「今回は、極上のエンターテインメントを作ったつもりです」 『悪は存在しない』濱口竜介監督【インタビュー】

2024年4月19日 / 10:00

 長野県の自然豊かな高原を舞台に、代々つつましい生活を続けてきた住民の、レジャー施設の開発をめぐる生活の変化を描いた『悪は存在しない』が、4月26日から全国公開される。本作で第80回ベネチア国際映画祭のコンペティション部門で銀獅子賞に輝いた濱口竜介監督に話を聞いた。

濱口竜介監督

-今回は、ドキュメンタリーと劇映画との境界を描いた映画という印象を受けました。

 もともとカメラで撮る以上、現実を記録するということではあるので、劇映画を撮る時もドキュメンタリーを撮るように撮ろうとは常々思っています。その上で、今回は石橋英子さんのライブパフォーマンス用の映像を作ることとなり、彼女の音楽と調和するモチーフを見つけるために石橋さんが使われているスタジオの周辺のリサーチをするところから始めました。すると、例えばこういう視点から、こういうショットが撮れるみたいなビジュアル面の準備に時間をかけられました。自然の映像と人間がどう絡んでいくかという問題があったのですが、映画の中での説明会の場面と似たようなことが実際にあったことを聞いた時に、方向性が見えてきました。人間が自然を食い物にするようなずさんな計画は、いろんなところで見聞きしています。自然の問題に限らず、自分たちの業界の働き方も含めて、こういうことは本当にあると感じて、自分のこととして描けるような気がしました。そういう現実を取り入れながらやったという点では、ドキュメンタリー的なフィクションにはなっていると思います。

-「悪は存在しない」というタイトルは、ある意味、反意的とも取れるようなところがあって、そこには自然と人間との関係も入っていると思いますが、このタイトルに込めた意味や思いについて聞かせてください。

 僕自身は、首都圏で暮らしているので、普段はあまり自然との接点はないですが、自然の風景の中でリサーチをしているときに、こういうフレーズが自然に思い浮かびました。自然災害で、すごく暴力的、破壊的なことが起きたりもしますけど、それで被害を受けたからといって、自然に悪意は見いださないですよね。そういう点では、自然のサイクルの中に悪というものは存在しないと思いました。それがそのままプロジェクトのタイトルになったんですけど、物語の内容が「この世に悪は存在しない」と主張しているかというと、必ずしもそうではありません。このタイトルを付けたことによって、かえって内容との間に意義深い緊張関係が生まれたので、それを楽しんでいただきたいと思います。

-今回のように俳優としてのイメージがない人を使う場合と、『ドライブ・マイ・カー』(21)の西島秀俊さんのような有名な俳優を使う場合とのすみ分けというか、俳優に関する監督のイメージというのはどのようなものなのでしょうか。

 キャスティングは、ケース・バイ・ケースですが、そのキャラクターに最も説得力を与えてくれる人を選びます。究極的に言えば、俳優か俳優ではないかというのは、あまり関係がないと思っています。ただ、俳優でないとそれは難しいという場合もたくさんあります。細やかに感情の方向転換をしたり、表現していかなければならないような役となると、それはやっぱり俳優でないと難しいだろうなとは思います。今回の大美賀(均)さんは演技経験はほぼない人です。なので、ご覧いただいたら分かるように、それほどせりふがあるわけではないし、喜怒哀楽を表現することもないので、彼にできることは無理にやらないというのは原則でした。その上で彼の見た目とか、ありようとかを、映画の物語の中にうまく組み込むことができれば、素晴らしい形で存在してくれるだろうと思いましたし、実際にそうなったと思います。

 
  • 1
  • 2

特集・インタビューFEATURE & INTERVIEW

堤真一、三宅唱監督「実はこういうことも奇跡なんじゃないのということを感じさせてくれる映画だと思います」『旅と日々』【インタビュー】

映画2025年11月6日

 三宅唱監督が脚本も手掛け、つげ義春の短編漫画『海辺の叙景』と『ほんやら洞のべんさん』を原作に撮り上げた『旅と日々』が11月7日(金)から全国公開される。創作に行き詰まった脚本家の李(シム・ウンギョン)が旅先での出会いをきっかけに人生と向き … 続きを読む

【映画コラム】俳優同士の演技合戦が見ものの3作『爆弾』『盤上の向日葵』『てっぺんの向こうにあなたがいる』

映画2025年11月1日

『爆弾』(10月31日公開)  酔った勢いで自販機を壊し店員にも暴行を働き、警察に連行された正体不明の中年男(佐藤二朗)。自らを「スズキタゴサク」と名乗る彼は、霊感が働くとうそぶいて都内に仕掛けられた爆弾の存在を予告する。  やがてその言葉 … 続きを読む

福本莉⼦「図書館で勉強を教え合うシーンが好き」 なにわ男⼦・⾼橋恭平「僕もあざとかわいいことをしてみたかった」 WOWOW連ドラ「ストロボ・エッジ」【インタビュー】

ドラマ2025年10月31日

 福本莉⼦と⾼橋恭平(なにわ男⼦)がW主演するドラマW-30「ストロボ・エッジ  Season1」が31日午後11時から、WOWOWで放送・配信がスタートする。本作は、咲坂伊緒氏の⼤ヒット⻘春恋愛漫画を初の連続ドラマ化。主人公の2人を軸に、 … 続きを読む

吉沢亮「英語のせりふに苦戦中です(笑)」主人公夫婦と関係を深める英語教師・錦織友一役で出演 連続テレビ小説「ばけばけ」【インタビュー】

ドラマ2025年10月31日

 NHKで好評放送中の連続テレビ小説「ばけばけ」。明治初期、松江の没落士族の娘・小泉セツと著書『怪談』で知られるラフカディオ・ハーン(=小泉八雲)夫妻をモデルに、怪談を愛する夫婦、松野トキ(髙石あかり)とレフカダ・ヘブン(トミー・バストウ) … 続きを読む

阿部サダヲ&松たか子、「本気でののしり合って、バトルをしないといけない」離婚調停中の夫婦役で再び共演 大パルコ人⑤オカタイロックオペラ「雨の傍聴席、おんなは裸足・・・」【インタビュー】

舞台・ミュージカル2025年10月31日

 宮藤官九郎が作・演出を手掛ける「大パルコ人」シリーズの第5弾となるオカタイロックオペラ「雨の傍聴席、おんなは裸足・・・」が11月6日から上演される。本作は、「親バカ」をテーマに、離婚を決意しているミュージカル俳優と演歌歌手の夫婦が、親権を … 続きを読む

Willfriends

page top