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【インタビュー】舞台「醉いどれ天使」桐谷健太 12年ぶりに舞台に挑む「ライブ感を楽しんで演じたい」

 巨匠・黒澤明監督とその多くの作品に主演した三船敏郎が、初めてタッグを組んだ映画『醉いどれ天使』(48)が舞台化され、9月3日から上演される。本作は、先が見えない終戦直後の日本を舞台に、闇市を支配する若いやくざ・松永と、酒好きで毒舌な貧乏医師・真田がぶつかり合いながら、明日に向かって歩みを進めようとする姿を描く。松永を桐谷健太が、真田を高橋克典が演じ、演出は三池崇史が務める。三船が演じた松永に新たに息を吹き込む桐谷に、公演への意気込みを聞いた。

松永役の桐谷健太 (C)エンタメOVO

-本作の出演が決まった心境は?

 実は、三池さんが夢に出てきたことがあったんです。(夢の中で)「よろしく」と声を掛けられたので、僕も「どうも、よろしくお願いします」と返事をして、そこでそのときの夢は終わったんですが、すごく印象に残っていたので覚えていました。そうしたら、その1週間後ぐらいに、この作品のお話を頂いたんです。つながったなと僕の中では納得感がありましたし、ぜひやらせていただきたいと思いました。

-映画と舞台とでは、芝居も変わってくるとは思いますが、三船さんが演じた役を演じることにはプレッシャーはなかったですか。

 僕は誰が演じたからということはあまり考えないです。時代も違いますし、今回は脚本も蓬莱(竜太)さんが書いていて、映画とはまた違った素晴らしさのある脚本になっているので、自分は自分の松永を演じるという思いです。

-桐谷さんにとって、本作は約12年ぶりの舞台出演になりますが、久しぶりの舞台ということについてはどのような思いがありますか。

 意外と力みはないです。どう変わっていくんだろう、どうなっていくんだろうという楽しみの方が強いです。(取材当時)まだ稽古も始まってないので、どうなるのかは分かりませんが、今現在は、その時を生きて、ライブ感を大切に演じたいと思っています。もちろん、そのためにも稽古をして積み上げていくことが大事になりますが、例えば、公演中にその時々で感じるものを素直に出したいと思います。その瞬間、その公演でしか出せない松永があっていいと思うので、「その時」を大切に演じたいです。

-その瞬間を生きるためにも、根本となる役作りが大事になるかと思いますが、どのように役を作っていこうと考えていますか。

 もちろん、当時の資料を読んだり、戦争経験のある方のお話を読んだり聞いたりもしたいとは思っていますが、あまりこうだと決めつけ過ぎずに、挑戦的に挑みたいと思います。ビジュアル的なことも含めて、あまり決めつけてしまうと面白みが減ってしまうのではないかという思いもあるんです。舞台なので、自分の中で余白があって、それが時には埋まったり、普段と違うところが埋まったりとなったら面白いんだろうなと。今回は、演出が三池さんということもあって、決められたことを毎公演、同じようにやるというよりも、自分の中で新鮮な気持ちで楽しんで演じたいと思います。

-蓬莱さんの脚本を読んで、舞台版の魅力をどこに感じましたか。

 映画では、その時代を生きる人だからこそ分かることもすごくたくさんあったと思います。なので、現代を生きる僕たちが見たときに、これはなんだろうと思うところもあると思うのですが、蓬莱さんの脚本では、そういった現代の僕たちにはピンとこなかったところまでしっかりと描いているので、スッと染み込んできます。

-本作では、真田役の高橋さんと絡むシーンが多いと思いますが、高橋さんの役者としての印象は?

 不器用で口も悪くて酒好きな真田という役ですが、高橋さんの優しい笑顔が真田にもう一つの魅力を与えてくれると思います。僕は、高橋さんとお芝居で共演するのは初めてなので、まだまだ未知数だらけですが、だからこそ楽しみしかありません。

-今回はコロナ禍での上演になりますが、それについてはどんな思いがありますか。

 正直なところ、僕はコロナ禍ではないときにも、明治座のような劇場の舞台に立ったことがないので、どうなるのかは分からない部分もあります。ですが、いろいろな思いを抱えて来てくださるお客さまがたくさんいらっしゃると思うので、僕は役者として稽古に真摯(しんし)に臨んで、前向きに向き合っていきたいと思います。

-では、コロナ禍を通して、芝居や俳優という仕事に対する思いに変化はありましたか。

 俳優の仕事に対してということだけではありませんが、昨年の自粛期間は、自分のことを見つめられる期間にはなったと思います。その時間は自分を大きくしてくれたと思いますし、自分にとってはすごく必要だった時間でもあったとも思います。もちろん、大変な時期でしたし、いろいろな思いを抱えていらっしゃる方がいるので、一概に手放しでいい期間だったとも言えませんが。

-本作のオフィシャルサイトで公開されている動画コメントの中で、桐谷さんは、松永は「なぜ生かされているかということを考えている」と話していますが、桐谷さん自身が生きていると感じる瞬間は?

 お芝居をしていて楽しいときは、まさにそうです。それから、散歩をしていてもめちゃくちゃ幸せな気分になれますし、大好きな人たちと一緒にいる瞬間もそうです。生きてるな、幸せだなと思う瞬間はたくさんあります。

-散歩が好きなんですね!

 特に何も決めずに、大きな公園を歩いたり、思うままに歩きます。歩いている最中に台本のことを考えると、素直に入ってくることも多いんですよ。散歩でリフレッシュしているというよりも、僕にとっての大事な軸にもなっています。

-改めて、公演への意気込みを。

 舞台は生ものなので、一公演一公演違った味があり、映画とはまた違った魅力的な作品になると思います。お客さまが劇場を後にしたときに、空の見え方が変わっていたり、幸せに生きようと感じてもらえるような作品にしたいと思っています。松永として生きるだけでなく、お客さまにエネルギーを与えられるよう頑張りますので、ぜひ劇場で見ていただけたらうれしいです。

(取材・文・写真/嶋田真己)

舞台「醉いどれ天使」

 舞台「醉いどれ天使」は、9月3日〜20日に都内・明治座、10月1日〜11日に大阪・新歌舞伎座で上演。

公式サイト https://www.yoidoretenshi.jp

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