【インタビュー】「スリル・ミー」松岡広大&山崎大輝が見せる“生の衝動”「危うさやもろさ、稚拙さを表現できれば」

2021年3月30日 / 08:00

 1920年代に実際に起こった、凶悪な伝説的犯罪を土台にした綿密な心理劇「スリル・ミー」が4月1日から上演される。出演者は、“私”と“彼”のたった2人。舞台上には、1台のピアノが置いてあり、その美しいメロディーとともに、濃厚な時間が紡がれる。世界中で何度も上演されてきた本作だが、日本では2011年の初演以降、再演を重ねている。今回の公演では、田代万里生・新納慎也、成河・福士誠治、松岡広大・山崎大輝の3ペアによって上演される。10年の節目に実施されたオーディションで選ばれた、フレッシュな松岡と山崎に、本作への意気込みを聞いた。

松岡広大(左)と山崎大輝

-オーディション前に本作をご覧になっていると思いますが、どこに魅力を感じましたか。

松岡 この作品は、ブロードウェーでは、実在の人物の名前をそのまま使って演じられるのですが、日本では「私」と「彼」という役名です。固有名詞を避けることによって、普遍的なものを描いていると感じました。誰にでも当てはまる物語ではないと思いますが、「私」と「彼」の衝動や一過性の感情などは感じたことや考えたことがある人も多いのではないかと思います。

山崎 魅力がたくさん詰まった作品だと思いますが、広大くんが言ったように、役柄にあえて名前を付けないことで、実際にあった事件であるという以上に、皆さんに訴え掛けるものがあると思います。もちろん、歌などの直感的に楽しめる魅力もあります。

-「私」を松岡さん、「彼」を山崎さんが演じますが、オーディションのときから自分はこの役だという確信がありましたか。

松岡 ありました。台本を読んで、僕は「彼」ではないな、と。まず、身長的なものもありますし(笑)。それに、心情的にも「私」に通ずる何かがあるとは思いました。僕も誰かに追随することが多いんです。それで流されてしまうこともあるので、そういう意味では共感をできるところもありました。

山崎 僕も、自分は「彼」だろうと感じながらオーディションを受けました。「彼」の、一つのことを信じ抜いてしまう、この作品ではあえて「しまう」という言い方をしますが、そんなところは共感できる部分もあります。それから、「彼」はあまのじゃくなところがあって、「私」を邪険に扱っているにも関わらず、離れたいわけじゃなかったり、結局どこかで必要としていたりという複雑な内面を持っていますが、そこも理解できました。

-現在(取材当時)、稽古中とのことですが、どのようなところを意識してそれぞれの役を演じていますか。

松岡 技巧に走らないことです。先日、(演出の)栗山(民也)さんから、僕たちは3ペアの中で一番若いので、「生の暴走・若さの暴走」を表現してほしいというお話がありました。テクニックや演じる技術に走らずに、「リアリズム」ではなく「リアル」にしたいと思っています。

山崎 僕は、全編において、表には見えない駆け引きやお互いの腹の探り合いが大事だと思っています。たとえ、観客の皆さんにその駆け引きが直接は伝わらなかったとしても、僕たちが表には出ないところで、どれだけ駆け引きをしているかによってこの作品の面白さは変わってくるんだと思います。なので、そこは意識して演じたいです。

松岡 そういう意味では、説明し過ぎないことも大事だよね。この作品は、余白や余裕があった方がいいと思うので、僕たちは分かりやすくはしません!

-松岡さん&山崎さんペアならではの個性や魅力はどこにあると思いますか。

松岡 やっぱり「若さ」はあると思います。

山崎 「彼」も「私」も未熟な部分があるので、そこは若いからこそ表現しやすいと思います。もちろん、僕たちが未熟だということもありますが。

松岡 それから、危うさやもろさ、稚拙さを表現できればいいなと思います。彼らを忠実に、うそがないように演じたら、きっとそうなると思っています。

-2人芝居で、ステージに出続けたままの100分の芝居というのは大変なことも多いと思いますが、実際にどんなところに苦労していますか。

松岡 水が飲めないことです(笑)。大輝くんはちょこちょこ袖に戻るので水を飲んでいますが、僕は本当に飲めない(笑)。それから、2人で起承転結を作らなければいけないので、集中力と相手のせりふを聞く傾聴力、感じる力が必要だと改めて感じています。

山崎 僕は袖にはけるので水は飲めますが(笑)、でもそこでピンと張っていたものが緩んでしまう感覚があるので、それは大変なところです。この作品は、「私」が「こんなことがありました」と話した後に場面が飛んで、時も場所も変わるというシーンがあります。はけている短い時間に、自分の中で切り替えて「彼」としてステージに戻らなければならないので、自分の中での戦いでもあります。

松岡 瞬発力というか、俳優の想像力が必要になるよね。そこは難しいところではありますが、演じていて楽しい部分でもあります。

 
  • 1
  • 2

特集・インタビューFEATURE & INTERVIEW

吉田恵里香氏 憲法第十四条は「人間らしく生きるためのスタートライン」 「虎に翼」脚本家が作品に込めた思い(後編)【インタビュー】

ドラマ2024年9月15日

 NHKで好評放送中の連続テレビ小説「虎に翼」。女性として日本で初めて法曹界に飛び込んだ主人公・佐田寅子(伊藤沙莉)の物語は、まもなくクライマックスを迎える。数十年前の戦前から戦後の昭和を舞台にした物語は、私たちが生きる現代にも重なり、大き … 続きを読む

吉田恵里香氏「みんなが自分の望む場所に立てることが大切」 「虎に翼」脚本家が作品に込めた思い(前編)【インタビュー】

ドラマ2024年9月15日

 NHKで好評放送中の連続テレビ小説「虎に翼」。女性として日本で初めて法曹界に飛び込んだ主人公・佐田寅子(伊藤沙莉)の物語は、まもなくクライマックスを迎える。「女性の社会進出」や「女性の生きづらさ」を描いた物語は、数十年前の戦前から戦後の昭 … 続きを読む

「光る君へ」第三十四回「目覚め」一条天皇との関係に悩む中宮・彰子に訪れた変化の兆し【大河ドラマコラム】

ドラマ2024年9月14日

 NHKで好評放送中の大河ドラマ「光る君へ」。9月8日に放送された第三十四回「目覚め」では、興福寺の僧侶たちによる騒動や「曲水の宴」といった出来事を通じ、これまで、夫である一条天皇(塩野瑛久)との関係に悩む中宮・彰子(見上愛)に変化の兆しが … 続きを読む

【週末映画コラム】どちらもだまされる楽しさが味わえる『ヒットマン』/『スオミの話をしよう』

映画2024年9月13日

『ヒットマン』(9月13日公開)  ニューオーリンズで暮らすゲイリー・ジョンソン(グレン・パウエル)は、大学で哲学と心理学を教える傍ら、偽の殺し屋に扮(ふん)して依頼殺人の捜査に協力していた。普段はさえないゲイリーが、「顧客」に合わせたプロ … 続きを読む

鈴木伸之「何かを諦めてしまった人や挫折した人に響く作品にしたい」 戦力外通告を受けた元プロ野球選手役【インタビュー】

ドラマ2024年9月13日

 鈴木伸之が主演するドラマ「バントマン」(東海テレビ・フジテレビ系)が10月12日23時40分から放送スタートする。  本作は中日ドラゴンズの全面協力で実現したスポーツ・エンターテインメントドラマ。元プロ野球選手の主人公・柳澤大翔(鈴木)が … 続きを読む

Willfriends

page top