東出昌大「役者業についての考え方がシンプルに」 キャリア10年でたどり着いた境地で見せた入魂の熱演 『とべない風船』【インタビュー】

2023年1月5日 / 08:00

-そういう東出さんをはじめ、宮川監督やスタッフの皆さんの熱意がにじみ出た映画だったと思います。ここで改めて伺いますが、10年という節目を迎え、役者業について今はどんな思いを持っていますか。

 これまで紆余(うよ)曲折がありましたが、役者は先が見えない仕事なので、いろいろ思い悩んでいてもしょうがないなと思って、最近は考え方がすごくシンプルになってきました。オファーがあれば全力で取り組みますが、なければないで仕方ないかなと。先日、野生動物に関するある記述を読んだら、野生界では「自分が食べること」、「人から食べられないこと」、「子孫を残すこと」の三つだけをシンプルにやっていると書いてあって、「なるほど」と納得したんです。相対的な評価や、他人の声を気にするのは人間だけだなと。そんなこともあって、「呼ばれれば絶対にいい芝居をする。だから、他人が何と言おうと、気にするのはやめよう」と。

-「呼ばれれば絶対にいい芝居をする」というのは?

 いい芝居をしなければ、次は呼ばれませんから。逆に言えば、呼ばれなくなったら、いい芝居ができなかったということで、役者の仕事が減って、僕が淘汰(とうた)されていくだけで。その代わり、毎日、「いい芝居って何だろう?」と考え続けています。あとは、呼ばれればできる限りの準備をして、現場に向き合う、役に向き合う、台本に向き合う…やれるだけのことをやる、という感じです。

-「全力で取り組めば、必ずいい芝居になる」ということでしょうか。

 そうですね。全力を出し切って、悪い芝居だったときは、この仕事が向いてなかったということなんだと思います。今後もいろいろお話は頂いていますが、ただひたすら、いただいた仕事に全力で取り組み、がむしゃらに食らいついて芝居していこうと思っています。

-なるほど。

 とはいえ、役者業は人生の一部であり、それに人生を支配されているかというと、そんなことはありません。最近、「半農半X」という考えがあることを知ったんです。「半分の農業」と「半分のX」。「X」は都市部での仕事で、「農」は農耕に限らず、山での狩猟採集なども含みます。僕は、半農の時間もしっかり生きているつもりですし、残り半分の「X」がたぶん役者なんだと思います。

-今回演じた漁師も一種の「農」に当たる役ですし、それが「俳優・東出昌大」の新しい武器になるかもしれませんね。

 そうかもしれませんが、僕には何とも言えません。ただ、この映画が僕なりに「精いっぱいやった」と胸を張って言える作品であることは間違いありません。

(取材・文・写真/井上健一)

(C)buzzCrow Inc.

 

  • 1
  • 2
 

特集・インタビューFEATURE & INTERVIEW

井之脇海「ものすごい達成感がありました」蔦重に見守られながら迎えた新之助の最期【大河ドラマ「べらぼう~蔦重栄華乃夢噺~」インタビュー】

ドラマ2025年9月4日

-新之助の親友ともいえる蔦重を演じた横浜流星さんの印象はいかがでしたか。  横浜さんほどストイックな座長は見たことがありません。共演は今回が初めてですが、実は横浜さんとは10年位前からオーディションでよく見かけていて、ワークショップでも一緒 … 続きを読む

坂東龍汰「この映画は絶対に映画館で見てほしいです。特にドラゴンライドのシーンは圧巻です」『ヒックとドラゴン』【インタビュー】

映画2025年9月4日

-吹き替えで難しかったところと楽しかったところはありましたか。  初めてのことだったので、付いていくのに必死な部分もありましたし、基本的には全てが難しかったのですが、それと同じぐらいの楽しさもありました。自分が当てた声を見たり聞いたりする時 … 続きを読む

小池栄子、45歳を目前に控えて見据える未来「小池栄子が出ているから見てみようかなと思ってもらえる存在でいたい」 劇団☆新感線「爆烈忠臣蔵〜桜吹雪 THUNDERSTRUCK」【インタビュー】

舞台・ミュージカル2025年9月3日

-劇団☆新感線は45周年を迎えますが、小池さんも今年、45歳になります。40代になって変わったところはありましたか。  みんな同じだと思いますが、疲れが取れない(笑)。気持ちだけではどうにもいかないことがあるなと思いました。女性の場合、更年 … 続きを読む

間宮祥太朗「周囲に合わせようとせず、自分のペースを保つことを考えていた」“自分らしさ”の大切さを描くアニメ映画に声の出演『不思議の国でアリスと -Dive in Wonderland-』【インタビュー】

映画2025年9月2日

-確かにその通りですね。  そういう意味では、その両方が真実でもあると思います。その中で自分でどうにかできるのは、「自分の考える自分らしさ」なのかなと。自分が「こうしたい」「こういうことはしたくない」と考えることが、自然と「自分らしさ」につ … 続きを読む

【映画コラム】夏の日の少年たちが頑張る映画『ベスト・キッド:レジェンズ』『蔵のある街』『海辺へ行く道』

映画2025年9月1日

『蔵のある街』(8月22日公開)  岡山県倉敷市に住む高校生の蒼(山時聡真)と祈一(櫻井健人)と紅子(中島瑠菜)は、小学校からの幼なじみ。ある日、蒼と祈一は、紅子の兄で自閉スペクトラム症のきょんくん(堀家一希)が神社の大木に登って叫んでいる … 続きを読む

Willfriends

page top