【大河ドラマコラム】「鎌倉殿の13人」第13回「幼なじみの絆」異色の主人公・北条義時を際立たせる三谷幸喜の巧みな脚本

2022年4月8日 / 15:01

 「鎌倉に攻めてくる」とうわさされる木曽義仲(青木崇高)の真意を確かめるため、源頼朝(大泉洋)の弟・源範頼(迫田孝也)に従って木曽に派遣された主人公・北条義時(小栗旬)。義仲を待つ間、盟友・三浦義村(山本耕史)と次のような言葉をかわす。

義村「あっちはどうなった? おやじ殿がいなくなって、家督を継ぐのか?」
義時「正直、どうでもいい。俺はいつだって、目の前のことをこなすので精いっぱい」
義村「楽しいだろ? 生きていて」
義時「えっ?」
義村「何が起こるか分からない人生。うらやましいわ」
義時「考えたこともなかった」
義村「俺は当たり前のように家督を継いで、三浦の一族を率いていく。あとはたまに、女をからかって遊ぶぐらいが関の山だ」
義時「俺だって、こんなことになるとは思いもしなかった。あのお方(=頼朝)が、うちに転がり込んできた日から、すべてが変わったんだ」

北条義時役の小栗旬(左)と八重役の新垣結衣 (C)NHK

 4月3日に放送されたNHKの大河ドラマ「鎌倉殿の13人」第13回「幼なじみの絆」で描かれた一幕だ。物語の大筋には関係ないが、このやりとりはある意味、義時の立ち位置を端的に示していると感じた。

 本作の北条義時は、大河ドラマの主人公としてはやや異色の存在だ。大河ドラマの主人公といえば、歴史を動かした偉人が選ばれることが多い。その点では、後に第2代執権として鎌倉幕府の頂点に立つ義時も決して見劣りはしない。

  だが、他の主人公たちが「自分が世の中を変える」という気概や「大切な人や家族、仲間を守る」といった熱意にあふれた個性的な人物として描かれるのに対して、義時には少なくともこれまでのところ、そういった押しの強さはない。亡き兄・宗時(片岡愛之助)の意志を継いではいるのだが、今はただ実直に誠実に日々与えられた仕事をこなしているだけだ。

 頼朝の側近に抜てきされたことが示すように、基本的には有能だが、これといった特徴や際立った個性がなく、物語を引っ張っていく圧倒的なパワーは感じられない。現代に例えるなら、せいぜい「ちょっと裕福な家庭に育った仕事のできるサラリーマン」と言ったところではないだろうか。普通であれば、主人公にはしづらい人物だ。

 ところが、三谷幸喜の脚本は、そんな「平凡な人間」とも言える義時を巧みに主人公として際立たせる。その好例ともいえる描写が、この回の重要な場面である義仲との対面でも見られた。

 義仲と面会した範頼は、敵対する意思がないことを知ると、それを頼朝に伝えると約束し、「ただし、条件がある」と続ける。ところが肝心なこの場面で、生焼けの魚を食べた範頼は腹を壊して厠へ駆け込み、ドラマから退場してしまうのだ。

 ここで範頼の後を継ぎ、義仲と話を進めたのが義時。人質を差し出すよう求めると、義仲は「嫡男・源義高(市川染五郎)を差し出す」と応じる。

 不自然な印象を与えることなく、場の主役を範頼から義時へと巧みに交代させ、義時を重要な局面に関わらせていく。しかもそのバトンタッチを、ユーモアあふれるシーンに仕立ててみせる。その手際のいい展開には舌を巻くばかりだ。

 
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