三浦透子「心が温かくなる実感をたくさん得られた現場でした」縁を感じる広島で、人と触れ合うことの大切さを再確認 『とべない風船』【インタビュー】

2022年12月26日 / 08:00

 瀬戸内海に浮かぶ広島の小さな島を舞台にしたヒューマンドラマ『とべない風船』が1月6日から公開される。妻子を亡くした地元の漁師・憲二(東出昌大)と、疎遠だった父が暮らす島を訪れた元教師の凛子。共に心に傷を負った2人が、互いに交流する中で再生していく物語だ。凛子を演じたのは、『ドライブ・マイ・カー』(21)でブルーリボン賞助演女優賞を受賞するなど、近年目覚ましい活躍が続く若手俳優の三浦透子。舞台となる広島に「縁を感じている」と語る彼女に、作品に込めた思いを聞いた。

三浦透子 (C)エンタメOVO

-“多島美”と呼ばれる瀬戸内海の風景も美しく、傷ついた心を優しく包み込むようなすてきな映画でした。まずは、オファーを受けたときに感じた作品の魅力を教えてください。

 広島という場所で、広島在住のスタッフの皆さんと撮影できることが一番の魅力でした。というのも、広島は個人的にすごく縁を感じている土地なんです。映画の撮影もこれで三度目ですし、子どもの頃、広島ガスのCMのお仕事をしていたこともあって。そして何より、撮影していて、土地の力をすごく感じるんです。ここで撮れたからこそ生まれたシーンや、瞬間だと思うような体験ができる場所だという印象がすごくあって。

-広島在住の宮川博至監督のこの作品に懸ける思いを、どんなところに感じましたか。

 広島を舞台に脚本を書き、スタッフもほとんどが広島在住の方、さらに地域の方々の協力を得て撮影する。そんなふうに「広島のみんなで映画を撮る」という状況を作ったところに、広島への思いがものすごくあふれていますよね。その上、「映画を撮りたい」という熱意をすごく感じて。そういう監督の思いが実現する瞬間に、少しでもお手伝いできるならうれしいなと思っていました。

-三浦さんが演じる凛子は、教師の仕事に挫折し、自分が進むべき道を見失ったことをきっかけに、疎遠だった父・繁三(小林薫)が暮らす島を訪れます。教師時代については、劇中で詳しくは語られませんが、演じるに当たって、凛子をどんな人物だと捉えましたか。

 凛子は、自分が貫きたいものがきちんとある人なんでしょうね。それを曲げられない心の強さ故、人とぶつかってしまったり、受け入れられない何かがあったりで、教師生活の中で心が疲れてしまったのかなと。お父さんとの関係も同じように、自分が素直になれなかった、あるいは「父親が間違っている」という思いが強過ぎたため、視野が少し狭くなり、親子の間がすれ違ってしまった瞬間があるんじゃないかなと。その半面、実はそういう自分の思いを正直に伝えるのが苦手だったり、素直になるのが苦手だったりするところは、彼女の愛らしさでもあるのかなと思っていました。

-凛子にとって、父親との関係は物語上のポイントになりますね。

 父親とは似た者同士で、お互いちょっと照れくさい部分があるんです。演じる上では、その関係性が劇的に変化するのではなく、ちょっとだけほっこりするような温かさが感じられる、ささいだけど特別な変化、というふうにできたら…と思っていました。

-凛子にとってもう一つ重要なのが、地元の漁師・憲二との出会いです。かつて豪雨災害で妻子を失い、心に傷を負った憲二との交流を通して、凛子の気持ちに徐々に変化が訪れますが、2人の関係をどう捉えていましたか。

 この2人の関係性って、ちょっと距離がある故に、生まれた瞬間があると思うんです。恋愛や友情とは違うし、もちろん家族でもない。出会って間もない、特別ではない関係だからこそ、言えた言葉や漏らすことができた本音があるんじゃないかなと。そう考えると、必ずしも人同士って、分かろうとしなくてもいいのかもしれない。そんなことを感じました。

