【週末映画コラム】親子について考える映画を2本 認知症の父と息子の葛藤を描く『大いなる不在』/激しくやり合う三姉妹の家族ドラマ『お母さんが一緒』

2024年7月12日 / 08:00

『大いなる不在』(7月12日公開)

(C)2023 CREATPS

 幼い頃に自分と母を捨てた父・陽二(藤竜也)が警察に捕まったという知らせを受け、久しぶりに父のもとを訪れた卓(森山未來)は、認知症で変わり果てた父と再会する。

 さらに、父の再婚相手の直美(原日出子)が行方不明になっていた。一体、彼らの間に何があったのか。卓は、父と義母の生活を調べ始め、父の家に残されていた大量の手紙やメモ、そして父を知る人たちの話を基に、彼の人生をたどっていくが…。

 藤とタッグを組んだ長編デビュー作『コンプリシティ 優しい共犯』(18)が、海外でも高い評価を得た近浦啓の監督第2作で、森山と藤が親子役で初共演を果たしたヒューマンサスペンス。卓の妻の夕希役を真木よう子が演じる。

 第71回サン・セバスチャン国際映画祭のコンペティション部門で、藤がシルバー・シェル賞(最優秀俳優賞)を受賞。第67回サンフランシスコ国際映画祭では、最高賞のグローバル・ビジョンアワードを受賞した。

 この映画は、近浦監督の父親との実体験がモチーフになっているという。過去と現在と回想を錯綜させながら、夫婦や父と子のぎくしゃくとした関係や葛藤、あるいは認知症になった陽二と彼の回りの人々が見る情景の違いから、記憶という名の迷宮が浮かび上がる。

 その点で、アンソニー・ホプキンスが主演した『ファーザー』(20)と通じるところもあるのだが、この映画は陽二の見る“幻想”を見せないところに現実感があるし、妻の失踪をめぐるミステリーとしての要素もあるところがユニークだ。

 藤は『初恋~お父さん、チビがいなくなりました』(19)でもボケの兆候がある頑固おやじの役を演じていたが、今回はさらに進んだ認知症の老人を演じている。ただし、それでも往年のダンディーな姿の残り香を感じさせるところが彼の真骨頂。

 そこに映画の“うそ”があるのだが、この場合、陽二の役を生々しくリアルに見せられたら、悲惨さが先に立って見ていられないと思う。藤が演じればこそ、劇映画として成立しているといっても過言ではないのだ。

藤竜也、近浦啓監督インタビューも公開中。

 
  • 1
  • 2

特集・インタビューFEATURE & INTERVIEW

生駒里奈が語る俳優業への思い 「自分ではない瞬間が多ければ多いほど自分の人生が楽しい」【インタビュー】

舞台・ミュージカル2024年11月20日

 ドラマ・映画・舞台と数多くの作品で活躍する生駒里奈が、ストーリー性のある演劇的な世界観をダンスとJ-POPで作り上げるダンスエンターテインメント集団「梅棒」の最新作、梅棒 19th GIFT「クリス、いってきマス!!!」に出演する。生駒に … 続きを読む

史上最年少!司法試験に合格 架空の設定ではないリアルな高校2年生がドラマ「モンスター」のプロデューサーと対談 ドラマ現場見学も

ドラマ2024年11月17日

 毎週月曜夜10時からカンテレ・フジテレビ系で放送している、ドラマ「モンスター」。趣里演じる主人公・神波亮子は、“高校3年生で司法試験に合格した”人物で、膨大な知識と弁護士として類いまれなる資質を持つ“モンスター弁護士”という設定。しかし今 … 続きを読む

八村倫太郎「俊さんに助けられました」、栁俊太郎「初主演とは思えない気遣いに感謝」 大ヒットWEBコミック原作のサスペンスホラーで初共演『他人は地獄だ』【インタビュー】

映画2024年11月15日

 韓国発の大ヒットWEBコミックを日本で映画化したサスペンスホラー『他人は地獄だ』が、11月15日から公開された。  地方から上京した青年ユウが暮らし始めたシェアハウス「方舟」。そこで出会ったのは、言葉遣いは丁寧だが、得体のしれない青年キリ … 続きを読む

「光る君へ」第四十三回「輝きののちに」若い世代と向き合うまひろと道長【大河ドラマコラム】

ドラマ2024年11月15日

 NHKで好評放送中の大河ドラマ「光る君へ」。11月10日に放送された第四十三回「輝きののちに」では、三条天皇(木村達成)の譲位問題を軸に、さまざまな人間模様が繰り広げられた。  病を患い、視力と聴力が衰えた三条天皇に、「お目も見えず、お耳 … 続きを読む

「ローマの共和制の問題点は、今の世界が直面している数々の問題と重なる部分が多い」『グラディエーターⅡ 英雄を呼ぶ声』コニー・ニールセン【インタビュー】

映画2024年11月15日

 古代ローマを舞台に、皇帝の後継者争いの陰謀に巻き込まれ、剣闘士(グラディエーター)として壮絶な戦いに身を投じる男の姿を描いたスペクタクルアクション『グラディエーター』。巨匠リドリー・スコットが監督し、アカデミー賞で作品賞や主演男優賞など5 … 続きを読む

Willfriends

page top