【インタビュー】『返還交渉人 いつか、沖縄を取り戻す』井浦新「千葉さんの姿は、沖縄の基地問題を変えていく原動力になるはず」

2018年6月27日 / 12:00

 1972年、太平洋戦争の終結から続いた米国の占領から解放され、沖縄が日本に返還された。その裏で、米国との返還交渉に尽力したのが外交官の千葉一夫だ。近年、新たに公開された資料で明らかになった千葉の姿に迫った宮川徹志のノンフィクション『僕は沖縄を取り戻したい 異色の外交官・千葉一夫』を原案にした映画『返還交渉人 いつか、沖縄を取り戻す』が6月30日から公開される。主人公・千葉一夫を熱演した井浦新が、今なお続く沖縄の米軍基地問題の原点を描いた本作に込めた思いを語った。

千葉一夫役を演じた井浦新

-撮影前に沖縄に行かれたそうですが、どんなことを感じましたか。

 一言で言えば、「怒り」です。沖縄の基地問題にはもともと関心があったので、今までも現地を訪れたことはありました。ただ、この作品が決まってから行った沖縄は、今までとは全然違って見えました。千葉さんが感じた怒りに焦点を当ててみて気付いたのは、やはり戦闘機のごう音のすさまじさ。出て行く時、帰って来る時…。頭がおかしくなるんじゃないかと。これはもう、公害と言ってもいいレベル。1日中、金網の前で過ごしましたが、本当に怖くなりました。でも、近隣の人たちはその感覚がまひしてしまい、当たり前のように受け止めている。その姿を見て、ものすごく心が痛くなりました。きっと千葉さんもそんなふうに感じたのだろうなと。

-その上で、千葉一夫という人物を演じるに当たって、どんなふうに役と向き合いましたか。

 千葉さんは、僕が憧れる昭和の時代にいた数少ない豪傑の1人。演じさせてもらうことが決まったときは、まだ僕自身、身体的にもメンタル的にも、千葉さんを受け入れる器としては、不足していると感じていました。魂を削ってやらないと、千葉一夫という人を演じることはできない。ですから、普段の倍のスピード感と分量で役を作っていきました。ここまでやったら納得できるということはありませんが、とにかく千葉さんやご遺族に失礼のないよう、できることは全部やって、自分の心と体を整えていきました。

-具体的な役作りはどのように?

 昭和の豪傑を演じるのは、芝居だけでは無理です。芝居では存在感を補うぐらいのことしかできません。ですから、まずは自分を追い込んで体を大きくすることを心掛けました。そうすることで、それに見合った呼吸や息遣いといった生理的な動きが生まれ、自然に声質なども変わってきますから。

-体作り以外では、どんなことをしましたか。

 いくら頑張っても、千葉さんになれるわけではありませんが、とにかく読める資料は全て読み、千葉さんを知る人たちの生の声を聞きました。その上で、それらを一度全部、僕の体に入れて、発酵させていくように日々イメージを繰り返す。限られた準備期間の中でそれを続けて、自分の心と体をいかに最大値の状態まで持っていけるか。そういう勝負でした。

-そうした努力の結果、劇中の熱のこもった芝居が生まれたわけですね。

 自然に生まれたという感じです。この時期、僕の中ではあのテンションがナチュラルになっていました。無理に「芝居をするぞ!」という気持ちでやっていたら、茶番になり、皆さんに見せられないものになっていたことでしょう。だから、いかに自然体であの芝居ができるか。それが一番大事なことでした。

 
  • 1
  • 2

特集・インタビューFEATURE & INTERVIEW

【Kカルチャーの視点】レジェンドたちの「朝鮮の旅」たどった写真家の藤本巧さん

2025年9月18日

 朝鮮の文化を近代日本に紹介した民藝運動家の柳宗悦や陶芸家の河井寛次郎。彼らが1930年代に見た朝鮮の風景に憧れ、1970年に韓国の農村を訪れたのが写真家の藤本巧さんだ。以来50年以上にわたり、韓国の人々と文化をフィルムに刻み続けてきた。 … 続きを読む

エマニュエル・クールコル監督「社会的な環境や文化的な背景が違っても、音楽を通して通じ合える領域があるのです」『ファンファーレ!ふたつの音』【インタビュー】

映画2025年9月18日

 世界的なスター指揮者のティボ(バンジャマン・ラべルネ)は、突然白血病を宣告され、ドナーを探す中で、生き別れた弟のジミー(ピエール・ロタン)の存在を知り、彼の隠れた音楽的な才能にも気付く。兄弟でありながらも異なる運命を歩んできた2人。ティボ … 続きを読む

前田旺志郎「世の中に関心を持つ大切さに気付いた」窪塚愛流「止まっていた時間が動き出した」初共演の2人が福島原発事故を題材にした映画で感じたこと『こんな事があった』【インタビュー】

映画2025年9月16日

 東日本大震災から10年後の福島を舞台に、原発事故で引き裂かれた家族と青春を奪われた若者たちの姿を描いた『こんな事があった』が9月13日から全国順次公開中だ。監督・脚本は、『追悼のざわめき』(88)などで日本のみならず世界の映画ファンから支 … 続きを読む

グイ・ルンメイ、真利子哲也監督「お互いが思い合うからこそすれ違う。でもそこには愛があるという家族の形を描きたかった」『Dear Stranger/ディア・ストレンジャー』【インタビュー】

映画2025年9月12日

 ニューヨーク・ブルックリンで暮らすアジア人夫婦を主人公に、息子の誘拐事件をきっかけに夫婦の秘密が浮き彫りとなり家族が崩壊していく姿を、全編NYロケで描いた『Dear Stranger/ディア・ストレンジャー』が、9月12日から全国公開され … 続きを読む

【物語りの遺伝子 “忍者”を広めた講談・玉田家ストーリー】(3)無鉄砲小僧、恐れを知らぬ行動力

舞台・ミュージカル2025年9月12日

 YouTubeもNetflixもない時代、人々を夢中にさせた“物語り”の芸があった——。“たまたま”講談界に入った四代目・玉田玉秀斎(たまだ・ぎょくしゅうさい)が、知られざる一門の歴史物語をたどります。 ▼無鉄砲小僧、恐れを知らぬ行動力 … 続きを読む

Willfriends

page top