【インタビュー】映画『裏アカ』瀧内公美 SNSの裏アカウントにハマる主人公を熱演「演じているうちに、自分と真知子がリンクしていった部分があった」

2021年4月1日 / 08:00

 今や私たちの生活と切り離せない存在となったSNS。コミュニケーションツールとして便利な一方、そこでの発言が社会問題化することも少なくない。そのSNSを題材に、素性を隠して本音をさらけ出す“裏アカウント”、すなわち“裏アカ”にハマっていく女性の姿を赤裸々につづったセンセーショナルな人間ドラマ『裏アカ』が、4月2日から全国公開される。仕事や日常でストレスをため込み、ふとしたきっかけで“裏アカ”に手を出す主人公・伊藤真知子を、迫真の演技で表現したのは瀧内公美。キネマ旬報ベスト・テン主演女優賞をはじめ、数々の賞に輝いてきた実力派女優が、「自分と真知子がリンクしていった」と語る撮影の舞台裏を明かしてくれた。

瀧内公美

-この作品のどんなところに魅力を感じて出演を決めたのでしょうか。

 私自身は「自分を表現するのは作品の中で」と考えているので、発信するものに関するSNSは利用していません。ただ、SNSは今、社会問題になるほど影響力の強いものです。そこから感じとるものが自分にとって実感のない感情だからこそ、その渦中の人物を演じることは、自分の考えの幅を広げてくれるのではないか。そう思ったことが、この作品に参加した大きな理由です。作品は、自分が体感したことのない感情に出会えるチャンスでもあり、遠ければ遠いほどやりがいはありますし、いろんなことを知るきっかけにもなりますから。

-ご自身とかけ離れた真知子という女性を演じるに当たって、どんなふうにアプローチをしましたか。

 まず、SNSに関しては完全に初心者だったので、助監督の方たちと一緒に勉強させてもらいました。Twitterとインスタグラムが劇中に出てくるので、実際に登録をして、どんなふうに発信するのか、みたいな使い方の基本からです(笑)。

-映画を見ていると、とても初心者とは思えませんね。

 ありがとうございます。ただ、SNSを使えるようになっても、役自体にリアリティーがないと意味がないので、アパレル業界で働いている真知子を演じるに当たっては、実際にアパレル企業も取材させていただきました。どんな仕事をされているのか、SNSとアパレルの関係性みたいなものも聞かせてもらったり。レセプションパーティーの場面もあるので、監督と一緒にそういうパーティーに行き、その雰囲気を見せていただいたりもしました。

-脚本についてはいかがでしょうか。

 1カ月半ぐらい監督と話し合い、何度も推敲(すいこう)を重ねました。もともとは、もっとドラマティックな感じだったんです。でも、もうちょっとリアリティーを持たせたかったので、ふとしたことから始めるということと、小さな積み重ねを大切にしたいと。ごく普通の人なのに、いきなりフォロワー数がバーンと増える、みたいなことは滅多にないでしょうから、緩やかに伸びていくことに喜びを感じるさまを丁寧にやっていきたいと思って。

-監督も脚本も男性ですが、女性として違和感はありませんでしたか。

 男性目線だと思った点に関しては、「私だったらこう感じます」とお伝えしました。助監督や他のスタッフにも女性がいらっしゃったので、皆さんの意見も聞きながら脚本をブラッシュアップしていったような感じです。違和感みたいなものは少しずつ取り除けたように思えます。

-真知子がハマっていったSNS上の承認欲求については、どんなふうに感じましたか。

 こういったこともあるんだろうな、とは思いました。SNSで発信する立場にある人なら、大なり小なり持ってしまう感情だろうな、と。

-真知子の気持ちは分かるけど、ご自身としては、そこから一歩引いた距離感でいたということですか。

 そうですね。客観的に見て、なぜ彼女がそれに対して悩むのか、なぜのめり込んでいくのか…。何を求めているのか、どうしたいのか、ということを客観的に考えて、だからこういう行動になっているんだな、と脚本を読み解いていきました。

