「答えは一つじゃないということを、直虎の姿を通して伝えたい」森下佳子(脚本)【「おんな城主 直虎」インタビュー】

2017年1月2日 / 09:00

 2017年のNHK大河ドラマ「おんな城主 直虎」の脚本を手掛けるのは、「JIN 仁」(09)、「ごちそうさん」(13)など数々のヒット作を送り出してきた森下佳子氏。戦国時代、女性でありながら城主となって家を守り、後の繁栄の礎を築いた異色の主人公・井伊直虎(柴咲コウ)に懸ける熱い思いを語った。

 

脚本の森下佳子氏

脚本の森下佳子氏

-森下さんが考える直虎の魅力とは何でしょうか。

 まず子どものころに「いいなずけと一緒になれないのであれば、出家する」と言って出家してしまいます。その思い切りの良さに天賦の才があると感じて、その部分を広げて物語を作っています。

-“思い切りの良さ”ですか。

 そうですね。それと今の世の中、選択肢がAかBしかないというふうに追い詰められることがとても多いです。でも彼女には「AもBも納得できなかったら、CかDを探せばいい」という発想があったような気がします。私たちは、ものを考える時に「答えはこれしかない」と思い込みがちですが、選択肢はもっとたくさんあるはずです。「答えは一つじゃないから、みんな粘ろう、頑張ろう、考えよう」ということを、直虎の姿を通して伝えられたらと思っています。

-直虎をどんなリーダーとして描くつもりですか。

 周りをグイグイ引っ張っていきたいけど、なかなかそうもいかないというのがリアルな姿でしょうか。さらに城主としては、きれいごとだけではなく、人をだますようなことをしなければならない局面にも遭遇します。それでも、トップに立つ人間は絶対にピュアな部分をなくしてはいけないと思うので、そこは大事にしていきたいです。

-ピュアな部分というのは?

 一番は「守りたい」ということです。井伊家を守りたい、跡継ぎを守りたい、領民を守りたい。そういった思いです。戦国時代は斬ったり斬られたりが当たり前の世界ですが、相手を斬ったら敵になってしまいます。守るためには敵は少ない方がいいので、できるだけ斬らずに生き抜いていくような人にしたいと考えています。

-第4回まで子役の新井美羽ちゃんが少女時代の直虎=おとわを演じますが、その狙いは?

 彼女らしい思い切ったことをしたのが子ども時代なので、ここは譲れないという気持ちがありました。子どもを4週中心に据えるということで、撮影現場は大変だったと思いますが、大事なところなのでやらせていただきました。

-直虎の幼なじみとして、井伊直親と小野政次の2人が登場しますが、彼らとの関係は?

 幼少期、一緒に育った井伊家当主の娘・直虎、その縁戚に当たるいいなずけの直親、井伊家の中でも今川寄りで危険視される家老の息子・政次という3人の絆が物語を動かしていきます。井伊家を守りたいという思いは同じですが、直虎を中心に、太陽のような直親、月のような政次という個性の違いもあり、戦国の世の中でその関係は変化していきます。

-直虎に関しては史実を伝える資料が少ないようですが、それはどのようにお考えですか。

 豊臣秀吉や織田信長、武田信玄などは資料がそろっていると言われていますが、それも誰かが命じられて書いた御屋形さまの姿であるなど、創作が入っているはずです。だから、直虎に関しては、私が信長の「信長公記」を書いた太田牛一になるような気持ちで向き合っています。知っている人がいないのであれば、私なりにかっこいい、すごいと思える生き生きとした直虎にしたいです。

-その上で、ドラマの見どころはどんな部分になりますか。

 駆け引きや敵との人間関係です。例えば、今川家との関係一つ取っても、本来は主家であるはずの今川が最も井伊家の人間の命を奪っていくという構図になっています。その上、家中にも敵がいる。でも、戦国時代は状況が変わると敵だった相手と手を組むこともあるので、直虎がそういった駆け引きを駆使して、次々と訪れる危機をどう乗り越えていくかというところです。さらにそこに、恋愛や情が絡んでくる形にしたいと思っています。

-過去の大河ドラマで、森下さんの印象に残っている作品はありますか。

 今回、勉強のためにいろいろ見たのですが、竹中直人さんの「秀吉」(96)が、一番肌に合いました。すごく人の温度が高くて、できればああいう熱のある作品にしていけたらと思っています。

-出演者の中で、印象に残った方は?

