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彼らをずっと見ていたいような気分になる『子供はわかってあげない』
高校の水泳部に所属する朔田美波(上白石萌歌)は、母(斉藤由貴)と義父(古舘寛治)と弟と共に幸せに暮らしていた。
だが美波は、幼い頃に行方不明になった実父の藁谷友充(豊川悦司)のことが気になり、アニメオタク同士ということで意気投合した書道部の門司昭平=もじくん(細田佳央太)の兄で自称探偵の明大(千葉雄大)に頼んで、新興宗教の元教祖だった友充を見つけてもらう。美波は今の家族には内緒で、友充に会いに行くが…。
田島列島の同名コミックを沖田修一監督が実写映画化。家族、アニオタ、水泳、書道、初恋など、さまざまな要素を入れ込みながら、少女のひと夏の経験を描く。
沖田監督の映画は、総じて独特の間や緩いテンポの中、シュールで、不思議なユーモアが漂い、現実とファンタジーの境目を描きながら、ほのぼのと明るい。そうした“沖田ワールド”は今回も健在だった。
何よりキャストが皆いい。上白石と細田が体現する初恋と青春、豊川と古舘の“2人の父”、見た目は女性で涙もろい千葉…。沖田ワールドの中、脇の脇に至るまで、皆が生き生きと描かれていて、こちらも彼らをずっと見ていたいような気分になる。
特に、上白石=美波の、最初は怪しげな父に戸惑いながらも、自然に打ち解けていく姿や、もじくんに不器用な告白をする姿が愛らしく映る。そして学校の屋上でのラストシーンがまた素晴らしい。(田中雄二)