西島秀俊「大森作品に出てみたかった」大森立嗣監督「西島さんに助けられている感覚があった」日本映画界を支える2人が初タッグ 『グッバイ・クルエル・ワールド』【インタビュー】

2022年9月14日 / 08:00

 全国公開中の『グッバイ・クルエル・ワールド』は、やくざから大金を奪った強盗団のメンバーと、復讐(ふくしゅう)に燃えるやくざ組織の対決を描いたスリリングなクライム・エンターテインメント。斎藤工、宮沢氷魚、玉城ティナ、宮川大輔、大森南朋、三浦友和ら、豪華俳優陣が一堂に会した本作の主演は『ドライブ・マイ・カー』(21)、『シン・ウルトラマン』(22)の西島秀俊。そして監督は『MOTHER マザー』(20)、『星の子』(20)など、重厚な人間ドラマを送り出してきた大森立嗣。日本映画界を支える2人が、初めてタッグを組んだ本作の舞台裏を明かしてくれた。

西島秀俊(左)と大森立嗣監督

-アクションを交えたハラハラドキドキのストーリーに、登場人物それぞれのドラマが絡み合った見応えのある映画でした。お二人の記念すべき初顔合わせということで、まずは大森監督が西島さんにオファーをした理由を教えてください。また、西島さんが大森作品に期待したことは何でしょうか。

大森 西島さんのことはずっと、“近いところにいる同年代の俳優”として認識していました。映画と正面から向き合いながらも、大作からテレビドラマまで幅広く活躍し、外に向かって映画を格上げしてくれる力を持っている。もちろん、役者として脂が乗り切っていることは言うまでもありません。だから、ぜひご一緒してみたいとずっと思っていました。ただ、これまで自分の映画で、西島さんに合う役がなかなか見つからなかったんですが、今回はぴったりの役があったので、お願いしました。

西島 大森監督の作品はこれまでずっと見てきましたが、他の監督にはない、登場人物が本当に生きているような生々しさがあるんですね。同じ俳優でも、大森監督の作品とそれ以外で、明らかに演技が違う。そこに興味があり、自分もその演出を受けてみたい、大森作品に出てみたいとずっと思っていました。だから、今回呼んでいただけて、本当にうれしかったです。

-西島さんが演じる元やくざの安西は、家族と静かに暮らしたいと願いながらも、その過去が災いしてうまくいかず、結果的に強盗に走ってしまった人物です。大森監督は、西島さんのどんなところが安西に通じると考えたのでしょうか。

大森 西島さんは大人なんですよね。安西の「家族に戻りたい」という、僕にはやや欠けている部分が、西島さんにはある。それを見事に演じ切ってくれました。

西島 それはうれしい言葉ですね。今は大人になることが難しい時代で、自分でも「どうすれば大人になれるのか」をずっと考えてきたので。

大森 これは、僕の中でいろんなことにつながっているんです。同年代として、西島さんが現場で背負わなければならない立場と、俳優としての能力。好きなことだけやっていればいいのではなく、その両方を背負わなければいけない年代なんですよね。そういうことを敏感に感じ取ってくれる人、という意味でも大人だなと。

西島 そう言っていただけると、本当にうれしいです。

大森 ただ、普段は割と子どもっぽく笑っていますけどね(笑)。

西島 現場ではそうですね(笑)。

-現場を経験して感じたお互いの印象を教えてください。

西島 大森監督の現場では、まだ役者本人もうまく説明できない感情のまま本番に入ります。演じている本人も、まだ登場人物が悲しいのか、怒っているのか、寂しいのか、絶望しているのか、面白がっているのか、よく分かっていない状態を捉えようとしているんだな、と。だから、監督も感情を決めて演出するようなことはないし、むしろ何かを決めつけて演技していると、「それは違う」と徹底的に崩していく。