-そうすると、自分と距離があっても、演じる上では違和感はなかったのですね。

 でも、やっぱり難しかったです。自分に実感のないことばかりだったので。

-それをお芝居に落とし込んでいくには、どんなふうにしたのですか。

 ひたすら想像していきました。「自分だったらどうかな…?」と置き換えて。それがないときは、身近なところから「誰かこういう人いなかったかな」と探っていった感じです。漠然と“演じる”だと、ホンに書かれたまま、せりふを言うだけになってしまいますが、生意気かもしれませんが、私はいつも「役を生きる」ってなんだろうなって考えることが多くて。生きていれば、人っていろんなことを考えますよね。だから、「何を考えているのかな…?」というところから想像することを心掛けました。

-その結果、演じてみた手応えは?

 撮影は2年前だったんですけど、今回、久しぶりに見てみたら、私自身が不安定なのが分かるんです。やっぱりこの中にいたとき、そういうふうになっていったんだろうな…と。客観的に見て、そう感じました。あのときは、本当に必死だったので…。自分でもSNSのことがあまりよく分かっていないし、真知子も自分の人生が分からなくなってきている。演じているうちに、それが自分の中でリンクしていった部分があったのかな…と。

 
  • 1
  • 2

特集・インタビューFEATURE & INTERVIEW

板垣李光人「最初から、戦争を考えて見るのではなく、実際に見て感じたことを広めていっていただければ、それが一番うれしいです」『ペリリュー ―楽園のゲルニカ―』【インタビュー】

映画2025年12月5日

 戦争がもたらす狂気を圧倒的なリアリティーで描き、第46回日本漫画家協会優秀賞を受賞した武田一義の戦争漫画をアニメーション映画化した『ペリリュー ―楽園のゲルニカ―』が12月5日から全国公開された。太平洋戦争末期、激戦が繰り広げられたペリリ … 続きを読む

【物語りの遺伝子 “忍者”を広めた講談・玉田家ストーリー】(8)百年ぶりの復活へ 四代目が掲げた三つの大願

舞台・ミュージカル2025年12月4日

 YouTubeもNetflixもない時代、人々を夢中にさせた“物語り”の芸があった——。“たまたま”講談界に入った四代目・玉田玉秀斎(たまだ・ぎょくしゅうさい)が、知られざる一門の歴史物語をたどります。    2016年に四代目・玉田玉秀 … 続きを読む

多部未華子「学びの多い現場でした」DV被害者役に挑んだヒューマンミステリー「連続ドラマW シャドウワーク」【インタビュー】

ドラマ2025年12月1日

 WOWOWで毎週(日)午後10時より放送・配信中の「連続ドラマW シャドウワーク」は、佐野広実の同名小説を原作にしたヒューマンミステリー。  主婦の紀子は、長年にわたる夫の暴力によって自己喪失し、すべて自分が悪いと考えるようになっていた。 … 続きを読む

森下佳子「写楽複数人説は、最初から決めていました」脚本家が明かす制作秘話【大河ドラマ「べらぼう〜蔦重栄華乃夢噺〜」インタビュー】

ドラマ2025年12月1日

 NHKで好評放送中の大河ドラマ「べらぼう〜蔦重栄華乃夢噺〜」。“江戸のメディア王”と呼ばれた“蔦重”こと蔦屋重三郎(横浜流星)の波乱万丈の生涯を描く物語は、まもなくクライマックスを迎える。これまで、いくどとなく視聴者を驚かせてきたが、第4 … 続きを読む

富田望生「とにかく第一に愛を忘れないこと」 村上春樹の人気小説が世界初の舞台化【インタビュー】

舞台・ミュージカル2025年11月30日

 今期も三谷幸喜の「もしもこの世が舞台なら、楽屋はどこにあるのだろう」に出演するなどドラマや映画で注目を集め、舞台やさまざまなジャンルでも活躍する富田望生。その富田が、2026年1月10日から上演する舞台「世界の終りとハードボイルド・ワンダ … 続きを読む

Willfriends

page top