『神は見返りを求める』吉田恵輔監督「自分は何か欠けているものが好きなんだなと」映画界注目の監督がYouTuberの世界を描く異色のラブストーリーに込めた思い【インタビュー】

2022年6月23日 / 08:00

-なるほど、そうでしたか。では逆に、普段の作品で家族を登場させることに何かこだわりはあるのでしょうか。

 自分でホンを書く以上、自分の何かを切り売りしているようなものなので、気付かないうちに自分の中の何かが出ているんでしょうね。逆に、出ないとあまり面白くならないでしょうし。そういう意味では、監督6作目ぐらいのとき、取材で「吉田さんの描く家族がいつも片親なのはなぜですか?」と聞かれたことがあったんです。でも、全然自覚がなかったので、フィルモグラフィーを振り返ってみたら、確かに両親そろっている映画がない。だいたい母親がいなくて、女の子でも男の子でも、ほとんどお父さんと暮らしているパターンばかりで。

-前作『空白』もそうでしたね。

 そうですね。それで、母親不在の理由を考えているうちに気付いたのが、自分が子どもの頃、家族がそろっていた記憶がないんです。両親と一緒に食事した記憶も、6、7歳ぐらいまで。だから、自分の中では誰かがいないのが、自然な家族の風景なんだな、と。一本だけならまだしも、全部だと思ったら、さすがにぞっとしましたけど(笑)。それだけ俺にとって、家族の欠落って根深いものなんでしょうね。

-「家族の欠落」と「成就しなかった恋愛」には通じるものがある気がします。

 何か欠けているものが好きなんでしょうね。その欠落を埋めようとするんだけど、埋まるとやっぱり面白くない。自分が欲しかったものとか、行きたかった場所とか、そういうものを手に入れた瞬間、不思議なことに、いつも「こんなものか」と思っちゃうんです。だから、経験を積めば積むほど、面白さが減っていきますよね。その対策として、いろんなことに挑戦しようと思って、毎年「やらなくていい100のこと」というリストを作って、日々どうでもいいことをこなしています(笑)。

-この作品にはYouTuberやネット社会を風刺する側面がありますが、同時に吉田監督は「YouTuberに対するリスペクトを込めた」ともコメントしています。本作を通じて、ネット社会やYouTuberに対する考えは変わりましたか。

 俺も古い人間なので、ちょっと前まで「新しいコンテンツは認めたくない」みたいな気持ちがあったんです。でも、その世界の可能性に気付いたら、いつの間にかめちゃくちゃ見るようになっていて。そうすると、第一線の人たちが相当な努力をして、才能もあることが分かってくる。映画も生まれた直後は、舞台の人間から「落ちぶれた役者が出るもの」と低く見られていたことを考えると、歴史はそんなふうに新しいコンテンツを見下すところから始まるんだな、と。それに気付いてからは、できるだけフラットな目線で見なきゃ、と考えるようになりました。でも根っこには、「映画は新しいコンテンツに負けない」みたいな気持ちもある。その共存する感じが、この映画を作る上ではちょうどよかったんでしょうね。

-ただ風刺をしているだけではないと?

 そうですね。そういう変化はどんどん早くなっていくはずなので、「そんなもん興味ねえよ」とばかにして守りに入るより、共存してお互いのいいところをトレースし合う方がいいんじゃないかと。だから俺も、最近は頑張ってTikTokを見るようにしています。気付くと、結構見ている上に、自分用にカスタマイズされていって、次々と興味のある動画が上がってくる。よくできたシステムだなと。そんなふうに、興味のないこともなるべくやってみるようにしています。

(取材・文・写真/井上健一)

(C)2022「神は見返りを求める」製作委員会

 

  • 1
  • 2
 

特集・インタビューFEATURE & INTERVIEW

前田旺志郎「世の中に関心を持つ大切さに気付いた」窪塚愛流「止まっていた時間が動き出した」初共演の2人が福島原発事故を題材にした映画で感じたこと『こんな事があった』【インタビュー】

映画2025年9月16日

-お芝居に悩んだり、難しさを感じたりすることはありませんでしたか。 前田 たくさんあります。でもその都度、松井監督と相談しながら進めていきました。迷ったときは、松井監督を信じればいい、という信頼関係が出来上がっていたので。 窪塚 松井監督は … 続きを読む

グイ・ルンメイ、真利子哲也監督「お互いが思い合うからこそすれ違う。でもそこには愛があるという家族の形を描きたかった」『Dear Stranger/ディア・ストレンジャー』【インタビュー】

映画2025年9月12日

-ルンメイさん、夫・賢治役の西島秀俊さんの印象はいかがでしたか。 ルンメイ 今回西島さんと一緒にお仕事ができたことはとても光栄でした。西島さんは経験豊かな方なので、私は現場でとても安心して演技をすることができました。西島さんがいろんなエネル … 続きを読む

【物語りの遺伝子 “忍者”を広めた講談・玉田家ストーリー】(3)無鉄砲小僧、恐れを知らぬ行動力

舞台・ミュージカル2025年9月12日

 YouTubeもNetflixもない時代、人々を夢中にさせた“物語り”の芸があった——。“たまたま”講談界に入った四代目・玉田玉秀斎(たまだ・ぎょくしゅうさい)が、知られざる一門の歴史物語をたどります。 ▼無鉄砲小僧、恐れを知らぬ行動力 … 続きを読む

北村匠海 連続テレビ小説「あんぱん」は「とても大きな財産になりました」【インタビュー】

ドラマ2025年9月12日

-小学生の頃、絵画教室に通われていたそうですが、演じる上で役立った部分はありますか。  僕は子どもの頃から、絵画教室に通ったり、自宅では粘土で架空のモンスターを作ったりしていました。そういう創作を楽しむ部分は、嵩に通じるものがありました。前 … 続きを読む

中山優馬「僕にとっての“希望”」 舞台「大誘拐」~四人で大スペクタクル~の再始動で見せるきらめき【インタビュー】

舞台・ミュージカル2025年9月11日

-なるほど。そうして前に進んだ先に、どんな未来をイメージしていますか。  先のことはあまり考えていないです。友達たちが家を建てたり、子どもが生まれたりしているのを見ると、そうした未来を自分が持ったらどうなるんだろうなと考えることはありますが … 続きを読む

Willfriends

page top