-ところで、この映画では凛子の変化を描いていますが、三浦さん自身も2022年はNHKの朝ドラ「カムカムエヴリバディ」や、大河ドラマ「鎌倉殿の13人」、フジテレビ系の「エルピス-希望、あるいは災い-」といった話題作に出演し、変化の大きい1年だったと思います。改めて振り返ってみて、どんなことを感じますか。

 新しいチャレンジがたくさんあった1年だと思っています。今までは映画の仕事が多かったのですが、2022年はテレビドラマやミュージカルに挑戦したり、1年に二つの舞台に出演したり、今までとは違った経験をすることができました。

-02年、5歳のときにサントリーのCM「2代目なっちゃん」でデビューしてから早20年、今では俳優として高い評価を受けるほか、歌手としても活躍していますね。

 そういう意味ではこれまで、人との出会いや作品との出会いなど、自分が豊かになるいい経験をたくさんさせていただきました。もともと、CMに出演したのも、子どもの頃に通っていたダンススクールでオーディションの告知を見て、友だちと一緒に「行ってみようか」と軽い気持ちで受けたことがきっかけですが、それから目の前のことを一つ一つやってきた積み重ねの先に今があると思っています。おかげで、皆さんから、ありがたい評価を頂けるようになりましたが、私自身はこれからも今まで通り、一つ一つ丁寧にやっていこうと思います。

 
  • 1
  • 2

特集・インタビューFEATURE & INTERVIEW

蓮佛美沙子&溝端淳平「カップルや夫婦が“愛の形”を見直すきっかけになれたら」 グアムで撮影した新ドラマ「私があなたといる理由」【インタビュー】

ドラマ2025年7月1日

 ドラマ「私があなたといる理由~グアムを訪れた3組の男女の1週間~」が、7月1日からテレ東系で放送がスタートする。本作は、グアムを訪れた世代が違う男女3組のとある1週間を描いた物語。30代の夫婦(蓮佛美沙子、溝端淳平)、20代の大学生カップ … 続きを読む

風間俊介「横浜流星くんと談笑する機会が増えてきたことがうれしい」蔦重と和解した鶴屋喜右衛門役への思い【大河ドラマ「べらぼう~蔦重栄華乃夢噺~」インタビュー】

ドラマ2025年6月29日

 NHKで好評放送中の大河ドラマ「べらぼう~蔦重栄華乃夢噺~」。“江戸のメディア王”と呼ばれた“蔦重”こと蔦屋重三郎(横浜流星)の波乱万丈の生涯を描く物語は、快調に進行中。6月29日放送の第25回「灰の雨降る日本橋」では、浅間山の噴火によっ … 続きを読む

栗田貫一「今回はルパンたちが謎の世界に迷い込んで謎の敵と戦って、しかも前に倒した連中もよみがえってくるみたいな感じです」『LUPIN THE IIIRD THE MOVIE 不死身の血族』【インタビュー】

映画2025年6月27日

 あのルパン三世が、約30年ぶりに2Dの劇場アニメーションとして帰ってくる。舞台は地図に載っていない謎の島。お宝を狙って乗り込んだルパン一行を待ち受けていたのは正体不明の存在だった。前代未聞のスケールで描かれ、全ての「ルパン三世」につながる … 続きを読む

光石研、大倉孝二「ちょっと重いけれどちゃんとエンターテインメントになっていると思います」『でっちあげ ~殺人教師と呼ばれた男』【インタビュー】

映画2025年6月27日

 日本で初めて教師による児童へのいじめが認定された体罰事件を題材にした福田ますみのルポルタージュを三池崇史が映画化した『でっちあげ ~殺人教師と呼ばれた男』が6月27日から全国公開された 。本作の主人公・薮下誠一(綾野剛)が勤める小学校の校 … 続きを読む

【週末映画コラム】『トップガン マーヴェリック』と兄弟のような『F1(R)/エフワン』/過酷な救急医療現場にリアルに迫った『アスファルト・シティ』

映画2025年6月27日

『F1(R)/エフワン』(6月27日公開)  かつてF1ドライバーとして活躍したソニー・ヘイズ(ブラッド・ピット)は、今は身を持ち崩し、フリーのレーサーとしてさまざまなレースに出場していた。だが、最下位に沈むF1チーム「エイペックス」の代表 … 続きを読む

Willfriends

page top