【インタビュー】映画『カラミティ』レミ・シャイエ監督「主人公のマーサが性別を超えてトライしていく姿を描きたいと思った」

2021年9月22日 / 08:15

 伝説の女性ガンマン、カラミティ・ジェーンの子ども時代を、西部開拓を目指す旅団の中で、困難に立ち向かう一人の少女・マーサの話として描いたアニメーション映画『カラミティ』が、9月23日から全国公開される。前作『ロング・ウェイ・ノース 地球のてっぺん』(15)に続いて、絵画的な美しい映像の中で少女のたくましい冒険談を描いたレミ・シャイエ監督に、映画に込めた思いを聞いた。

レミ・シャイエ監督

-フランス人の監督が、アメリカの西部開拓時代を描くことはとても新鮮でしたが、少し不思議な感じもしました。なぜ、カラミティ・ジェーン=マーサを主人公にして描こうと考えたのでしょうか。

 特に西部劇が好きだったからというわけではありません。西部劇というと、どうしても銃を持って戦うようなイメージがあって、そういうものを作りたいとは思いませんでした。ただ、今回は馬車での旅が描けることにとても興味を引かれました。車輪の上の村というか、コミュニティーが移動していく感じがとても面白いと思いました。

-事前に過去の西部劇などを見て参考にしたりはしましたか。

 たくさん見ました。特に、スタッフの中に西部劇が大好きな人がいたので、新たに西部劇のカルチャーを勉強した気分になりました。特にマリリン・モンローの『帰らざる河』(54)や、女性の主人公が素晴らしい『大砂塵』(54)が印象に残っています。ドリス・デイの『カラミティ・ジェーン』(53)はキッチュな感じがして面白かったです。今回はロケハンができなかったので、スタッフの皆と一緒に、景色のイメージを得るために、ワイオミングを舞台にした映画をたくさん見て参考にしました。また、オレゴントレイルに関する本もたくさん読みました。

-実際のカラミティの生涯は謎に包まれており、どこまでが事実で、どこからが伝説なのかがはっきりしません。だからこそ、創作が入り込む余地があったということでしょうか。

 いろいろとカラミティに関する文献を調べた結果、彼女がミズーリから出発して、その2年後ぐらいに弟たちを置いて一人で旅立ったという記述を見付けました。ただ、その間のことはほとんど分からないので、ここが創造のしどころだと思いました。彼女の伝記などを読んでも、ほとんどがうそだらけです。彼女自身も証言者も皆うそをついている(笑)。そこがまた面白いのです。その中で道筋を作っていくことは、自由でもあり、面白いことでした。あとは、「カラミティは作り話が上手な女の子」という史実を映画の中に取り入れました。それを、難局を乗り越えるために話が作れる子、機転の利く子という形で表現しました。

-女性は女性らしくという西部開拓時代に、ジーンズを履き、乗馬や、馬車の運転、投げ縄など、男の作法を身につけるマーサを描くことで、ジェンダーレスな生き方を選択した女性の先駆者としての視点が入ります。そこに今、カラミティ・ジェーンを描く意義があると感じましたが、そうした点は意識しましたか。

 この時代の西部開拓の地域には、女性が1~2パーセントしかいなかったそうです。その中で、マーサが性別を超えてトライしていく姿を描きたいという思いはもちろんありました。映画の流れとしては、女性は馬車の周りにいて座っている、男性は動いているという、二極を描いています。また、見た目も、女性は明るい色のスカートを履いていて、男性はモノトーンに近いものを着て帽子をかぶっているというふうに対照的なものにして、動く範囲の違いも性別を意識しました。マーサはそれらを超えていく人間として描きたかったのです。

-前作の『ロング・ウェイ・ノース』もこの映画も、舞台は19世紀で、少女が主人公の冒険と旅の物語です。その共通性には何か理由はあるのでしょうか。

 確かに、19世紀に引かれたり、フェミニズムを描きたいという思いは何となくあります。ただ、そうした話を意識的に探しているわけではありません。あとは、広大な背景に対する憧れがあるので、前作の北極点や今回の米西部の荒野が舞台になったのだと思います。

