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ムロさんと長回しで撮っているじゃないですか。だから基本的には、ここにご飯があれば食卓だって分かるから、無理に食べなくても成立する。だけど今回の作品だと、そういうのが通用しない。食べながらせりふを言わないといけない。どこかでせりふを言う出番がくるわけだから、どのタイミングで口に入れるのかをテストで全部計算しておかないといけないんです。ここまで入れちゃうとしゃべれなくなるなとか、ここで飲みこんでおかないとまずいとか。あの長回しにはそれが絶対に必要で、食べ終わっているでしょ、最後に。緊張感がありました。でもあのときは、味はしなかったな(笑)。
台本を初めて読んだときは、僕はまだ東京に住んでいたんですけど、東京で生きていたんでは絶対に理解できない部分、目の前に畑があって、作物を栽培して、それを誰かと共有するとか、隣近所の人と一緒にご飯を食べるとかは、東京では無理だなと思ったんですよ。それを習得するためには、自分から行かないといけないと。そうすることで、一番楽にこの作品に入れると思ったから。もちろん他にもいろいろな理由があるんですけど、この作品も田舎で生活するようになった一因です。東京では発見できなかったことをたくさん発見しました。どれだけコミュニケーションが大事なのかということもそうだし、お金のやりとりではなくて労働力のやりとりだったりするんですよ。それって人間の営みの原点。東京だと菓子折りだとか、結局お金の交換なんですよね。そこの違いははっきりと感じました。この映画では労働で補完し合っているから、健康的だなと思います。田舎に移り住んだことが、この映画に生きている気がします。
僕はこういう近所付き合いはできなかったし、それぞれが理想とする生活を追い求めている感じがした。その情熱とか強さみたいなものは東京にいるときは周囲には感じていた。意見もちゃんと持っているし、頭もいいし、強い感じ。だけど、自分にできない部分、弱い部分を強さでカバーしているような気もしていた。それができなかったらお金で解決するという。だけど田舎では、自分の理想を追うというよりは、みんなで助け合って生きていく。みんなで田植えをしながら歌いながら生活している。「疲れたなぁ」と言いながら一日が終わって、ぐっすり寝て、また次の日が朝早くから始まる。今は機械とか使っちゃっているからあれなんですけど、農家同士のコミュニケーションとか、異業種間の関わり方も同じ地平にあるというか、上とか下がない。その中でコミュニティーが出来上がっていて、そこで不義理をしたら仲間外れにされますけど、東京だとそんなことはない。個で生きている感じがするから。
朝起きてみんなで朝ご飯を食べているときとか、子どもの起きたての顔を見るのとか。逆に、帰宅して夕飯を食べて、みんなが寝静まったときの子どもの寝顔だとか、子どもがエネルギー源ですね。あとは、自分が収穫した食べ物を家族においしいって言われることもそうで、いっぱいありますよ。それがずっと続いている状態。すごく幸せで、感謝しています。
(取材・文・写真/外山真也)
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