「正信はものの考え方が柔軟で、半分亡霊みたいな人」六角精児(本多正信)【「おんな城主 直虎」インタビュー】

2017年10月15日 / 20:50

 草履番としての働きを家康(阿部サダヲ)に認められた万千代(菅田将暉)の下に、後釜として“ノブ”と名乗る中年男がやってきた。自分が小姓になるためには、一人前の草履番に育ってもらわなければと、動きの鈍いノブにいら立つ万千代。だがこの男こそ、かつて一向一揆に加担して主君・家康に背いた本多正信だった…。多彩な徳川家臣団の中でも特に異彩を放つ男を演じる六角精児が、役に込めた思いを語った。

本多正信役の六角精児

-「武蔵 MUSASHI」(03)に続いて二度目の大河ドラマ出演となりますが、感想はいかがでしょう。

 二度目と言っても、前回は町侍みたいな役で一瞬出ただけなので、あまり覚えていないんです。だから、これが初めての大河ドラマだと思っています。今回改めて感じたのは、スタッフの動きが迅速で物語もしっかり作ってあるので、役者にとってはありがたいということですね。とはいえ、他の作品も大河ドラマも仕事という意味では違いはないので、同じように精一杯取り組ませていただくという気持ちでやっています。

-本多正信という人物を、どのように捉えていますか。

 一般的な武将のイメージとは少しかけ離れているような気がします。戦国武将には、“剛”とか“武”とか強いイメージがありますが、それとは違って、力を使わずに“柔”を持って物事を解決する。そんな人間だったのではないでしょうか。

-正信は草履番として万千代、万福の下で働くことになりました。3人の掛け合いがユニークですが、菅田将暉さん、井之脇海さんと共演した感想は?

 楽しかったです。親子ほども年が離れているんですけど、まったく垣根が無くて同級生みたいでした(笑)。2人とも若いけど、たくさん経験も積んでいるし、何よりも集中力がすごい。僕の方が引っ張られながらやっていたような感じです。正信のだらしなさに万千代がイライラする様子も、僕自身が駄目だと思われているような気がして、一種のマゾ的な心地よさがありました(笑)。

-草履番はスポットが当たることの少ない役割ですが、演じてみた感想は?

 大変な仕事ですよね。今でも、歴史のある劇場の楽屋口には下足番の方がいたりします。そこでのやり取りを思い返すと、草履番ならではの意地と哲学が見えてくる。単純な作業のように見えるけど、人の名前とその草履の場所を覚えておかなければいけない。万千代は自分がやるからにはより効率良く草履を出そうと考え、棚を作るなどの工夫をする。そして、そういうアイデアを持っているから出世していく。

-働くこと全てに通じる話ですね。

 何事にも一生懸命にエネルギーを注げということですよね。注がなくても何とかなるかもしれないけど、注げば新しい何かが生まれる。何事も考え方によって変わるんだなということを感じました。

-初登場の場面(第39回)は、徳川家康役の阿部サダヲさんとの共演でした。阿部さんの印象は?

 役の捉え方がとても正確で、この物語における徳川家康がどういうものかということを、きちんとご自分の中で把握して演じている。それがよく伝わってきました。

-正信は一度、三河の一向一揆で家康を裏切った後、許されて戻ってきたという経歴の持ち主ですが、家康に対してはどのような思いを持っているのでしょうか。

 許す心というものは、人間の大きさを象徴しているような気がします。逆に、許された人間は、その人のために一生懸命働くようになるのではないでしょうか。だから正信も、家康を自分の命以上の存在として仕えていこうという気持ちになった。許されるありがたさは何となく分かります。僕も今までいろいろなことを許されて生きてきたところがあるので(笑)。

-正信は後に家康に重用されますね。

 歴史に名を残している武将は、武勇に優れていて存在感のある人が多いですが、正信はそういう人たちとは一線を画しています。とはいえ、存在感が薄いにもかかわらず、家康が重用したことを考えると、やはり正信の意見は的を得た確かなものが多かったのだと思います。それと同時に、家康は、たとえ自分を戒めるような意見でも耳を傾けることのできる度量の大きな人間だったということではないでしょうか。家康だからこそ、正信を従えることができたのだと思います。