 皆さん実績のある方たちばかりなので、「ありがとうございます」という気持ちでいっぱいです。そんな中でも、おとわ役の新井美羽ちゃんは、柴咲さんには似ていないのに、画面で見るとたまらなくかわいらしくて、思わず引きつけられました。また、今川義元役の春風亭昇太さんは、ご自身が今まで落語の席で何度も義元の話をされていたらしく、義元を愛している人がやってくださるのはうれしかったです。

-「峠の群像」(82)以来、35年ぶりの大河ドラマ出演となる小林薫さんとは、「天皇の料理番」(15)でもお仕事をされていますね。どのような印象をお持ちでしょうか。

 「天皇の料理番」の時に、小林さんが「もっとユーモアを出したかった」とおっしゃっていたと聞いたので、今回はユーモアたっぷりな人物にしてみました。撮影を見学させていただいたら、水を得た魚のように生き生きと演じていらっしゃいました。井伊家は次々と悲劇に見舞われますが、そんな中で小林さん演じる南渓和尚の存在が救いになってくれるといいですね。

-直虎を演じる柴咲さんに期待していることは?

 柴咲さんはすごくきれいな方でクールな印象があって、歌手もやったり、お料理も上手だったりして、自分のペースで生きている。そんな方が城主という立場になって、いろいろなものを守るために奮闘する姿を楽しみにしています。

-直虎という主人公に、柴咲さん本人が影響を与えている部分はありますか。

 柴咲さん自身もおっしゃっていましたが、周りが反対しても、「私はこれがいい」と主張できるところは似ていますよね。だから、彼女が直虎を演じることで、ともすれば人間くさくなり過ぎるところを、やっぱりこの人は城主なんだ、という雰囲気が出る部分はあると思います。それは、柴咲さんの持って生まれた魅力が役を引き立てているということではないでしょうか。

(取材・文/井上健一)


特集・インタビューFEATURE & INTERVIEW

「光る君へ」第四十四回「望月の夜」孤独を深める道長を支えるまひろとの絆【大河ドラマコラム】

ドラマ2024年11月23日

 NHKで好評放送中の大河ドラマ「光る君へ」。11月17日に放送された第四十四回「望月の夜」では、3人の娘を天皇の后にした藤原道長(柄本佑)が、有名な「このよをば わがよとぞおもふ もちづきの かけたることも なしと思へば」という「望月の歌 … 続きを読む

【週末映画コラム】『六人の嘘つきな大学生』/『アングリースクワッド 公務員と7人の詐欺師』(11月22日公開)

映画2024年11月22日

『六人の嘘つきな大学生』(11月22日公開)  大手エンターテインメント企業「スピラリンクス」の新卒採用の最終選考に残った6人の就活生への課題は「6人でチームを作り、1カ月後のグループディスカッションに臨むこと」だった。  全員での内定獲得 … 続きを読む

生駒里奈が語る俳優業への思い 「自分ではない瞬間が多ければ多いほど自分の人生が楽しい」【インタビュー】

舞台・ミュージカル2024年11月20日

 ドラマ・映画・舞台と数多くの作品で活躍する生駒里奈が、ストーリー性のある演劇的な世界観をダンスとJ-POPで作り上げるダンスエンターテインメント集団「梅棒」の最新作、梅棒 19th GIFT「クリス、いってきマス!!!」に出演する。生駒に … 続きを読む

史上最年少!司法試験に合格 架空の設定ではないリアルな高校2年生がドラマ「モンスター」のプロデューサーと対談 ドラマ現場見学も

ドラマ2024年11月17日

 毎週月曜夜10時からカンテレ・フジテレビ系で放送している、ドラマ「モンスター」。趣里演じる主人公・神波亮子は、“高校3年生で司法試験に合格した”人物で、膨大な知識と弁護士として類いまれなる資質を持つ“モンスター弁護士”という設定。しかし今 … 続きを読む

八村倫太郎「俊さんに助けられました」、栁俊太郎「初主演とは思えない気遣いに感謝」 大ヒットWEBコミック原作のサスペンスホラーで初共演『他人は地獄だ』【インタビュー】

映画2024年11月15日

 韓国発の大ヒットWEBコミックを日本で映画化したサスペンスホラー『他人は地獄だ』が、11月15日から公開された。  地方から上京した青年ユウが暮らし始めたシェアハウス「方舟」。そこで出会ったのは、言葉遣いは丁寧だが、得体のしれない青年キリ … 続きを読む

Willfriends

page top