【インタビュー】映画『ピーターラビット2/ バーナバスの誘惑』ウィル・グラック監督「今回は、アイデンティティー、裏切り、父親捜しという、三つの要素がとても重要でした」

2021年6月21日 / 06:27

 ビアトリクス・ポター作の『ピーターラビット』を初めて実写映画化した前作から3年、『ピーターラビット2/バーナバスの誘惑』が、6月25日から公開される。今回はピーターが、自分の居場所を見失い、生まれ育った湖水地方から飛び出して都会で過ごす様子が描かれる。前作から引き続いて監督したウィル・グラックに話を聞いた。

ウィル・グラック監督

-前回(3年前)のインタビューの際に、「続編については、まだ何も決まっていない。何かいいアイデアがあれば教えて」と言っていましたが、前作よりもパワーアップしていて驚きました。どうやってアイデアをひねり出したのでしょうか。

 アイデアがどこから湧いたのかは僕にも分かりません(笑)。ただ、新たなエピソードとしての続編ではなく、前作の物語が続いているようなものにしたいと思いました。ピーターは、前作から1歳半か2歳ぐらい年を取っていますが、まだティーンエージャーです。だとすると、どんなことについて葛藤するのだろうかと考えました。そこで、今回はピ―ターのアイデンティティーの発見についてが大きなテーマになりました。この先もシリーズを続けることができるなら、ピーターやその家族の年齢に合わせた問題を描いていきたいと思います。

-監督は、前作のテーマは、「家族が一番大事だということ」だと言っていましたが、今回、マグレガー(ドーナル・グリーソン)とビア(ローズ・バーン)を結婚させたことで、そのテーマがさらに強調されたと感じました。

 今回は、ピーターのアイデンティティーの発見と、彼とマグレガーが、互いを、父と息子だと気付く旅を描いています。家族と言っても、古典的な構造ではなく、今世界中にはいろいろな家族の形があるので、その多様さを表現したつもりです。

-確かに、今回は、ピーターのアイデンティティーの発見と、彼の父親代わり(バーナバスとマグレガー)を巡る話だとも言えますね。

 その通りです。今回は、アイデンティティー、裏切り、父親捜しという、三つの要素がとても重要でした。それらの全てが、ピーターが自分が何者であるかを見つける道のりに通じています。ただ、ピーターの父親となるマグレガーは、初めから彼の目の前にいたわけですし、逆にマグレガーとっても息子は目の前にいたのです。人間は、いくら人から何かを言われても、実際に経験してみないと理解できないところがあります。もちろん、その経験の中にも間違いはあるわけで、それが他人から見るとこの映画のようにユーモラスに映るのかもしれません。でも、それを通してピーターは学んだわけです。ただ、学んだからといって彼がパーフェクトに、いいウサギになっているわけではありませんが…(笑)。

-今回は、都会と湖水地方との対比が面白く描かれていましたが、これはハリウッド映画によくある「田舎者が都会に行く」というパターンを踏襲したのでしょうか。

 確かにそういうパターンは頭の中にありました。ただ、ピーターも田舎から街に行きますが、それは大都市ではなく小さな街に、ということは意識しました。それであのグロスターという街を選びました。人間は感覚的に大きな街だと感じますが、ピーターたちにとっては、肉体的にも感情的にも危険がひそむ場所なんです。実際に彼はそこで詐欺師と出会うわけですから。この物語を通して、都会と田舎のどちらがいいとは言っていませんが、都会には危険もあるということは言っています。

-このシリーズの面白さの一つに、動物たちのキャラクター設定があると思います。今回は新たにバーナバスたちが登場しましたが、前回、監督が「娘の言葉から作ったキャラクターで一番のお気に入り」だと言っていたニワトリのルースターも健在でした。キャラクター作りに何かポリシーはありますか。

 特にポリシーはありませんが、大切なことが二つあります。それは、物語のためにちゃんと成立しているのかということと、劇中にそのキャラクター自体の見せ場がちゃんとあるのかということです。だから、そのキャラクターが、他のキャラクターのための小道具になるような使い方や造形はしないと決めています。今回のバーナバスにも、ルースターにもちゃんと物語があります。それから、これはちょっと信じてもらえないかもしれませんが、僕は、この映画の中で最も大きな旅をしたのは、ルースターではないかと思っています(笑)。彼の道のりは、宗教について理解していく一種の寓話(ぐうわ)なんです。だから、個人的には彼を描くことは、とても楽しい作業でした。

-今回は、日系人の女の子が登場し、京都から東京への遷都に関する話題が出るなど、日本についての話題が見られました。これはご自身がかつて日本に住んだことが反映されているのでしょうか。

 普段から、自分が経験したことを映画に反映させることはしているので、今回もそうだったと思います。ただ、実は遷都の話題はもっと長かったのですが、時間的な問題でカットしました。また、僕の母は教授で、日本の明治時代に関する著書があるので、それを映画の中に入れたかったのですが、場所が見つからず、最終的には、出版社の社長のデスクの上にそっと置きました。

-では、監督が抱く日本に対する印象は?

 日本に住んでいたのは子どもの頃だったので、故郷みたいに感じるところもありますが、前回の来日まで、長い間訪れる機会がなかったので、今回のピーターが、田舎から大きな街に行って感じたのと同じように、大きく変化した印象を持ちました。

 
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