【インタビュー】『彼女がその名を知らない鳥たち』阿部サダヲ「したこともないし、これからもしないだろう、共感しない恋」

2017年10月27日 / 12:00

 出てくるのはゲスばっかり!? “共感度ゼロの最低な女と男たち”が繰り広げる沼田まほかる氏の人気ミステリー小説『彼女がその名を知らない鳥たち』が映画化され、10月28日(土)から公開される。蒼井優演じる十和子は、同居する陣治の稼ぎを当てにして自堕落な生活を送り、不倫に走る嫌な女…。そんな十和子に疎まれ、罵声を浴びせられながらも付きまとう下劣な男・陣治を演じているのが阿部サダヲだ。一見、共感し難いキャラクターを魅力的に演じた阿部に、役づくりの苦労や工夫などを中心に聞いた。

下劣な男・陣治を演じた阿部サダヲ

-初出演の白石和彌監督作品。監督の印象や、現場の雰囲気はいかがでしたか。

 映画『凶悪』(13)や『日本で一番悪い奴ら』(16)を見て、「怖い人」「悪い人」というようなイメージがありましたが(笑)、全然違いました。かわいらしい方で。監督のお芝居の作り方は、僕にはすごく合っていました。監督の頭の中にイメージが全てあり、動き方や演じ方を全部説明してくださる。それに対して蒼井(優)さんも反応がいい方なので、現場が止まるということがありませんでした。

-原作の舞台は大阪。関西弁で演じるご苦労はありましたか。

 相当苦労しました。方言指導の方にせりふを録音してもらったものを毎日聞いて、そして寝る、という感じでした。それをずっと聞いていないと不安でしょうがなかったんです。ロケもずっと関西だったので、なるべく日常会話も聞こうと思って居酒屋に行ったり、関西弁の友達としゃべったり。そうやっていても、やはり演じていて感情が入ってくると、イントネーションが変わってくるらしいんです。「このイントネーション違う」って感じた時に芝居が止まっちゃったりするのがいやなので、難しかったです。

-蒼井さんとの絡みが印象的でしたが、ベッドシーンは難しかったですか。

 恥ずかしがらないことですよね、きっと。僕はあんまりそういうのに慣れていないですけど、蒼井さんはすごく堂々としている人だから、やりやすかったですね。1、2回の撮影で終わるような。とにかく時間がかからないんですよ、蒼井さんは。「パパッとやって終わりましょう」というような感じで、さっぱりしたかっこいい人。白石監督も「こうすると、実際は触っていなくても、触っているように見えますよ」なんて指導してくださり、僕と蒼井さんも、「なるほど」「あっ、本当だ」なんていう感じでした(笑)。

-最近お茶の間で見る阿部さんは、「いいパパ」というようなイメージも強いのですが、陣治はそれとは正反対の「汚さ」を前面に出した役でした。役に入るために何か工夫をされましたか。

 陣治の役は、衣装もいくら汚れてもいいので、いろいろな所に寝転がっていました。ロケ現場の昭和っぽい畳敷きの部屋でも、コンクリートの上でも。寝そべってダラダラダラダラ。僕はたばこは吸わないんですけれど、役で使うたばこを吸ってダラダラしていました。お弁当も、落としてしまったものも食べていたもんなあ。陣治の気持ちになっていたんでしょう。

-しつこくて、十和子に疎まれながらも、十和子を支え、愛し続けていく陣治。かなり強烈なキャラクターであるにもかかわらず、見る人を引きつけますね。

 一番最初に監督に話を聞いた時から、「陣治にほれ込んでいるな」って強い思い入れを感じて、ただ汚いだけではなく、愛されるキャラクターを作っていかなきゃいけないと思いました。監督やスタッフさんたちも、陣治というキャラクターを作っていく中で、すごく陣治を愛しているのを感じました。現場では、僕と蒼井さんのシーンをまず撮っていって、後から松坂(桃李)くんや竹野内(豊)さんが来たんです。僕が愛されているところに、明日から悪いやつらが来るよっていう感じで、僕はすごく助かりました(笑)。

