【インタビュー】映画『偶然と想像』濱口竜介監督「なさそうだけどあるという、”もう一つの現実”を描いてみたかった」

2021年12月13日 / 07:30

 「魔法(よりもっと不確か)」「扉は開けたままで」「もう一度」。それぞれが「偶然」と「想像」という共通のテーマを持ちながら、異なる3編の物語で構成された濱口竜介監督初の短編オムニバス映画『偶然と想像』が、12月17日から公開される。本作は、第71回ベルリン国際映画祭コンペティション部門に出品され、銀熊賞(審査員グランプリ)を受賞している。濱口監督に、短編集を作った意図、観客の反応、映画に対する思いなどを聞いた。

濱口竜介監督

-「今回は短編小説集のようなものを狙った」という談話を読みましたが、前作の『ドライブ・マイ・カー』も村上春樹さんの短編をつなぎ合わせたものでした。また、どちらの映画も、ある意味、純文学っぽいところもあると感じましたが。

 小説家の方にとっては、短編と長編の間を行き来するというのは普通のことだと思いますが、映画ではなかなかそういうわけにはいきません。村上春樹さんも短編でやられたことを、長編でもう一度練り直すということもされますよね。作家にとって、短編がある種の試金石やチャレンジになるところもあると思います。自分の中の未消化なアイデアを整理する場でもあるのかもしれません。僕も、そういう場を持ちたいとは思っていたのですが、短編映画を世に出すのはなかなか難しいので、今回のように、”短編集”にしてしまえば、出しやすくなると思いました。

-三つのエピソードの一つ一つがとてもユニークで、「この話、ありそうだけどないよな」という感じが面白かったのですが、各エピソードの着想はどこから得たのでしょうか。

 まず初めは「偶然」をテーマにしようと考えました。それで七編ぐらいのシリーズを作ってみようというのと、フランスのエリック・ロメールという監督も「偶然」をテーマに映画を作られていて、それがすごく好きだったので、そういうものをやってみたいと思ったのが着想の始まりです。一つ一つのアイデアは、本当に身近なもので、生活の中から出ているところがあります。

-では、具体的に1話目は?

 1話目は、喫茶店の隣の席で2人の女性の会話が聞こえてきて、それがまさにこの映画の中のタクシー内での会話の基になっています。現実のままではドラマにならないので、話している人の相手の男性が、話を聞いている人の元カレだったらどうだろうか、みたいな想像から話を広げていきました。そんな都合のいい話はないのですが、「偶然」をテーマにすると、これで成り立つんじゃないかみたいな感じになりました。

-第2話は?

 第2話は、大学教授をしている知人がいるのですが、彼が「最近は研究室のドアは開けたままにしている」と言うんです。なぜかというと、ハラスメントの問題があって、密室空間を作ってはいけないんだと。その一方で、それは自分自身を守ることにもなると。それを聞いたときに、扉が開いた部屋の中でサスペンスフルな状況が起きているのに、生徒たちがそれに気付かずに廊下を通り過ぎていく、というようなショットが思い浮かびました。その辺から始まっていきました。

-第3話は?

 第3話に関しては、極単純に、左右のエスカレーターですれ違いながら出会うというのは面白いなあと前から思っていました。立ち止まりたいのに通り過ぎていってしまうのが。そのときに、この映画のような勘違いも起こり得るのではないかというところから始まりました。一つ一つは日常のネタですが、そこから物語として発展させていくという点では、偶然というのはいいテーマだったと思います。

-三角関係、セックス依存症、色仕掛け、同性愛…など、性に関するユニークな描写が目立ちますが、この点について何かこだわりのようなものはあるのでしょうか。

 日常の中に性もある、ということです。日常は、パブリックなものだけで営まれているわけではなくて、プライベートな領域もあります。例えば、第2話のショットで行われているのは、まさにそういうことで、プライベートな領域とパブリックな領域の境界線を描いています。そういうものも取り扱わないと、現実を扱っているという気がしないということだと思います。

-性を通して現実が見えてくるということでしょうか。

 性は一つの要素です。基本的に、いかにも現実らしい現実を描こうとは思っていないので、この映画にもアンリアルに見えるところがたくさんあります。ただ、誰もが全てを現実にさらして生きているわけではない。人に普段見せない想像や欲望が、偶然を得るとこんなにも発展していく。それが結果的にはアンリアルな印象になると思うのですが、そこを何とか「なさそうだけどある」、”もう一つの現実”というところまで持っていきたいと思いました。

 
  • 1
  • 2

関連ニュースRELATED NEWS

特集・インタビューFEATURE & INTERVIEW

【週末映画コラム】『六人の嘘つきな大学生』/『アングリースクワッド 公務員と7人の詐欺師』(11月22日公開)

映画2024年11月22日

『六人の嘘つきな大学生』(11月22日公開)  大手エンターテインメント企業「スピラリンクス」の新卒採用の最終選考に残った6人の就活生への課題は「6人でチームを作り、1カ月後のグループディスカッションに臨むこと」だった。  全員での内定獲得 … 続きを読む

生駒里奈が語る俳優業への思い 「自分ではない瞬間が多ければ多いほど自分の人生が楽しい」【インタビュー】

舞台・ミュージカル2024年11月20日

 ドラマ・映画・舞台と数多くの作品で活躍する生駒里奈が、ストーリー性のある演劇的な世界観をダンスとJ-POPで作り上げるダンスエンターテインメント集団「梅棒」の最新作、梅棒 19th GIFT「クリス、いってきマス!!!」に出演する。生駒に … 続きを読む

史上最年少!司法試験に合格 架空の設定ではないリアルな高校2年生がドラマ「モンスター」のプロデューサーと対談 ドラマ現場見学も

ドラマ2024年11月17日

 毎週月曜夜10時からカンテレ・フジテレビ系で放送している、ドラマ「モンスター」。趣里演じる主人公・神波亮子は、“高校3年生で司法試験に合格した”人物で、膨大な知識と弁護士として類いまれなる資質を持つ“モンスター弁護士”という設定。しかし今 … 続きを読む

八村倫太郎「俊さんに助けられました」、栁俊太郎「初主演とは思えない気遣いに感謝」 大ヒットWEBコミック原作のサスペンスホラーで初共演『他人は地獄だ』【インタビュー】

映画2024年11月15日

 韓国発の大ヒットWEBコミックを日本で映画化したサスペンスホラー『他人は地獄だ』が、11月15日から公開された。  地方から上京した青年ユウが暮らし始めたシェアハウス「方舟」。そこで出会ったのは、言葉遣いは丁寧だが、得体のしれない青年キリ … 続きを読む

「光る君へ」第四十三回「輝きののちに」若い世代と向き合うまひろと道長【大河ドラマコラム】

ドラマ2024年11月15日

 NHKで好評放送中の大河ドラマ「光る君へ」。11月10日に放送された第四十三回「輝きののちに」では、三条天皇(木村達成)の譲位問題を軸に、さまざまな人間模様が繰り広げられた。  病を患い、視力と聴力が衰えた三条天皇に、「お目も見えず、お耳 … 続きを読む

Willfriends

page top