います」『海辺へ行く道』【インタビュー】

映画2025年8月26日

-同年代の共演者とはアドリブでやり取りをしたこともありましたか。  奏介がテルオたちと大きなオブジェを作るシーンがあって、映画のスピードはずっとゆっくりなのに、あのシーンだけ会話のスピードが速くなるんです。そこで結構アドリブを入れたんですけ … 続きを読む

上田竜也&橋本良亮、舞台初共演を通して「絆はより強固になる」 音楽劇「謎解きはディナーのあとで」【インタビュー】

舞台・ミュージカル2025年8月26日

-皆さんの歌唱シーンもあるのですか。 橋本 それはもちろん、ちょくちょくあります(笑)。歌います。アンサンブルの方と一緒に歌うシーンもありますが、ミュージカルではないんです。バックに流れていて、それに合わせて芝居していくという形だと思います … 続きを読む

青山貴洋監督「問診シーンが最大の課題に」日曜劇場『19番目のカルテ』【インタビュー】

ドラマ2025年8月25日

 また、原作から得た気付きも大きいという。「原作には、読者の感情を揺さぶる瞬間が描かれています。それがどこにあるのかを探りながら、ドラマにもそのエッセンスを取り入れるようにしています」。  原作の短編では、百々がさまざまな医療機関を受診して … 続きを読む

中園ミホ 連続テレビ小説「あんぱん」は「やなせたかしさんが書かせてくださった」執筆を終えた脚本家が物語を振り返る【インタビュー】

ドラマ2025年8月22日

 NHKで好評放送中の連続テレビ小説「あんぱん」。『アンパンマン』を生み出したやなせたかしと妻・暢の夫婦をモデルにした柳井のぶ(今田美桜)と嵩(北村匠海)夫婦の戦前から戦後に至る波乱万丈の物語は、いよいよクライマックスが近づいてきた。このタ … 続きを読む

森田剛「戦争と背中合わせの世界であるということは今も変わらない」 19世紀を代表する未完の戯曲に挑む パルコ・プロデュース 2025「ヴォイツェック」【インタビュー】

舞台・ミュージカル2025年8月22日

-本作は、19世紀を代表する未完の戯曲です。そうした作品を今、上演する面白さや魅力はどう感じていますか。  自分は与えられた役を生きることに集中したいと思います。ただ、今も昔も、みんなそれぞれに傷ついて、それを隠して生きていると思います。戦 … 続きを読む

Willfriends

page top