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【インタビュー】『おじいちゃん、死んじゃったって。』岸井ゆきの「森ガキ組でなければ、こんなに変われなかった」

 祖父の葬式のため、久しぶりに集まった家族の本音がぶつかり合う姿をユーモアたっぷりにつづった『おじいちゃん、死んじゃったって。』が、11月4日から全国公開された。岩松了、光石研、水野美紀といった実力派の俳優がそろう中、主人公・春野吉子を演じたのは、大河ドラマ「真田丸」(16)、「99.9-刑事専門弁護士-」(16)などで注目を集めた若手女優・岸井ゆきの。これが映画初主演となる岸井だが、その裏では大きな葛藤と成長を経験していた。

映画初主演の岸井ゆきの

 

-映画初主演が決まった時のお気持ちはいかがでしたか。

 まだまだドラマも映画もそんなに出ているわけでもなくて、経験値が全然足りていないような気がして、「背負えるんだろうか」というのが正直な気持ちでした。台本を読んでも、この作品に私が主人公でいることがなかなか想像できず、不安がとても大きくて。

-どうやって気持ちを切り替えたのですか。

 結局、やるしかないなって。腹をくくったというか。森ガキ組に入る前は、現場でコミュニケーションを取ることも少し苦手で。森ガキ(侑大)監督とも撮影に入る前に何度か役について話をする機会を頂いたのですが、何か質問されても「そうですね…」という感じの素っ気ない態度を取ってしまったり…。本当に申し訳なかったです(笑)。

-いつも明るく演じている岸井さんの姿を見ていると、意外に感じます。

 よく言われます(笑)。その頃は、群れないことがカッコいい、なんて思っていたところもあったんですよね。だけど、せっかく頂いた初めての主演というところでもあるし、自分が変わるいい機会なのかもしれないと思って。それまで閉ざしていた自分の心を、無理やりにでも開いてみようと覚悟を決めて現場に行ったんです。

-その結果は?

 無理やりこじ開けなくても、開けられる空気を森ガキ組の皆さんが作ってくれていました。私が主役であることには変わりないけど、みんなで一つの作品を作るんだという空気があったので、背負うものが軽くなりました。おかげで、自分のできることを一生懸命やるという方向にシフトすることができました。

-考え過ぎだったのでしょうか。

 行ってみたら、心配していたことは全部、自分の独り善がりだったと気付きました。実は、この作品が決まってから撮影に入るまでの間に、初めてのゴールデン(タイム)のドラマ「99.9-刑事専門弁護士-」や(大河ドラマの)「真田丸」なんかも決まったんです。「きついけど、家賃を上げてみたら給料が上がった」みたいな話がありますけど、そういうふうに先に主演が決まって、少しずつだけど、そこに向けて進んでいっているのかもしれないと考えることができるようにもなりました。

-一歩踏み出したからこそ、得られた成果かも知れませんね。

 (ロケ地の)熊本に行く前、悩みを打ち明けられる友達ができたのも大きかったです。私、役の影響もあるのか、明るい子だと思われがちなんですが、もともとは1人で自問自答するような人間だったんです。でも友人ができて、心を開いたら楽になって…。今でも「主役」と言われると、「私が主役なんだよな…」と、どこか遠慮した気分になるんですけど、完成した映画は胸を張って「好き」と言える作品になりました。だから、私が主役だからというよりも、面白い作品だから見てほしいな、というのが今の素直な気持ちです。

-現場で変われたことについては、何か具体的なきっかけがあったのでしょうか。

 私の理想の主演像、みたいなものはあったんです。とはいえ、そういうことをやる技術も器の大きさもないから、とにかく現場では誰よりも元気でいようという気持ちは大切にしました。そうしたら、現場の空気が上がる瞬間があって、すごくうれしくなったんです。それまでは、「私なんかが…」と思っていたことを、主演にかこつけてやってみたら、みんなも一緒になってくれた。きっと今までも見えていないことがたくさんあったんだろうなって。でもそれも、森ガキ組のスタッフ、キャストの皆さんがいてくれたから。森ガキ組でなければ、こんなに変われなかったと思います。

-温かい現場だったようですが、共演者の方も力のある俳優さんがそろっています。共演した感想は?

 光石さん、赤間(麻里子)さん、池本(啓太)くんと私が家族で、みんなお芝居で絡むのは初めてだったんですけど、最初から変に意識しなくても、家族の空気がありました。だから、とてもやりやすくて、ずっと楽しかったです。岩松さんや水野さんも、現実的な部分と非現実的な部分がある人物をきちんと成立させていて、さすがだなぁと。あと、熊本の開放的な雰囲気や温かさみたいなものも、作品に流れる空気を作ってくれた気がします。

-お葬式を舞台にした物語については、どんなことを感じましたか。

 すごく難しい題材だったと思います。でもお葬式って、何かしらハプニングがあるんですよね。私も小さい頃、おばあちゃんのお葬式で、「去る何月何日、何々様が…」と話しているのを聞いて、「え?猿、猿?どこにいるの?」と言ってしまったことがあります。それを親戚中が白い目で見る中、お母さんだけが苦笑いしている、みたいな…(笑)。

-お葬式では意外とそういうことが起きやすいですよね。

 人が亡くなっているんだけど、そうやって笑っちゃうようなことも起きる。それがお葬式だと思うんです。この映画でも、おじいちゃんの遺体の前で光石さんと岩松さんのクスッとさせる場面があって、絶妙な家族の空気感に感動しました。深刻な話ではなく、誰でも「家族ってそうだよな」と感じることができる作品になっています。ライトな面白さと同時に、グッとくる部分もあるすてきな映画なので、たくさんの人に見ていただきたいです!

(取材・文・写真/井上健一)

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