唐田えりか「宝物のような作品になりました」人生を諦めた女性の再生の物語に主演『朝がくるとむなしくなる』【インタビュー】

2023年11月28日 / 08:00

-そんな希は、加奈子やコンビニで一緒に働く仲間と交流する中で、徐々に変わっていきます。

 物語が進むにつれ、実は日常の中でも近しい人たちに恵まれていたことに、希はだんだん気付いていくんです。その点、演じる上では突然大きく変わるわけではないんですけど、グラデーションをつけるように、徐々に変わっていく感じを心掛けました。

-そして後半、親しくなった加奈子から「飯塚さんは、いろいろ大丈夫?」と聞かれた希が、それまでため込んでいた思いを告白するシーンがとても印象的でした。唐田さんも自然と涙がこぼれてきて。

 私にとってもすごく印象的なシーンで、あの時間のことは今もよく覚えています。元々、脚本ではああいうテンション感になる予定ではなく、さらっと終わるはずだったんです。でも、私も芋生さんもお互いに役であると同時に自分たちでもある感じだったので、芋生さんからああいう言葉をもらったとき、私自身も感極まるものがあって…。その結果、あんなふうになりました。希としても、そっと背中を押して、包み込んでもらえた時間だったなと思います。

『朝がくるとむなしくなる』配給︓イーチタイム©Ippo

-加奈子から「大丈夫?」という言葉をかけてもらった希の感情が溢れ出す流れもリアルなので、観客の共感を呼びそうな気がします。

 根本的に人って、すごく弱いと思いますし、誰もが悩みやコンプレックスを抱えながら生きていると思うんです。でも、同じくらい強さも持っているんじゃないかな…と。だから、その後の「そんなに正しくなんて生きられないよ、みんな」という加奈子のセリフもすごく響くんですよね。

-そういうお芝居を引き出してくれた石橋監督の現場はいかがでしたか。

 石橋監督は、役の心情に寄り添いながら演出してくださった上に、「ああしてください」、「こうしてください」ということはなく、基本的にお芝居については任せてくださいました。しかも今回の石橋組は、スタッフ、キャスト共に皆さんとても柔らかい雰囲気で、温度感の似た方が多かったんです。だから、役作りのために意識してコミュニケーションをとる必要もなく、自然といい関係を築けたことが、作品にも反映されたような気がします。

-では、完成した作品をご自身でご覧になった感想は?

 脚本がより優しく色づいたような気がしました。石橋監督の優しい目線や芋生さんのたたずまいもすてきで、この世界観に入れてよかったな…と。10代の頃から親しかった芋生さんと初めて一緒にお芝居ができましたし、石橋監督ともいいチームになることができました。すごくいい空気感の中でお芝居をさせていただき、自分にとっては宝物のような作品になりました。

-この映画をどんな方にご覧になってほしいですか。

 すてきな言葉がたくさん詰まっていて、ご覧になった方の背中をそっと押してくれるような作品になったと思います。そういう意味では、悩みを抱えた人や日常に疲れた人に見ていただきたいという思いはもちろんあります。とはいえ、そんなふうに構えることなく、ふらっと映画館に立ち寄った方にもぜひご覧いただき、何かを感じてもらえたら。1人でも多くの方に、非日常を味わえる映画の魅力を体感していただけたらうれしいです。

(取材・文・写真/井上健一)

『朝がくるとむなしくなる』配給︓イーチタイム©Ippo

 

 

  • 1
  • 2
 

特集・インタビューFEATURE & INTERVIEW

井内悠陽「自分を貫くことは大切。でも、時には柔軟性も必要」 映画『爆上戦隊ブンブンジャー』で映画初主演を飾る20歳の新星【インタビュー】

映画2024年7月27日

-劇場版が公開される今月は、井内さんもちょうど20歳の誕生日を迎えるので、いい記念になりますね。  自分への誕生日プレゼントにもなるので、すごくうれしいです。プロデューサーにも「公開日を(誕生日の)7月12日にしませんか?」と冗談を言ってい … 続きを読む

田中真弓「70歳、新人のつもりで頑張っています」憧れだった朝ドラレギュラー出演 連続テレビ小説「虎に翼」【インタビュー】

ドラマ2024年7月26日

-「女の幸せ」という稲の一連のせりふは、田中さんご自身の生き方と相反するようにも感じますが。  友人たちから「真弓が絶対に言わない言葉だな。お前は絶対に反対側だな」という連絡がいくつもきましたし、自分でもそう思いました。女性は結婚や出産を機 … 続きを読む

真彩希帆、憧れの「モーツァルト!」でコンスタンツェ役 「この作品を見に来て良かったと感じていただきたい」【インタビュー】

舞台・ミュージカル2024年7月26日

-では、真彩さんのこれまでの歩みも聞かせてください。2012年に宝塚歌劇団に入団し、雪組ではトップ娘役を務めました。その後、21年に退団し、現在は俳優として活動されています。まず、宝塚をめざしたきっかけを教えてください。  子どもの頃から東 … 続きを読む

【週末映画コラム】歴史の「if」を描いた2本『もしも徳川家康が総理大臣になったら』/『お隣さんはヒトラー?』

映画2024年7月26日

『お隣さんはヒトラー?』(7月26日公開)  1934年の東欧のある町。幸せそうなポーランド系ユダヤ人一家の日常が映る。一転、1960年の南米・コロンビア。ホロコーストで家族を失い、ただ一人生き延びたポルスキー(デビッド・ヘイマン)は、町外 … 続きを読む

鈴木梨央「特撮映画の魅力を実感しました」子役時代から活躍してきた若手俳優が、ファンタジー映画に主演『カミノフデ ~怪獣たちのいる島~』【インタビュー】

映画2024年7月25日

-ご自身が演じた時宮朱莉役に対する思いをお聞かせください。  朱莉と同世代ということで、家族に対して素直になれない部分など、自分にも当てはまる部分もあり等身大で演じることができました。 -鈴木さんは子役時代から数多くの役を演じてきましたが、 … 続きを読む

Willfriends

page top