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2017年のNHK大河ドラマ「おんな城主 直虎」の脚本を手掛けるのは、「JIN 仁」(09)、「ごちそうさん」(13)など数々のヒット作を送り出してきた森下佳子氏。戦国時代、女性でありながら城主となって家を守り、後の繁栄の礎を築いた異色の主人公・井伊直虎(柴咲コウ)に懸ける熱い思いを語った。
まず子どものころに「いいなずけと一緒になれないのであれば、出家する」と言って出家してしまいます。その思い切りの良さに天賦の才があると感じて、その部分を広げて物語を作っています。
そうですね。それと今の世の中、選択肢がAかBしかないというふうに追い詰められることがとても多いです。でも彼女には「AもBも納得できなかったら、CかDを探せばいい」という発想があったような気がします。私たちは、ものを考える時に「答えはこれしかない」と思い込みがちですが、選択肢はもっとたくさんあるはずです。「答えは一つじゃないから、みんな粘ろう、頑張ろう、考えよう」ということを、直虎の姿を通して伝えられたらと思っています。
周りをグイグイ引っ張っていきたいけど、なかなかそうもいかないというのがリアルな姿でしょうか。さらに城主としては、きれいごとだけではなく、人をだますようなことをしなければならない局面にも遭遇します。それでも、トップに立つ人間は絶対にピュアな部分をなくしてはいけないと思うので、そこは大事にしていきたいです。
一番は「守りたい」ということです。井伊家を守りたい、跡継ぎを守りたい、領民を守りたい。そういった思いです。戦国時代は斬ったり斬られたりが当たり前の世界ですが、相手を斬ったら敵になってしまいます。守るためには敵は少ない方がいいので、できるだけ斬らずに生き抜いていくような人にしたいと考えています。
彼女らしい思い切ったことをしたのが子ども時代なので、ここは譲れないという気持ちがありました。子どもを4週中心に据えるということで、撮影現場は大変だったと思いますが、大事なところなのでやらせていただきました。
幼少期、一緒に育った井伊家当主の娘・直虎、その縁戚に当たるいいなずけの直親、井伊家の中でも今川寄りで危険視される家老の息子・政次という3人の絆が物語を動かしていきます。井伊家を守りたいという思いは同じですが、直虎を中心に、太陽のような直親、月のような政次という個性の違いもあり、戦国の世の中でその関係は変化していきます。
豊臣秀吉や織田信長、武田信玄などは資料がそろっていると言われていますが、それも誰かが命じられて書いた御屋形さまの姿であるなど、創作が入っているはずです。だから、直虎に関しては、私が信長の「信長公記」を書いた太田牛一になるような気持ちで向き合っています。知っている人がいないのであれば、私なりにかっこいい、すごいと思える生き生きとした直虎にしたいです。
駆け引きや敵との人間関係です。例えば、今川家との関係一つ取っても、本来は主家であるはずの今川が最も井伊家の人間の命を奪っていくという構図になっています。その上、家中にも敵がいる。でも、戦国時代は状況が変わると敵だった相手と手を組むこともあるので、直虎がそういった駆け引きを駆使して、次々と訪れる危機をどう乗り越えていくかというところです。さらにそこに、恋愛や情が絡んでくる形にしたいと思っています。
今回、勉強のためにいろいろ見たのですが、竹中直人さんの「秀吉」(96)が、一番肌に合いました。すごく人の温度が高くて、できればああいう熱のある作品にしていけたらと思っています。
皆さん実績のある方たちばかりなので、「ありがとうございます」という気持ちでいっぱいです。そんな中でも、おとわ役の新井美羽ちゃんは、柴咲さんには似ていないのに、画面で見るとたまらなくかわいらしくて、思わず引きつけられました。また、今川義元役の春風亭昇太さんは、ご自身が今まで落語の席で何度も義元の話をされていたらしく、義元を愛している人がやってくださるのはうれしかったです。
「天皇の料理番」の時に、小林さんが「もっとユーモアを出したかった」とおっしゃっていたと聞いたので、今回はユーモアたっぷりな人物にしてみました。撮影を見学させていただいたら、水を得た魚のように生き生きと演じていらっしゃいました。井伊家は次々と悲劇に見舞われますが、そんな中で小林さん演じる南渓和尚の存在が救いになってくれるといいですね。
柴咲さんはすごくきれいな方でクールな印象があって、歌手もやったり、お料理も上手だったりして、自分のペースで生きている。そんな方が城主という立場になって、いろいろなものを守るために奮闘する姿を楽しみにしています。
柴咲さん自身もおっしゃっていましたが、周りが反対しても、「私はこれがいい」と主張できるところは似ていますよね。だから、彼女が直虎を演じることで、ともすれば人間くさくなり過ぎるところを、やっぱりこの人は城主なんだ、という雰囲気が出る部分はあると思います。それは、柴咲さんの持って生まれた魅力が役を引き立てているということではないでしょうか。
(取材・文/井上健一)
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