「光る君へ」第二十回「望みの先に」伊周、詮子、道長…藤原一族に見るキャラクター表現の見事さ【大河ドラマコラム】

2024年5月25日 / 08:55

 NHKで好評放送中の大河ドラマ「光る君へ」。5月19日に放送された第二十回「望みの先に」では、藤原伊周(三浦翔平)&隆家(竜星涼)兄弟が花山院(本郷奏多)に矢を射かけた不祥事(長徳の変)をめぐる内裏でのやり取りと、主人公まひろ(吉高由里子)の父・藤原為時(岸谷五朗)が越前守に任命される過程が描かれた。

(C)NHK

 立場のかけ離れたまひろと藤原道長(柄本佑)をつなぐストーリー展開の巧みさについては前回述べたとおりだが、もうひとつ、本作を見ていて毎回うならされるのが、キャラクターの書き分け方の見事さだ。

 例えばこの回、長徳の変の後始末に関わった主な人物は、当事者である伊周&隆家兄弟、右大臣・道長、道長の姉で一条天皇(塩野瑛久)の母・藤原詮子(吉田羊)、伊周&隆家のきょうだいに当たる中宮・定子(高畑充希)といったところ。彼らはいずれも同じ藤原一族で、全員が叔母、叔父、めい、おいといった三親等以内の非常に近い関係にある。

 にもかかわらず、それぞれ個性が際立ち、それぞれの利害が対立、確執を深めていく者もいれば、その仲を取り持とうとする者もいて、毎回、生き生きとしたドラマが繰り広げられている。もちろん、それぞれ演じる俳優と役回りが異なるので、見え方が変わるのは当然なのだが、それと同時に、同じ一族だと感じられる点に毎回感心させられる。

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 伊周を例にとれば、関白・藤原道隆(井浦新)の嫡男として自信満々で登場した全盛期から、道長との出世争いに敗れた後は一変、苦労知らずのお坊ちゃん育ちからくるひ弱さが露呈。当初の自信過剰と思いやりのないわがままぶりも含め、摂政、関白と出世するにつれ、独善的になり、最後は味方を失って寂しく死んでいった父・道隆の姿にダブる。

 一方、伊周を毛嫌いする詮子は、天皇の生母として貫禄あるたたずまいを見せる一方で、権謀術数を用いて内裏での権力争いを左右する策士ぶりを発揮。その姿が、毛嫌いしていた父・兼家(段田安則)を思わせる点が、皮肉でありつつも、キャラクターに深みを与えている。

 ところで兼家といえば、息子の道兼(玉置玲央)にたびたび汚れ仕事をさせる一方で、それを道兼の兄である道隆には知らせず、「お前はまっすぐな道を歩いていけ」と語っていたことが思い出される。だが、その苦労知らずの育て方が道隆の暴走を生み、そのまま伊周に受け継がれていったと思うと、ここにもまた、道兼の影がうかがえる。

 そして、出世欲が希薄で、骨肉の争いを繰り広げる一族を何とかまとめようとする道長のおおらかさとバランス感覚に優れた政治力にも、どこか兼家の血を受け継いでいる気配が感じられる。その点では第三回、「自分は三男なので」と出世に興味を示さない道長に向かって、兼家が「わしも三男だ」と、尻をたたいた一幕も印象的だ。道長に関しては、その性格に直秀(毎熊克哉)ら庶民と交流していた過去が加わり、他の一族とは異なる行動につながっている。

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 最初は無垢(むく)なお姫様として登場した中宮・定子も、一条天皇ときょうだいへの愛ゆえに、次第に計略を用いるようになる姿は、少しずつ叔母である詮子に近づいているようにも見える。伊周に語った「あの女院様(=詮子)からわが身を守り、帝をお守りしているうちに、強くなりました」というせりふも印象的だ。

 こうして振り返ってみると、第一回から兼家を軸に積み重ねてきた藤原一族らしさが、それぞれのキャラクターに少しずつ受け継がれ、それが物語を動かす原動力になっているのが面白い。これぞ大河ドラマの醍醐味(だいごみ)といえるのではないだろうか。

 そしていよいよ次回から、越前守に任命された為時と共にまひろも越前に赴き、「越前編」が幕を開ける模様。次回予告では、宋からやってきた周明(ヂョウミン)役として発表されている松下洸平の顔も見えたが、はたしてどんなキャラクターとして登場し、まひろとどんな関わりを持つのか。期待を込めて見守っていきたい。

(井上健一)

(C)NHK

 


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