大森 僕の中では感覚的にやっていることなので、そんなふうに言葉にされることはなかなかないんですけど、思い返してみると、確かにそうですね。例えば、俳優はト書きに「笑う」と書いてあれば笑わなきゃいけない、「涙」と書いてあれば泣かなきゃいけない、と考えがちです。でも僕は、泣きたくなかったら、泣かなくていいよと。カメラの前に立っているのはその俳優であり、半歩踏み出すだけで、その人が向き合っている役に対して、ものすごく内側に入ったような気持ちになるのかもしれない。そういう感覚を知っているのは、演じる本人だけですから。撮影プランは一応考えていきますが、そこから外れても構わないと思って。

西島 それは僕もすごく共感するところで、カメラの前でそんなふうにいたいと思います。実際、僕たちも生きている中で、自分がどんな感情なのか分からないことが多いわけですから。そこに不安を覚える人もいると思いますが、大森組は、常連の方を中心にそれを理解している俳優が集まっていると感じました。

大森 西島さんはそういうことにすぐ気付いてくれましたね。他の作品では、戸惑う俳優もいましたから。しかも、西島さんは引き出しが多いので、こんなふうに演出論も語れるし、現場ではそういう西島さんの考えが他の俳優にも伝わっていく感じがあった。だから、西島さんに助けられているような感覚もあって。

 
  • 1
  • 2

特集・インタビューFEATURE & INTERVIEW

【物語りの遺伝子 “忍者”を広めた講談・玉田家ストーリー】(9)浅間神社で語る「厄よけの桃」

舞台・ミュージカル2025年12月18日

 YouTubeもNetflixもない時代、人々を夢中にさせた“物語り”の芸があった——。“たまたま”講談界に入った四代目・玉田玉秀斎(たまだ・ぎょくしゅうさい)が、知られざる一門の歴史物語をたどります。  前回は、玉田家再興にあたり「三つ … 続きを読む

石井杏奈「人肌恋しい冬の季節にすごく見たくなる映画になっています」『楓』【インタビュー】

映画2025年12月17日

 須永恵(福士蒼汰)と恋人の木下亜子(福原遥)は、共通の趣味である天文の本や望遠鏡に囲まれながら幸せな日々を送っていた。しかし実は本当の恵は1カ月前にニュージーランドで事故死しており、現在、亜子と一緒にいるのは、恵のふりをした双子の兄・涼だ … 続きを読む

染谷将太 天才絵師・歌麿役は「今までにない感情が湧きあがってきた」 1年間を振り返る【大河ドラマ「べらぼう〜蔦重栄華乃夢噺〜」インタビュー】

ドラマ2025年12月15日

 NHKで好評放送中の大河ドラマ「べらぼう〜蔦重栄華乃夢噺〜」。“江戸のメディア王”と呼ばれた“蔦重”こと蔦屋重三郎(横浜流星)の波乱万丈の生涯を描く物語も、残すは12月14日放送の最終回「蔦重栄華乃夢噺(つたじゅうえいがのゆめばなし)」の … 続きを読む

「べらぼう」ついに完結! 蔦重、治済の最期はいかに生まれたか?「横浜流星さんは、肉体的にも作り込んで」演出家が明かす最終回の舞台裏【大河ドラマ「べらぼう〜蔦重栄華乃夢噺〜」インタビュー】

ドラマ2025年12月14日

 NHKの大河ドラマ「べらぼう〜蔦重栄華乃夢噺〜」。“江戸のメディア王”と呼ばれた“蔦重”こと蔦屋重三郎(横浜流星)の波乱万丈の生涯を描く物語は、12月14日放送の最終回「蔦重栄華乃夢噺(つたじゅうえいがのゆめばなし)」を持ってついに完結し … 続きを読む

稲垣吾郎「想像がつかないことだらけだった」ハリー・ポッターの次は大人気ない俳優役で傑作ラブコメディーに挑む【インタビュー】

舞台・ミュージカル2025年12月13日

 稲垣吾郎が、2026年2月7日から開幕するPARCO PRODUCE 2026「プレゼント・ラフター」で傑作ラブコメディーに挑む。本作は、劇作、俳優、作詞、作曲、映画監督と多彩な才能を発揮したマルチアーティスト、ノエル・カワードによるラブ … 続きを読む

Willfriends

page top