「この作品と観客がどうインタアクションするのかにすごく興味があります」『大いなる不在』藤竜也、近浦啓監督【インタビュー】

2024年7月10日 / 08:00

 幼い頃に自分と母を捨てた父・陽二が警察に捕まった。連絡を受けた卓(森山未來)が、妻の夕希(真木よう子)と共に久々に九州の父のもと訪ねると、父は認知症で別人のようになり、父が再婚した義母(原日出子)は行方不明になっていた。卓は、父と義母の生活を調べ始めるが…。近浦啓監督のヒューマンサスペンス『大いなる不在』が7月12日から全国公開される。近浦監督と認知症となる父・陽二を演じた藤竜也に話を聞いた。

(左から)近浦啓監督、藤竜也 (C)エンタメOVO

-まず監督に伺いたいのですが、今回の藤さんのキャスティングはどのような経緯で決まったのでしょうか。

近浦 キャスティングをするという感覚はあまりなかったです。僕が映画を作っていて藤竜也さんが役者をやっているのであれば自然と物語を作るみたいな感じです。藤さんに合わせて物語を作るという感覚は以前から変わっていないです。それはもう、自分の中で当然のことだと思ってしまっています。

-認知症になってしまった老人を演じる気持ちというのはどんな感じなのでしょうか。

 私自身、毎日自分の老いと相対しているわけですから、非常に分かりやすい。認知症に関しては、以前、田中光敏さんの『サクラサク』(14)という映画で、そういう役をやりまして、いろいろと調査をしました。それがベースにあったので、今回認知症について改めて勉強したりはしませんでした。

-自分もこんなふうになってしまうかもしれないと考えたりもしますか。

 それはもう仕方がないと思います。それも含めて、この映画はそういう人間に対して「そうなんだよなあ」と共感している感じがしました。私はこの映画を見終わった時、何であんな醜態をさらさなきゃならないのかと否定するよりも、「人間ってそうなんだよな、別にいいじゃん」みたいな感じになったんです。死も含めて、老いていろんなことを引き受けなければならないわけだから、あまりそのことを否定的に考えても仕方がない。人によっては認知症が60代で出てしまったりもするわけでね。それはもう当たり外れみたいなもので、どうしようもないんですよ。だからって人間は嫌になりませんよね。

-この映画は、監督自身の実体験、お父さんの話が根底にあったのですか。

近浦 映画は完全なフィクションですが、着想のきっかけは、ちょうど新型コロナウイルスがまん延した2020年の4月に、僕の父親が認知症になったことです。その時すでに、2作目に撮ろうとしていた脚本も完成していたのですが、あれほどの社会の変容を経験しましたから、その物語にあまり臨場感が持てなくなりました。それで、今の自分、あるいは社会に共鳴できるような、何か新しい物語を書きたいと思いました。最初に浮かんだのが「不在」というキーワードで、そこから物語を紡いでいきました。陽二というキャラクターについて僕の父親から拝借している設定は、X線工学という物理学の一分野を専攻している大学の教授であるところで、それはそのまま生かしました。

-藤さんは、今回近浦監督と3度目のコンビを組んだわけですが、藤さんにとって近浦監督はどういう存在ですか。

 信頼感というよりも、私にとってはちょっとスーパーマン的な感じがします。というのも、私は古い映画会社(日活)で俳優になって、10年そこにいて、撮影所が閉鎖になって、それから今までやってきているわけだけど、インデペンデント映画は、自分で全部支度をして、作る状況を整えて、演出をして、なおかつ海外にまで意欲的に紹介して、世界のさまざまな国で映画が楽しめる場所を作って…。私から見ればちょっと大谷(翔平)っぽいなと。そのぐらい時代が変わったのかなと。本当に素晴らしい時代に、私はまだ俳優をやれていてハッピーです。

-ギクシャクした関係の息子役の森山未來さんの印象はいかがでしたか。

 ちょっとニュアンスのある表現を巧みにされるので、森山さんのあの空気感は分かるなという感じです。本当に迷惑なことになっちゃって、25年も音信不通だったおやじと仕方なく接触して、だんだんと引きずり込まれて、大変だろうなという。父親に対する戸惑いと屈折感について非常に陰影のあるお芝居をされたので、とても楽しかったです。素晴らしかったです。陽二さんといい対照になってよかったんじゃないかと思います。

 
  • 1
  • 2

特集・インタビューFEATURE & INTERVIEW

【映画コラム】新旧監督の話題作が並んで公開に『TOKYOタクシー』『金髪』

映画2025年11月22日

『TOKYOタクシー』(11月21日公開)  タクシー運転手の宇佐美浩二(木村拓哉)は、85歳の高野すみれ(倍賞千恵子)を東京の柴又から神奈川県の葉山にある高齢者施設まで乗せることになった。  すみれの「東京の見納めに、いくつか寄ってみたい … 続きを読む

中川晃教「憧れることが原動力」 ミュージカル「サムシング・ロッテン!」で7年ぶりにニック役に挑戦【インタビュー】

舞台・ミュージカル2025年11月22日

 数々のミュージカル作品へのオマージュが登場するコメディーミュージカル「サムシング・ロッテン!」が12月19日から上演される。2015年にブロードウェイで初演された本作は、「コーラスライン」、「アニー」、「レ・ミゼラブル」などの人気ミュージ … 続きを読む

岩田剛典、白鳥玉季「全編を通してくすっと笑えるコメディー映画になっていますので、気楽な気持ちで映画館に来ていただきたいです」『金髪』【インタビュー】

映画2025年11月21日

 日本独特のおかしな校則、ブラックな職場環境、暴走するSNSやネット報道といった社会問題を背景に、大人になりきれない中学校教諭が、生徒たちの金髪デモに振り回されながら成長していく姿を、坂下雄一郎監督がシニカルな視点で描いた『金髪』が全国公開 … 続きを読む

加藤清史郎&渡邉蒼「僕たちも今、夜神月に巻き込まれている」 子役出身の二人が挑む「デスノート THE MUSICAL」【インタビュー】

舞台・ミュージカル2025年11月21日

 映画やドラマ、アニメなど幅広いメディア展開を遂げてきた人気漫画「DEATH NOTE」のミュージカル版「デスノート THE MUSICAL」が11月24日から上演される。2015年に日本で世界初演された本作は、原作のスリリングな物語を世界 … 続きを読む

なにわ男子・大西流星「“timeleszのお兄さん”な原くんは印象通り」 timelesz・原嘉孝「流星は優しくてしっかりしてる子」 1月期ドラマでW主演【インタビュー】

ドラマ2025年11月20日

 なにわ男子・大西流星と、timelesz・原嘉孝がW主演する「東海テレビ×WOWOW 共同製作連続ドラマ 横浜ネイバーズ Season1」が、2026年1月から放送がスタートする。  本作は、令和版『池袋ウエストゲートパーク』として注目を … 続きを読む

Willfriends

page top