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家老でありながら井伊家中で孤立する小野政次(高橋一生)が、唯一本音を打ち明けることができる相手が弟の玄蕃である。演じているのは、ミュージカル俳優として人気を集める井上芳雄。初めての大河ドラマ出演で時代劇初挑戦となった本作について、舞台との違いなどを交えて語った。
これはすごいことだと感じて、とてもうれしかったです。ちょうど、ミュージカル「エリザベート」の公演中に発表されたので、共演の皆さんが「大河俳優!」と呼んで祝ってくれました。共演していた花總まりさん(佐名役)も出演されるということだったので、2人で「緊張しますね」と話しながら、ワクワクしていました。
普段、ミュージカルでは日本人を演じることが少ないので、右も左も分からないところに飛び込むつもりで所作の稽古をしました。花總さんとは「昨日、所作の稽古に行って来ました」とか、情報交換もしていました。先日、撮影の待ち時間にソファにもたれかかって休んでいたのですが、そうすると着物がしわになってしまうんですね。そんなことも僕は知らなかったので、所作の先生から注意を受けました。日々、勉強することばかりです。
欧米人を演じることが多いミュージカルでは、彫りを深く見せるためにノーズシャドウを濃く入れるなど、いかに日本人ではないように見せるかということに努力してきました。でも今回は、着物を着てかつらをかぶった途端に、「やっぱり自分は日本人だ」と感じられたことが新鮮でした。そのままで日本人に見えることがうれしかったです。
決まりごとがいろいろあって、うれしい時や悲しい時の感情の表し方、動作の一つ一つが現代とは違うので、難しいです。ただ、人間を演じるという意味では変わらないので、制約がある中でどう演じたらいいのかと考えることはとても面白いです。現場も変にピリピリせず、井伊家の家臣を演じるでんでんさんや筧利夫さんたちと雑談しながら、いい雰囲気の中で楽しくやらせていただいています。
とても現代的な人です。生まれや家柄が最も重要な時代に、弟という気楽さからか、自分の気持ちに正直で、思ったことは素直に口にする。その上、出世だけを望んでいるわけでもなくて、結婚した妻のなつのこともちゃんと愛している。「大事なものは何だ」と聞かれて、玄蕃ははっきり「愛です」と答えます。すてきな人ですよね。なつを演じる山口紗弥加さんが「あのシーンで玄蕃のことがすごく好きになりました」と言ってくれたのですが、僕のことを言われたような気がしてうれしかったです(笑)。
桶狭間の戦いの場面では、すごく大きなセットが組まれていました。その上、史実では当日、雨が降っていたということで、実際に雨も降らせていて、役作りをしなくても、その場に立ったら自然と役に入り込むぐらいリアルでした。舞台ではそれほど細部までセットを作り込まないので、その精巧な出来栄えに驚きました。
他の皆さんもおっしゃっていますが、着た時はすごくうれしくて興奮したものの、30分もたつと、その重さとトイレに行けないという心配でソワソワしてきました(笑)。日本流の殺陣も初めての経験でしたが、監督や殺陣師の方のおかげで迫力ある映像に仕上がっていて、長年の蓄積がある大河ドラマのすごさを感じました。
玄蕃は、井伊家中で小野が置かれた苦しい立場を政次と分かち合っています。高橋一生さんとも話していたのですが、みんな小野にすごく冷たい。にぎやかな宴の場面でも、僕たち2人は酒に手も付けられません。高橋さんは「玄蕃が来てくれたから2人になったけど、お父さんがいなくなってからずっと1人だったから。結構つらいよ」と言っていました(笑)。とはいえ玄蕃は、自分の役割や立場を守らなければならない政次ほど背負っているものはありません。だからこそ見える景色があります。そういう一歩引いた立場からの玄蕃の意見が政次の役に立っているので、すごくいい兄弟だと思います。
実年齢は僕の方が二つ上なので、撮影に入る前は「弟に見えるのかな」と心配していたのですが、高橋さんはとても低い声とすごみのある落ち着いた芝居で演じられています。玄蕃は真逆のキャラクターなので、コントラストが出しやすいです。
テレビドラマの出演はそれほど多くはないのですが、その中でも森下さんの作品には幾つか出演させていただきました。今回も台本を読ませていただいたところ、その中には人の気持ちや愛情、運命といった普遍的なものが描かれていました。「こんな人が、こんな人生を送ったのか」という驚きがあり、すごく切ないけど魅力的な物語に仕上がっています。時代設定の違いこそあれ、大河ドラマも現代劇も変わらないという印象を受けました。
実はこれまで、どちらかというと兄役の方が多く、弟という役はあまり演じたことがありません。また、舞台では大きなテーマを背負った役を演じることが多いのですが、今回は兄との対比を出すことなどが役割なので、いい意味であまり背負うものがありません。だから、すごく新鮮で楽しいです。そんな普段の役柄とは違う部分を見ていただければ。あとは、和装姿を見て、やっぱり日本人だったと分かってもらえたらいいですね(笑)。
(取材・文/井上健一)
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