【インタビュー】映画『ツユクサ』小林聡美×松重豊「奇跡は特別なことではなく、気付けるかどうか」

2022年4月25日 / 12:00

 考え方次第で、誰の日常にも“奇跡”があふれている。4月29日から公開される『ツユクサ』は、平凡な毎日を生きる大人にそっと寄り添ってくれる人生賛歌の物語。『愛を乞うひと』『閉鎖病棟-それぞれの朝-』の平山秀幸監督が10年以上温めてきた企画だという。主演の小林聡美と相手役の松重豊が、その魅力を語り合ってくれた。

小林聡美(左)と松重豊 (C)エンタメOVO

-この映画は、ラブストーリーでもあります。お二人にはラブストーリーのイメージがあまりないですが、いかがでしたか。

小林 あまりにもやってこなかったので、そこはあまり考えないように(笑)。特に意識せずに、役の気持ちで映画の中に存在すれば自然と流れていくのではないかと思っていました。

松重 僕は、実際はやったことがないのに、人殺しとか殺される役はしょっちゅうやっていたものですから、恋愛の経験値は高くないんですけど、恥ずかしさや照れはないですね。やってみたい気持ちの方が大きかった。人を殺す役と同じように、どんな気持ちが生まれてくるのか? ということを楽しもうと思いました。

-これまでにも何度か共演しているそうですが、ガッツリ組むのは初めてだとか。

松重 僕はもう、小林さんは大林宣彦監督の『転校生』(82)の頃から観客としてずっと見てきた方ですから。小林さんのスクリーンから醸し出す存在感に関して、僕らの世代共通の憧れがあるので、そこをこっちで強く意識してはいけないと思いながら、なるべく自然に振る舞おうとはしていたんですけど。どこかにぎこちなさはあったかもしれない。

小林 いやいやいや。

松重 僕らにとっては、スターですから。

小林 どこがですか(笑)! 私の方は、松重さんとは何回かご一緒させていただきましたけれど、冗舌でなくとも、そこにいるだけで語れる希有な俳優さんだと思っていて。そこが妙に心地いいというか、語らないところで正直に向き合えるという面白さが松重さんとのお芝居にはあります。

-役柄については、どんなところを意識して演じましたか。

小林 特別変わったキャラクターではないし、日常的な中にちょっと、ハッとするようなことが散りばめられている面白い脚本だったので、その世界観を壊さないよう、自然にいようと思いました。そもそも私の場合、松重さんのように、人を殺すとか非日常的なキャラクターが来ないんですけど(笑)。

松重 分からないですよ、これから。

小林 いいですね(笑)。でも、普段も役について突き詰めては考えないですね。非日常キャラの気持ちとか、考えてみたい。

松重 逆にそっちの方が考えなくなりますよ。殺人鬼を考えても仕方がないですから(笑)。

小林 そっか、でもそれはそれで面白そう。

松重 ゾンビの気持ちを考えてもねぇ。

小林 ハハハハ。

松重 僕も特に考えずに、というか、人と出会って心が動いていく話なので。僕が演じる篠田がなぜこの町に来て、道路工事の現場で働いているかっていうことを劇中で細かく説明もしていないですから。ある女性と出会って心が動いていくっていうことを、できればドキュメンタリーのように見えたらいいなと思って。ただ「いる」っていうことを心掛けようと思っていただけですけどね。

小林 監督の求めていたのも、そういう何げないところを切り取ることだった気がします。

松重 出てくる人が誰一人、痕跡を残すようなことをしようとしていないので、あの海の近くの町に生きている人のリアリティーみたいなものしか、役者の体を通して見えてこないので、そこがすてきだなと思う。

小林 でも、痕跡を残しそうな人たちばっかりなんですけどね。

松重 残そうとすればいくらでも残せる人たち。あえて封印している。

小林 そうそう、だからちょっとドキドキする。だって泉谷しげるさんだって渋川清彦さんだって、やろうと思えばねぇ(笑)。

 
  • 1
  • 2

特集・インタビューFEATURE & INTERVIEW

【物語りの遺伝子 “忍者”を広めた講談・玉田家ストーリー】(9)浅間神社で語る「厄よけの桃」

舞台・ミュージカル2025年12月18日

 YouTubeもNetflixもない時代、人々を夢中にさせた“物語り”の芸があった——。“たまたま”講談界に入った四代目・玉田玉秀斎(たまだ・ぎょくしゅうさい)が、知られざる一門の歴史物語をたどります。  前回は、玉田家再興にあたり「三つ … 続きを読む

石井杏奈「人肌恋しい冬の季節にすごく見たくなる映画になっています」『楓』【インタビュー】

映画2025年12月17日

 須永恵(福士蒼汰)と恋人の木下亜子(福原遥)は、共通の趣味である天文の本や望遠鏡に囲まれながら幸せな日々を送っていた。しかし実は本当の恵は1カ月前にニュージーランドで事故死しており、現在、亜子と一緒にいるのは、恵のふりをした双子の兄・涼だ … 続きを読む

染谷将太 天才絵師・歌麿役は「今までにない感情が湧きあがってきた」 1年間を振り返る【大河ドラマ「べらぼう〜蔦重栄華乃夢噺〜」インタビュー】

ドラマ2025年12月15日

 NHKで好評放送中の大河ドラマ「べらぼう〜蔦重栄華乃夢噺〜」。“江戸のメディア王”と呼ばれた“蔦重”こと蔦屋重三郎(横浜流星)の波乱万丈の生涯を描く物語も、残すは12月14日放送の最終回「蔦重栄華乃夢噺(つたじゅうえいがのゆめばなし)」の … 続きを読む

「べらぼう」ついに完結! 蔦重、治済の最期はいかに生まれたか?「横浜流星さんは、肉体的にも作り込んで」演出家が明かす最終回の舞台裏【大河ドラマ「べらぼう〜蔦重栄華乃夢噺〜」インタビュー】

ドラマ2025年12月14日

 NHKの大河ドラマ「べらぼう〜蔦重栄華乃夢噺〜」。“江戸のメディア王”と呼ばれた“蔦重”こと蔦屋重三郎(横浜流星)の波乱万丈の生涯を描く物語は、12月14日放送の最終回「蔦重栄華乃夢噺(つたじゅうえいがのゆめばなし)」を持ってついに完結し … 続きを読む

稲垣吾郎「想像がつかないことだらけだった」ハリー・ポッターの次は大人気ない俳優役で傑作ラブコメディーに挑む【インタビュー】

舞台・ミュージカル2025年12月13日

 稲垣吾郎が、2026年2月7日から開幕するPARCO PRODUCE 2026「プレゼント・ラフター」で傑作ラブコメディーに挑む。本作は、劇作、俳優、作詞、作曲、映画監督と多彩な才能を発揮したマルチアーティスト、ノエル・カワードによるラブ … 続きを読む

Willfriends

page top