-駄目な登場人物たちの中で、駄目だけど少しは気持ちが理解できるような人はいますか。

 えー? この中で? いないですね(笑)。理解できないです。(8年前に別れたのに十和子が忘れられない黒崎俊一を演じる)竹野内豊さんと言いたいところだけど、駄目だもんなあ。一番駄目なのは(自分の性欲のためだけに動き、十和子と肉体関係を結ぶ水島真を演じる)松坂桃李くんでしょうね。どうしようもない、救いようがない男の役です。劇中でけがをするシーンなんかも、「痛い!痛い!」ってうるさかったもんなあ(笑)。けがの跡も自慢して生きていくようなタイプですね。

-衝撃的なラスト。不思議な余韻が残り、頭から離れなくなります。

 「えーっ!?」と思いました。どういうことなのって。ここまでの愛というか、うーん。僕自身は子どももいるし、ああいう恋をしたことがない。これから先もしないでしょうし…。共感はしないです。あの場面は長回しで撮るっていうのが決まっていたんです。しかも夕暮れ時で、スケジュール的に2回ぐらいしかチャンスがなかったという背景もあり、すごく気持ちが入っています。十和子の「はっ?」っていうあっけにとられたような表情もまた良かったですし。ラストシーンで鳥が飛んだんですよ。カラスだったんで、“その名を知らない鳥たち”じゃなくて名前を知っているんですけど(笑)。かなり盛り上がりました。

(取材・文・写真/千葉美奈子)

(C)2017映画『彼女がその名を知らない鳥たち』製作委員会

『彼女がその名を知らない鳥たち』
10月28日(土)新宿バルト9他全国ロードショー
配給:クロックワークス


特集・インタビューFEATURE & INTERVIEW

【週末映画コラム】『六人の嘘つきな大学生』/『アングリースクワッド 公務員と7人の詐欺師』(11月22日公開)

映画2024年11月22日

『六人の嘘つきな大学生』(11月22日公開)  大手エンターテインメント企業「スピラリンクス」の新卒採用の最終選考に残った6人の就活生への課題は「6人でチームを作り、1カ月後のグループディスカッションに臨むこと」だった。  全員での内定獲得 … 続きを読む

生駒里奈が語る俳優業への思い 「自分ではない瞬間が多ければ多いほど自分の人生が楽しい」【インタビュー】

舞台・ミュージカル2024年11月20日

 ドラマ・映画・舞台と数多くの作品で活躍する生駒里奈が、ストーリー性のある演劇的な世界観をダンスとJ-POPで作り上げるダンスエンターテインメント集団「梅棒」の最新作、梅棒 19th GIFT「クリス、いってきマス!!!」に出演する。生駒に … 続きを読む

史上最年少!司法試験に合格 架空の設定ではないリアルな高校2年生がドラマ「モンスター」のプロデューサーと対談 ドラマ現場見学も

ドラマ2024年11月17日

 毎週月曜夜10時からカンテレ・フジテレビ系で放送している、ドラマ「モンスター」。趣里演じる主人公・神波亮子は、“高校3年生で司法試験に合格した”人物で、膨大な知識と弁護士として類いまれなる資質を持つ“モンスター弁護士”という設定。しかし今 … 続きを読む

八村倫太郎「俊さんに助けられました」、栁俊太郎「初主演とは思えない気遣いに感謝」 大ヒットWEBコミック原作のサスペンスホラーで初共演『他人は地獄だ』【インタビュー】

映画2024年11月15日

 韓国発の大ヒットWEBコミックを日本で映画化したサスペンスホラー『他人は地獄だ』が、11月15日から公開された。  地方から上京した青年ユウが暮らし始めたシェアハウス「方舟」。そこで出会ったのは、言葉遣いは丁寧だが、得体のしれない青年キリ … 続きを読む

「光る君へ」第四十三回「輝きののちに」若い世代と向き合うまひろと道長【大河ドラマコラム】

ドラマ2024年11月15日

 NHKで好評放送中の大河ドラマ「光る君へ」。11月10日に放送された第四十三回「輝きののちに」では、三条天皇(木村達成)の譲位問題を軸に、さまざまな人間模様が繰り広げられた。  病を患い、視力と聴力が衰えた三条天皇に、「お目も見えず、お耳 … 続きを読む

Willfriends

page top