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【映画コラム】妻や母の存在の大きさを物語る『ぼくたちの家族』と『オー!ファーザー』

(C)2013「ぼくたちの家族」製作委員会

 今回はいずれも24日から公開された“家族”を描いた映画を紹介しよう。まずは前作『舟を編む』(13)が大好評を得た石井裕也監督作『ぼくたちの家族』から。

 会社を経営する夫と共に郊外の一軒家に住む妻。社会人となった長男は結婚し、大学生の次男は東京で一人暮らしを満喫している。このごく普通で幸せそうに見える家族にある日突然大きな変化が訪れる。妻に脳腫瘍が発見され、余命1週間が告げられたのだ。夫と息子たちはひたすら戸惑いうろたえる。やがて夫婦にはそれぞれ多額の借金があることも発覚し…。 

 見えっ張りで情けないがどこか憎めない父(長塚京三)、病のために時折童のようになる母(原田美枝子)、かつて引きこもりだったことを気に病む責任感の強い長男(妻夫木聡)、一見マイペースで軽薄な次男(池松壮亮)という役柄で、俳優たちが見事なアンサンブルを見せる。

 このバラバラな家族が妻=母の病をきっかけに“悪あがき”をしながら、やがて団結し再生していくのだが、深刻な状況にもかかわらず4人の姿にはどこか滑稽なところがある。そこが“泣かせ”を強調した難病物などとは一線を画し、家族のリアルな情景として映る。

 30歳の石井監督が、成熟した視点で家族を見詰め、見る者が登場人物の誰かに自分を重ね合わせるであろう普遍性を持った映画に仕上げたことに驚かされる。

(C)2014吉本興業

 もう1本は、伊坂幸太郎の原作を映画化したサスペンスコメディー『オー!ファーザー』。この映画で描かれるのは、高校生の由紀夫(岡田将生)と同居する大学教師の悟(佐野史郎)、ギャンブラーの鷹(河原雅彦)、体育教師の勲(宮川大輔)、元ホストの葵(村上淳)という4人の父親たちの姿だ。

 由紀夫の母が彼が生まれる前に“4股”をかけていたため、相手の男たちが「別れるぐらいなら…」と同居を望んだ結果、この珍しい“家族”が誕生したというわけ。

 本作では、ある出来事を目撃したことから謎の武装集団に拉致された由紀夫を救うため父親たちが奪還作戦を計画するのだか、同じく伊坂原作を映画化した『陽気なギャングが地球を回す』(06)にも似たチームプレーの楽しさが味わえる。新人の藤井道人監督の演出もなかなか快調だ。

 そして岡田の好演で、個性が異なる父親たちの存在を煩わしく思いながらも、同時に彼らに深い愛情も感じている由紀夫の素直さがほほ笑ましく映り、こんな家族も悪くないと思わされる。

 『ぼくたちの家族』とは違い、こちらは4人の父親候補を手玉に取りながら最後まで姿を現さない母親の存在がユニークだが、裏を返せば、表現方法は異なるものの、どちらも男にとって妻や母の存在がいかに大きいかを物語った映画だとも言えるだろう。(田中雄二)

公開情報
『ぼくたちの家族』
5月24日(土)より、新宿ピカデリー他全国ロードショー。
配給:ファントム・フィルム