-前作同様、今回も広大な自然を独特の質感と色使いで描いています。まるで風景画を見ているような印象を受けました。色使いや構図で特にこだわったところはありますか。

 広大な自然を描くのはとても難しく、特に今回の米西部の荒野を描くのはとても苦労しました。パイロット版を作ったときに、広大な風景を表し切れていないと感じて、もう一度初めから作り直しました。そのときに、色使いも含めて参考にしたのが、鉄道のポスターでした。それらを見ながら、広さを意識しながら作っていきました。色使いにはとても気を使いました。見た目に強い印象を与える映画を作りたかったので、印象派やナビ派の画法を取り入れて、光が入って色が押し寄せてくるような感じにしました。あとはアメリカの風景画も参考にしました。色は人間の感情をかき立てるものだと思うので、ストーリーだけではなく、色でも、見る人の感情を揺さぶるようなものを作りたかったのです。

 
  • 1
  • 2

特集・インタビューFEATURE & INTERVIEW

松坂桃李主演、日曜劇場「御上先生」 撮影現場の雰囲気、理想の教育環境について語った【インタビュー】

ドラマ2025年1月19日

 TBSは1月19日(日)21時から、主演・松坂桃李の日曜劇場「御上先生」を放送する。松坂は、東大卒でエリート文科省官僚から高校教師になった御上孝を演じる。本作は、子供が生きる「学校」、大人がもがく「省庁」という一見、別次元にあるこの2つを … 続きを読む

小泉堯史監督、松坂桃李「この話は、今だからこそちゃんと残す意義があると思いました」『雪の花 -ともに在りて-』【インタビュー】

映画2025年1月18日

 江戸時代末期の福井藩を舞台に、数年ごとに大流行して多くの人命を奪う疫病から人々を救うために奔走した実在の町医者・笠原良策の姿を描いた『雪の花 -ともに在りて-』が1月24日から全国公開される。本作の小泉堯史監督と主人公の笠原良策を演じた松 … 続きを読む

「べらぼう~蔦重栄華乃夢噺~」第二回「吉原細見『嗚呼(ああ)御江戸』」魅力的な俳優陣が奏でる出色のアンサンブル【大河ドラマコラム】

ドラマ2025年1月17日

 NHKで好評放送中の大河ドラマ「べらぼう~蔦重栄華乃夢噺~」。1月12日に放送された第二回「吉原細見『嗚呼(ああ)御江戸』」では、主人公・蔦屋重三郎(横浜流星)が、吉原に客を呼ぶアイデアとして、ガイドブック「吉原細見」の序文の執筆を、有名 … 続きを読む

上白石萌音、プロ棋士を目指していた弁護士役で「初めて壁にぶち当たりました」 ドラマ9「法廷のドラゴン」【インタビュー】

ドラマ2025年1月17日

 女性初のプロ棋士誕生を期待されながらも弁護士に転向した主人公が、存続の危機にひんする弁護士事務所の若き所長とともに奔走するリーガルドラマ、ドラマ9「法廷のドラゴン」(テレ東系・毎週金曜よる9時放送)が、1月17日より放送スタートする。本作 … 続きを読む

【週末映画コラム】“お試し移住”の結末は…『サンセット・サンライズ』/ドナルド・トランプの若き日を描く『アプレンティス ドナルド・トランプの創り方』

映画2025年1月17日

『サンセット・サンライズ』(1月17日公開)  新型コロナウイルスのパンデミックにより日本中がロックダウンや活動自粛に追い込まれた2020年。東京の大企業に勤める釣り好きの西尾晋作(菅田将暉)はリモートワークをきっかけに、南三陸に見つけた4 … 続きを読む

Willfriends

page top