俳優・向井理が、劇作家・演出家、赤堀雅秋と初タッグを組む舞台「美しく青く」の上演が決定した。映画やドラマで活躍するほか、劇団☆新感線『髑髏城の七人 Season風』など舞台作品にも積極的に出演している向井が熱望した赤堀とのタッグで見せるのは、懸命に生きる市井の人々。仮設住宅を舞台に繰り広げられる人間ドラマを、繊細に、そして深みを持って描く。主人公となる、どこにでもいる普通の青年を演じる向井に、本作への意気込み、そして舞台作品に出演することへの思いを聞いた。
-念願の赤堀作品出演とお聞きしています。出演が決まった気持ちを改めてお聞かせください。
赤堀さんの作品は、ずっと拝見していました。きっと、こういったコミュニティーの中で生きている人がいっぱいいるんだろうなと感じさせる生々しさと、それが崩壊したときに出てくる本性、抑えていた感情が爆発する瞬間を描いていて、そういった作風に魅力を感じていました。とても繊細に、人間関係や会話を描いていらっしゃるんです。見ていると単純に面白いんですよ。でも、これは赤堀さんの作品に限らずですが、演じる側が傷ついて、つらい思いをしているからこそ、面白い作品になっている。傷ついて奔走している人というのは滑稽な面白さもあるし、共感できるところもあって、日常の延長線上にある非日常が見ていて面白いんです。見る側としては。
役者としては、そういった作品に出るというのは、すごく大変で、夜もうなされるぐらいすごくきつい。動物園のおりの中に入るような気持ちなんです(笑)。だから、今回の出演も、単純に楽しみなだけというわけではなく…今は考えないようにしています(笑)。簡単にできるお芝居ではないですし、だからこそやりがいもあるんですが、うれしい、楽しいという言葉だけではない。ただ、ハードルが高い分、それを乗り越えて、千秋楽を迎えたときに、どういう景色が見えるのかなという期待はあります。
-赤堀さんの作品に出演したいという気持ちは、赤堀作品を見る中で、早い段階からあったのですか。
気持ちはありましたが、見ていて大変そうだなと思っていました(笑)。ただ、僕は舞台俳優ではないですし、年に何本もできない分、1本に懸ける思いは自分の中で大きいんです。(その機会を)大事にしないといけないという思いもありますし、舞台でしか分からないものや見えないものがたくさんあるとも思っています。だから、僕にとって舞台は、「やりたい」というよりは「やらなきゃいけない」。やるからには、今は、大変な作品の方がいいと思っていますし、毎回、修行をする気持ちで稽古場に行っています。単純に「やりたい」という思いよりも、それを乗り越えたときに成長しているんじゃないかという期待があるという感じです。
-映像の場合は、舞台のようなきつさはあまり感じませんか。
過程も結果も全然違いますし、演目にもよると思いますが…。でも、舞台の場合は、幕が開いている間中、集中し続けて、舞台の上に居続けないといけないので、人前に立つという緊張感があります。舞台に立っている間はずっと見られているという前提で演じるので、気も抜けない。映像の場合は、撮影で2時間本番を回すことはないので、一瞬の集中力や瞬発力が必要で、それは舞台とはまた使っている回路が違う気がします。
-向井さんにとって、舞台に出演する一番の魅力は?
お客さんが目の前にいるということですね。ドラマの場合には、撮影が終わったそのときに、見ている人の拍手はもらえない。でも、舞台では幕が開いて、閉じるまでの時間をお客さんと共有できるので、一体感をすごく感じますし、反応も分かります。同じ空気を吸っていることを感じるのは、舞台ならではです。
-本作の内容について、お話いただける範囲で教えてください。
今回は、被災地で生活している人たちの物語になっています。この10年で、被災地という言葉が、残念ながら身近になっている印象があります。今の時代においては、被災地もある意味日常で、そこに住んでいる方たちは、例えば仮設住宅で暮らすことが日常になってきているのかもしれない。そして、そこでは、全員が品行方正に生きているかというと、人間である以上、必ずしもそうではないと思いますし、何があっても生きていかなければならない。そこで生きていく人たちを描く物語になると思うので、今までの赤堀さんワールドを継承した作品になると思います。
-共演の田中麗奈さんとは、劇団☆新感線『髑髏城の七人 Season風』でもご一緒でしたね。田中さんの印象は?
田中さんは、とにかく真面目で、お芝居に対しても手が抜けない人だと思います。うそが言えず、つねに全力。新感線のときも、慣れない立ち回りに苦労しながら頑張っているのを見て、刺激を受けました。やはり、舞台の稽古という密な時間を一緒に過ごしてきた人には信頼感が持てます。
-『髑髏城』に続いて、今回も恋人役です。
今回は、前回とは違って割とストレートな恋人役ではあるのですが…でも、田中さんは設定がまた複雑になると思うので、それはそれで大変だと思いますし、髑髏城とは違ったお芝居を見てもらえると思います。ほかにも大倉(孝二)さんや秋山(菜津子)さんとか、舞台では共演したことがない方も多いので楽しみですね。大倉さんや秋山さんは、僕の中では圧倒的に「舞台人」なんですよ。形容できないぐらい尊敬しています。映像ではご一緒しましたが、舞台でしか見えない顔が見られるんじゃないかと楽しみにしています。
舞台の稽古場って、裸でいるようなものなので、どこで悩んで、どこでドッキングしているのか全部見えてしまうんですよ。大倉さんや秋山さんのそういう姿を今まで見たことがないので、稽古場でどうされているのか今から楽しみです。今回も、自分にとって大変な作品になるとは思いますが、出演するからには、いろいろなことを吸収したいですし、大変なことをどう乗り越えていくのかということにやりがいを感じていきたいと思っています。
(取材・文・写真/嶋田真己)
舞台「美しく青く」は、7月11日~28日、都内・Bunkamuraシアターコクーン、8月1日~3日、大阪・森ノ宮ピロティホールで上演。東京公演のチケットは5月19日発売。
公式サイト www.bunkamura.co.jp