【インタビュー】映画『一度も撃ってません』阪本順治監督「こういう時代だからこそ石橋蓮司を見てほしい」

2020年6月29日 / 06:00

 ハードボイルドを気取る、売れない小説家の市川進には、伝説の殺し屋というもう一つの顔があった。だが、実は彼は一度も人を撃ったことはないのだ…。18年ぶりの映画主演となった石橋蓮司が、二つの顔を持つ主人公をコミカルかつ渋く演じる『一度も撃ってません』が7月3日から全国公開される。本作の阪本順治監督が、石橋の魅力や、撮影の裏話、映画に対する思いなどを語った。

阪本順治監督

-この映画は石橋蓮司さんの個性を生かした、コミカルかつハードボイルドなものになっています。その発端は、やはり「石橋蓮司ありき」だったのでしょうか。

 そうです。僕は次回作を作るときに、まず「誰とやりたいのか。誰にカメラを向けたいのか」を考えます。蓮司さんには、僕の映画にも何本か出演してもらっていましたが、監督と主役という関係で、がっつり組んだことはなかったし、「あの人の持つおかしみみたいなものに俺はまだ触れていない」という思いもありました。平たく言えば、「こういう時代だからこそ石橋蓮司を見てほしい」という思いがありました。

-石橋さんもそうですが、今回共演した大楠道代さん、岸部一徳さん、佐藤浩市さんは、原田芳雄さんの遺作になった『大鹿村騒動記』(11)にも出演していました。何か今回とのつながりはあったのでしょうか。

 つながりは確実にあります。それにとどめを刺したのは桃井(かおり)さんですけど。皆事あるごとに芳雄さんの家に集っていたメンバーで、江口洋介くんもそうです。ただ、仲間内でわいわいと映画を撮るということではなくて、このつながりを映画に生かしたいというのがありました。皆、それぞれ奏でる楽器は違いますが、蓮司さんを真ん中に、メインボーカリストにしてバンドを組むとどうなるんだろう、ということです。ジャズのフリーセッションのような感じですが、何か新しいものが生まれるのではないか、という期待があって、皆に声を掛けました。そんなつながりがあったからこそ、皆、手弁当でやってくれました。

-おなじみの俳優さんを、違う役柄で演出する醍醐味(だいごみ)や楽しみはありますか。

 本人たちも、連続物は別にして、一つ一つの映画を作り上げていくときに、以前と同じようなニュアンスのものをやりたいとは思わないはずです。常に、架空性の中で、自分はどう存在するのかを面白がるのが俳優さんの本質なので。互いに癖を知り合っているからこそ、逆に予想外のことが生まれる、という期待があります。

-今回は、どんな場面でそれを感じましたか。

 それはいろいろな場面で感じました。カメラをそれほど動かさず、ワンフラットで撮って長回しをしているところなどは、台本通りに演じていらっしゃるんですけど、互いにアドリブをかましているような気にさせられるところがありました。皆存在そのものがアドリブなんですが…(笑)。これは、その場の瞬発力で生まれるものです。何でそれが可能なのかと言えば、台本を読み込み、自分の役のことがよく分かっているからです。原田芳雄さんもそうでしたけど、役をどんどん整理していくと面白くなくなるんです。僕もそう思うので、あまりリハーサルをせず、そのときでないと生まれないものを切り取って映していこうと。それができる人たちだったので。

-今回の脚本は、松田優作さんの「探偵物語」や『遊戯』シリーズの丸山昇一さんでした。何か影響を感じる部分はありましたか。

 ハードボイルドをどう捉えるかにもよりますが、今回は蓮司さんとやるのであれば、軽妙にやってみたいというのがありました。蓮司さんが決めれば決めるほど、はたから見れば喜劇になっているという…。僕はコメディーと喜劇は違うものだと思っていて、喜劇はとても難しいと思います。コメディーの多くは、物語性やシチュエーションのおかしさで笑わせるもの。喜劇は登場する人たちのおかしみで笑ってもらうもの。そういう喜劇を担える、抜群の間を持った人が少なくなってきていると思います。僕らはそれを“遊び”と言いますが、最近は遊べない人たちが多くなってきましたから。

-丸山さんが、この映画のことを「いい年をしてばかをやっている男と女の話だ」と話していたそうですが。

 それは、ぶれないものを持っているという、ある種の頑固さのことですね。時代は変わっているのに、まだそれを貫き通そうとしていることが、若い人たちから見れば喜劇であるということです。

-それをかっこいいと感じるか、おかしいと思うかの、二通りが考えられますね。

 見終わった後で、そのどちらを持って帰るかはお客さんの判断です。今回は、ある種のカッコ良さとカッコ悪さが共存しているところを目指したわけですが、主人公の傍若無人ぶりや豪放磊落(らいらく)さに憧れる人もいれば、「俺は真面目に生きているのに、何をふざけているんだ」と思う人もいるかもしれません。それはどちらもありだと思います。

 
  • 1
  • 2

特集・インタビューFEATURE & INTERVIEW

【週末映画コラム】『六人の嘘つきな大学生』/『アングリースクワッド 公務員と7人の詐欺師』(11月22日公開)

映画2024年11月22日

『六人の嘘つきな大学生』(11月22日公開)  大手エンターテインメント企業「スピラリンクス」の新卒採用の最終選考に残った6人の就活生への課題は「6人でチームを作り、1カ月後のグループディスカッションに臨むこと」だった。  全員での内定獲得 … 続きを読む

生駒里奈が語る俳優業への思い 「自分ではない瞬間が多ければ多いほど自分の人生が楽しい」【インタビュー】

舞台・ミュージカル2024年11月20日

 ドラマ・映画・舞台と数多くの作品で活躍する生駒里奈が、ストーリー性のある演劇的な世界観をダンスとJ-POPで作り上げるダンスエンターテインメント集団「梅棒」の最新作、梅棒 19th GIFT「クリス、いってきマス!!!」に出演する。生駒に … 続きを読む

史上最年少!司法試験に合格 架空の設定ではないリアルな高校2年生がドラマ「モンスター」のプロデューサーと対談 ドラマ現場見学も

ドラマ2024年11月17日

 毎週月曜夜10時からカンテレ・フジテレビ系で放送している、ドラマ「モンスター」。趣里演じる主人公・神波亮子は、“高校3年生で司法試験に合格した”人物で、膨大な知識と弁護士として類いまれなる資質を持つ“モンスター弁護士”という設定。しかし今 … 続きを読む

八村倫太郎「俊さんに助けられました」、栁俊太郎「初主演とは思えない気遣いに感謝」 大ヒットWEBコミック原作のサスペンスホラーで初共演『他人は地獄だ』【インタビュー】

映画2024年11月15日

 韓国発の大ヒットWEBコミックを日本で映画化したサスペンスホラー『他人は地獄だ』が、11月15日から公開された。  地方から上京した青年ユウが暮らし始めたシェアハウス「方舟」。そこで出会ったのは、言葉遣いは丁寧だが、得体のしれない青年キリ … 続きを読む

「光る君へ」第四十三回「輝きののちに」若い世代と向き合うまひろと道長【大河ドラマコラム】

ドラマ2024年11月15日

 NHKで好評放送中の大河ドラマ「光る君へ」。11月10日に放送された第四十三回「輝きののちに」では、三条天皇(木村達成)の譲位問題を軸に、さまざまな人間模様が繰り広げられた。  病を患い、視力と聴力が衰えた三条天皇に、「お目も見えず、お耳 … 続きを読む

Willfriends

page top