【コラム】映画で巡る「カムカムエヴリバディ」100年の旅 チャップリンから『ラスト サムライ』まで

2022年4月8日 / 09:21

 時代は移り、父・錠一郎の影響で時代劇好きになった3代目ヒロインひなた(川栄李奈)が就職した条映太秦映画村のモデルは、明らかに東映太秦映画村だが、松重演じる大部屋俳優の虚無蔵のモデルも、東映の大部屋俳優で「5万回斬られた男」の異名を持つ福本清三だろう。

 殺陣は素晴らしい虚無蔵が、せりふが下手で…というのは、福本と同じ。福本の主演作『太秦ライムライト』(14)の役名・香美山(かみやま)は、福本の出身地と、せりふをかむということの、しゃれから命名されたというぐらいだ。

 ドラマの終盤、もう一人印象に残る人物が現れた。ひなたの大叔父・勇の晩年の姿として登場した目黒祐樹である。目黒の父は時代劇スターの近衛十四郎。同じく兄は松方弘樹だ。

 父の近衛は映画で活躍した後、テレビの素浪人シリーズ「素浪人 月影兵庫」(65~68・後に松方主演でリメーク)「素浪人 花山大吉」(69~70)「素浪人 天下太平」(73)で、豪快な殺陣とコミカルな演技を披露して、品川隆二演じる相棒の焼津の半次と共に茶の間の人気者となった。

 目黒は、素浪人シリーズの最終作「いただき勘兵衛 旅を行く」(73~74)で、品川の焼津の半次に代わって、旅の相棒となる旅がらすの仙太(実は監視役の与力・有賀透三=ありが・とうさん)として親子共演を果たしている。

 このあたり、ドラマに登場した時代劇スター桃山剣之介父子の姿と微妙に重なる。脚本の藤本有紀は、1967年生まれだというから、65年生まれという設定のひなたとほぼ同世代。ということは、自身の体験や時代劇に対する思い入れも反映されていることだろう。素浪人シリーズも再放送などで見ていたのではあるまいか。

 しかも、目黒の兄の松方は先年亡くなったが、今回目黒が演じた勇も兄の稔を失くした弟の役なのだ。キャスティングの際に、こうしたことが加味されたのだとしたら、それはそれで、なかなか粋な感じがするのだが、そこまで考えるのはもはや妄想の世界かとも思う。

 その後、ハリウッドのスタッフが、映画製作のオーディションのために映画村を訪れる。その映画のタイトルは『サムライ・ベースボール』。これは多分、トム・クルーズ主演の『ラスト サムライ』(03)と、中日ドラゴンズに入団したアメリカ人選手を描いた『ミスター・ベースボール』(92)の合体だろう。

 特に、『ラスト サムライ』は、虚無蔵のモデルと思われる福本が、沈黙の侍=サイレントサムライ役で出演した映画。だから、虚無蔵が『サムライ・ベースボール』に、2代目モモケンと共に重要な役で出演するのは当然の流れだとも思える。

 最後に、『サムライ・ベースボール』のキャスティングディレクターとして現れたアニー・ヒラカワ(森山良子)が、ラジオで「自分が安子だ」と語るきっかけになるのも映画だった。『風と共に去りぬ』(39)公開の話題が出た時、同年に稔と一緒に見たモモケンの映画の思い出がよみがえったのだ。

 まるでメビウスの輪のように、映画を通して一回りした後、始めに戻ったことになる。それは親子孫3代の100年間を描いたこのドラマのテーマとも通じるものがあると感じた。そして、ひなたはアニー=安子の跡を継いで日米を股に掛けるキャスティングディレクターとなる。

 『サムライ・ベースボール』は、稔が語った「どこの国とも自由に行き来できる、僕らの子どもにゃあ、そんな世界を生きてほしい、ひなたの道を歩いてほしい」という言葉を象徴する映画だったのだ。

(田中雄二)

『ラスト サムライ』(C)2003 Warner Bros. Ent. All Rights Reserved.

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