-一方、家康とは違い、本多忠勝(高嶋政宏)は裏切ったことを許していませんでした。

 正信は、当然だと思っているでしょう。より近い立場の人間の方が憎しみも深いですから。だからといって、それで萎縮するような人ではありませんが、忠勝の前では目立った動きは控えて、できるだけ波風を立てないようにしたのではないかと。正信は、そんなふうに忠勝との距離感を保っていたに違いありません。そういう意味では、人間関係のバランス感覚に優れた人だったのではないでしょうか。

-激昂した忠勝が、正信に向けて刀を抜く場面もありました。

 人間の死に対する価値観が今と昔では違うので一概には言えませんが、正信は「斬られるかもしれない」と考えていたはずです。家康から許されたと言っても、やはり裏切ったという事実は重大ですから。それぐらいの覚悟がなければ、戻ってこなかったでしょう。

-今後、正信は仕事中にフラフラとどこかへ行ってしまうなど、さらにユニークな行動を見せるようですね。

 本当にそんな人だったのかどうかは分かりませんが(笑)。ただやはり、ものの考え方が自由で柔軟ですよね。残っている逸話も変わったものが多く、例えば手柄を立てても、恩賞に石高を求めなかったそうです。それは、多過ぎる石高を得ると、ねたまれてつぶされるからだとか。加減を知っていた正信には、「出過ぎず、消えず」という表現がふさわしいのかもしれません。

-なるほど。

 本能寺の変の後、家康は危機を逃れるために「伊賀越え」をします。そこに正信も同行したらしいのですが、きちんと名前は残っていないそうです。結局、そういう人なんですね。いるのかいないのか分からず、半分、亡霊みたいですが、面白い人だなと思って。そんな一風変わった武将をやらせていただけるのは大変光栄です。

(取材・文/井上健一)


特集・インタビューFEATURE & INTERVIEW

織山尚大、芸能活動10周年を迎え「今のこの年齢で演じる意味がある」 舞台「エクウス」で3年ぶりの主演【インタビュー】

舞台・ミュージカル2025年12月29日

 映画『うちの弟どもがすみません』やドラマ『リベンジ・スパイ』など、数々の映画やドラマ、舞台で活躍する織山尚大の3年ぶりの主演舞台となる「エクウス」が1月29日から上演される。本作は、実際に起きた事件を基に描かれた、ピーター・シェーファーに … 続きを読む

【映画コラム】「2025年映画ベストテン」

映画2025年12月28日

 今回は、筆者の独断と偏見による「2025年公開映画ベストテン」を発表し、今年を締めくくりたいと思う。 【外国映画】  2025年公開の外国映画を振り返った時に、今年の米アカデミー賞での受賞作は最近の映画界の傾向を象徴するようで興味深いもの … 続きを読む

【Kカルチャーの視点】家族の情緒が国境を越える、俳優ムン・ソリが語る「おつかれさま」ヒットの理由

ドラマ2025年12月26日

 今年のヒットドラマ、Netflixシリーズ「おつかれさま」。子どもから親へと成長していく女性の人生とその家族を描き、幅広い世代から支持され大きな話題を呼んだ。IU(アイユー)との二人一役で主人公エスンを演じたムン・ソリに、ドラマの振り返り … 続きを読む

田中麗奈「こじらせ男の滑稽で切ない愛の行方を皆さんに見届けていただきたいと思います」『星と月は天の穴』【インタビュー】

映画2025年12月24日

 脚本家としても著名な荒井晴彦監督が、『花腐し』(23)に続いて綾野剛を主演に迎え、作家・吉行淳之介の同名小説を映画化した『星と月は天の穴』が12月19日から全国公開された。過去の恋愛経験から女性を愛することを恐れながらも愛されたい願望をこ … 続きを読む

天海祐希、田中哲司、小日向文世、でんでん、塚地武雅「12年の集大成を見届けてください!」大ヒットシリーズ、ついに完結! 劇場版「緊急取調室 THE FINAL」【インタビュー】

映画2025年12月23日

 2014年1月にスタートしたテレビ朝日系列の大ヒットドラマ「緊急取調室」。たたき上げの取調官・真壁有希子が、可視化設備の整った特別取調室で取り調べを行う専門チーム「緊急事案対応取調班(通称:キントリ)」のメンバーとともに、数々の凶悪犯と一 … 続きを読む

Willfriends

page top