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相葉 悪魔と血の契約をしたことによって、命と引き換えにすばらしい音楽を100万曲弾けるという物語ですが、芸術家としてもっと高みにいきたいのにいけないというもどかしさや、そこで契約をしてしまう弱さは理解できます。そうした人間の脆さや弱さには共感できるところはありました。
中川 パガニーニは人生の岐路に立った時、悪魔との契約を選びますが、人生の岐路は誰にでも訪れるものですよね。そうしたとき、どれだけの覚悟を持って彼はその道を選んだのだろうかと想像すると、とても共感できるところがあります。きっとそれだけ大きな覚悟があったのだと思います。一方で、彼は契約の最後にアムドゥスキアスを激昂させるような終わり方をするんですよ。彼は、暗い森の中でも恐れずにメロディーだけを道しるべに歩んできた。そんな音楽に溢れていた人生を歩んでいましたが、そうした人生の中で、母親が彼の道しるべになっていました。彼は、もしかしたら悪魔との契約を悔やんだこともあったかもしれないけれども、これでよかったんだと自分の中の決着をつけるために、あの結末を選んだ。天才パガニーニという呼び名からは想像もつかない人間味のある姿も見えて、共感できるところも多いと思いました。
木内 彼は演奏家として、自分が作る音楽と向き合い、僕らは俳優として演劇に向き合っていますが、僕自身も才能がないんじゃないかと思うことはこれまでもたくさんありました。そう思うたびに、自分の戦う姿勢が足りないんじゃないか、自分の努力が足りないんじゃないかと、葛藤を抱えてきましたが、それはきっと彼も同じだと思います。僕にはまだ悪魔は来ていないので(笑)、運命の十字路に立っているのかどうか分かりませんが、これまでもさまざまなターニングポイントがあり、たくさんの方と出会って、人生に悪戦苦闘しながらも一生懸命生きています。芸術に向き合いながら生きていこうと決めたという部分はすごくかっこいいと思いますし、共感できるところでもあります。
相葉 初演のときは、迷わず契約すると思っていました(笑)。それで自分の名が残るならいいとライトに考えていたのですが、よくよく考えてみると芸術家としてのゴールを、自分の実力ではなく付加的な能力によって達成してしまうと、その時点で人間ではなくなってしまうと思うようになりました。それに、学んだり努力したりしなくなったり、もがいたり戦うことをしなくなることは幸せなのかとも考えてしまって。なので、今だったらしないと思います。
中川 僕は、悪魔が契約を持ちかけてきた時点で選ばれしものだと感じて喜ぶような気がします。もちろん、その内容は重要だと思いますが。この物語のように命だった場合、10代の頃だったら迷わずにいけたかもしれませんね。でも、今は少し違います。なので、無責任には言えませんが、自分が本当に突き詰めていきたいものに出会ってしまった時は突き進むかもしれません。さまざまな許しを得て、自分自身もそれに納得させられるだけの説得力が自分の中に生まれてくるなら、怖いけれども、自分で決断したことを最後までやり通そうと思うかもしれませんね。それを、悪魔との契約ととるのか、自分との契約ととるのかは、自分次第だと思います。
木内 お二人の話を聞いていても悩ましいところですよね(笑)。僕は、その代償に命が関わってくるなら、契約はしないかな。命より大事なものはないと思うので。たとえ、今世紀最大の名誉だと呼ばれるようになったとしても、3年後に死ぬと言われたらやらないです。
中川 でも、役者がみんなを熱狂させるような役に出会ったとして、その役に入り込んで熱演しているときは、ある意味で、命を削っているという表現になりませんか?
木内 なりますね。
中川 それでも命を惜しいと思っているということは、あなたは芝居に対して…。
木内 ちょっと待って(笑)。それはまた話が変わってくるから(笑)。
全員 あはは(笑)。
相葉 僕は身の丈以上のことを求めてはいけないと思う。自分の中の限界を突き詰めていくのが役者だと思っているので、それを超えることはできないものなのかもしれないなと思います。
中川 真面目(笑)!
木内 相葉裕樹、木内健人だからこそできるものがあるからね。
(取材・文・写真/嶋田真己)
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