【インタビュー】『3月のライオン』[前編][後編]神木隆之介「人間・桐山零がこの先どこまで行けるのか楽しみ」大友啓史監督「生きていくために努力している若者が、しかるべきところにたどり着くという話」

2017年9月26日 / 10:10

 羽海野チカ氏の人気コミックを映画化した『3月のライオン』[前編][後編]がそれぞれ9月27日と10月18日にDVDリリースされる。本作は将棋の世界を舞台に、「天才」と呼ばれながらも孤独に生きてきた高校生プロ棋士・桐山零の成長を描いた物語だ。発売に先駆け、主演の神木隆之介と大友啓史監督が、撮影の舞台裏、作品に込めた思いを振り返った。

(C)2017映画「3月のライオン」製作委員会

-この映画は単に夢を追うことの素晴らしさをうたったものではなく、主人公の桐山零は、決して夢とは言えなかった将棋の道を歩む中で、挫折を繰り返しながら成長していきます。お二人も俳優、映画監督という実力勝負の世界で生きていらっしゃいますが、共感する部分はありましたか。

神木 撮影はチームプレーですが、本番が始まった後は、助けてくれる人は誰もいません。そんな時は1人だなと感じますね。同じ事務所で仲のいい人もいますが、評価はそれぞれ別で、2人で1人の役者だよね、とは絶対に言われません。オーディションも、どれだけ仲のいい人がいても、最終的には1人しか合格しない。だから、映画製作は助け合いも大事ですが、まずは自分がしっかりしなくてはいけないと考えると、零くんと近しい部分はあるのかなと思います。

大友 僕ら大人世代は、若い人に「夢を持て」みたいなことを簡単に言いがちだけど、就職氷河期を生きてきた若い人たちからすると、まず就職して自活していくのが大変という時代が続いたわけですから。「夢」なんていう耳当たりの良い言葉は後回しで、どこかの会社に入るなりバイトするなりして、社会の中で自分のポジションを見つけるのに必死だったと思うんですね。

-なるほど。

大友 でも、そもそも仕事って、みんながみんな、最初からその仕事が好きで自分でやりたかったことかというとそんなことはなくて。食っていくため、生きていくために目の前の仕事にしがみつきながら、発見を一つ一つ積み重ねて、手に職がついてきて、やがて自分はこの仕事が好きだと思えるようになる…。それが普通だと思うんです。零くんも、将棋のプロになることが夢だったわけではなく、気が付いたら将棋をやらざるを得ない状況だった。でもその将棋こそが、彼を育てていくわけで。だから、決して零くんが屈折しているとは思いません。これは、生きていくためにまっとうに努力している若者が、ちゃんとしかるべきところにたどり着けるという話なんです。

-零くんは才能に恵まれた特別な人と思われがちですが、実はごく普通の高校生ですよね。

大友 頑張れば頑張っただけ報われるということを、この映画は描いています。それは、誰にでも当てはまることです。ただ、その前提として零くんには家族を失ったという不幸な境遇がある。たまたま引き取られたのが棋士の家だっただけで。たった1人で何もなかったら、そこにすがるしかないから、誰でも頑張るんじゃないの、という話です。その分、零くんは1人で生きていくというパワーが他の人たちよりもある。だから将棋の腕前はスペシャルだけど、人間としては決してスペシャルではないんです。

神木 そばから見たら「すごい人」というってことになりますけど、その分、努力したし、苦しい思いもしているんですよね。

大友 そうだよね。独りぼっちのあの部屋の中での彼の努力とか葛藤は誰の目にも映らなない。小さいころから、みんなが寝静まった頃に独りで将棋を指している姿は、世間の人は見ていないわけだから。

-撮影時の事について伺いますが、対局場面にはリアルな緊迫感がありましたね。

神木 過去の棋譜を基に、前半、中盤、中盤のその2、終盤という形で、何ブロックかに分けて撮影しています。レッスンの段階で棋譜に沿って一通り指して「こういう流れでこのブロックにたどり着く」ということを頭にたたき込んだ上で、撮影では各ブロックの二十手、三十手ぐらいを覚えて。先生からは「この手はこのために」など、その理由も教えていただきました。さらに、対局を通じて相手と対話するのですが、当然、互いに伝えたいことも分かっている。だから、本番では相手が伝えたいことは忘れて、無意識のうちにそれを受け取れるように頑張って、芝居は長回しで撮影しました。その後、編集でどこを使うのかは、監督に委ねました。

-とはいえ、緊張感を保つのは大変では?

神木 もちろん、集中力が途切れないようには気を付けました。序盤から終盤までずっと撮影していたので、全員疲労も抱えていたのですけど、「パチン」という音で心が正されましたね。撮影を始める時の「用意、ハイ、パチン」で本当にシーンとなるんですよ。

大友 そうだよね。

神木 いい意味で緊張感が漂っているんです。「ピシ」とか「ミシ」とか、音を立てるのもダメ。みんなが音を立てないようにしている緊張感が僕らにも伝わったので、ああいう聖域のような雰囲気が表現できたのではないかと思います。

-ちょうど今、中学生の藤井四段の活躍で、将棋人気が高まっていますね。

大友 本当にスターってすごいよね。撮影している時は静かだった将棋会館が、藤井くんが出てきた途端、あんなに列ができて、みんな藤井くんグッズを買いに来るんだもの(笑)。

神木 僕が通っている時は、そんな光景はなかったですね。

大友 将棋の面白さって、熟考の文化なんですよ。誰かに何か言われたら、ポーン、ポーンと返す今のツイッター文化と違って、反射ということがない。十手先、二十手先をじっくり考えていくような思考態度が生まれるのが面白い。やっぱり将棋には、そういうことを巻き起こしていくだけの力があるから、長い間、続いているんでしょうね。この映画を撮って、将棋って魅力的だなと改めて思いました。

-映画の結末は、原作者の羽海野チカさんが構想していたものを聞いて、脚本を書かれたとのことですが。

大友 僕は直接聞いてないんですよ。プロデューサーチームが聞いて、脚本を作る過程で、こういう終わり方がいいねという話になって。だから、あまり意識しませんでした。ただ、零くんがスタートラインに立って始まるところで終わりたいというイメージはずっとありました。

神木 僕は聞いていなかったのですが、映画の終わり方はいいなと思っていました。これから始まるために今までがあったという終わり方だったので、人間・桐山零がこの先どこまで行けるのか、楽しみになりました。原作はどうなるのかまだわからないので、普通に楽しめます…というか、早く続きが出ないのかな(笑)。

(取材・文/井上健一)

『3月のライオン』撮影中の神木隆之介(左)と大友啓史監督

『3月のライオン』Blu-ray&DVD
[前編]9月27日(水)発売、 [後編]10月18日(水) 発売
■豪華版 Blu-ray 各6800円+税/DVD 5800円+税
■通常版 DVD 3800円+税
(C)2017映画「3月のライオン」製作委員会
発売元:アスミック・エース 販売元:東宝


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