エンターテインメント・ウェブマガジン
4位『カメラを止めるな!』
ゾンビ番組の撮影中に本物のゾンビが現れ、スタッフやキャストを次々に襲い始める。リアリティーにこだわる監督は、その様子を撮るためにカメラを回し続けるが、実は…。
上田慎一郎監督の劇場長編デビュー作。新宿と池袋の2館で細々と始まった上映が、まるでゾンビが増殖するかのように、あっという間に100館以上にまで拡大するという“異常事態”が起きた。
「この映画は二度はじまる」とキャッチコピーにある通り、本作は、一度終わった後が、“面白さの本番”なのだが、ネタバレになるので具体的に話したり、書いたりすることができない。それがかえって興味をそそり、自分の目で確かめたいという欲求を生んだ。そして、見てみるとうわさにたがわず面白い、という流れが異常事態の最たる原因かとも思える。情報過多が当たり前の今、言えないことが逆に効果を発揮するという皮肉が面白い。小品が大作の観客動員を上回るという、何とも愉快な現象を起こした映画として記憶に残る。
5位『こんな夜更けにバナナかよ 愛しき実話』
進行性の筋ジストロフィーを患いながら自立生活を送り、堂々と自己主張をしながら生き抜いた鹿野靖明(大泉洋)。鹿野と彼の日常を支え続けた大勢のボランティア(通称ボラ)が、互いに影響を与え合いながら変化していく姿を、ユーモアを交えながら描く。
見る側も、最初はタイトル通りにボラをこき使う鹿野を見ながら反感を抱くが、やがて鹿野のポジティブな生き方やボラの献身ぶりに胸打たれ、彼らに感情移入するようになる。つまり観客も映画を見ながら変化していくのだ。
そんな本作は、大泉の存在がなければ成立しない。鹿野と大泉は共に道産子だから、言葉遣いが自然。そして、その人たらしぶり、にじみ出るおかしみ、人に何でも頼める率直さ、わがままもなぜか許せてしまう得な性格、という鹿野のキャラクターは、大泉自身とも重なる部分が多いからだ。前田哲監督の「こういう話だからこそエンターテインメントとして描く」という姿勢にも好感が持てた。
以上、多少なりとも年末年始の映画鑑賞の参考になれば、幸いである。それでは皆さま良いお年をお迎えください。来年もよろしくお願いします。(田中雄二)