NHKの大河ドラマ「花燃ゆ」で、ナレーションを担当している池田秀一。1964年にNHKで放送されたドラマ「次郎物語」の主人公を演じ、天才子役と呼ばれた。アニメーションの声優としても知られ「機動戦士ガンダム」ではシャア・アズナブルの声で幅広い世代から支持を受ける池田が、語りの方向性と大河ドラマへの思いを語った。
-大河ドラマの語りとして声が掛かったときにどう感じましたか。
僕でいいんですかという感じでしたね(笑)。
-今回の「花燃ゆ」は、どういうナレーションにしようと考えていますか。
女性が主人公ですし、市井の人の目線から志士のことが描かれます。語りはその目線と同じ立ち位置にいた方がいいのか、もっと客観的にやった方がいいのかいろいろと考えています。いますごく楽しみなんです。背伸びしてもしょうがないですし、自分の背丈に合った範囲内でやらせてもらいます。
-大河ドラマの語りは一つの役だという人もいますね。
できれば邪魔しない方がいいと思っています。主人公の文や登場人物たちと一緒に同時進行で幕末の世界を感じていけたらいいと考えています。
-語りのアイデアは映像を見たときに一番浮かびますか。
映像と音ですね。ディレクターによっては語り部が感情移入し過ぎるのを嫌がって語りの別録りをしたがる人もいますが、私は別録りの方が苦手なんです。同時だと、場面の中で泣いているとこっちも泣けてきますから、映像があった方がやりやすいですし、今回はそうしてくださるので、ありがたいです。
-アニメファンにとって池田さんは、「機動戦士ガンダム」の“赤い彗星”ことシャア・アズナブルです。30年以上もシャアのイメージがあるというのは役者冥利(みょうり)に尽きるのでは?
今は仲良くやっています。もう、シャアというキャラクターは他人じゃなくなっています。ファンの方にとっても、例えば音楽を聴けば、それを聴いていた時代を瞬時に思い出すのと同じように、シャアという人物もそういうふうになってくれればうれしいです。やはり継続は力です。でも「花燃ゆ」に、ガンダムのせりふを入れるわけにはいきませんけど(笑)。
-そんなガンダムファンにメッセージはありますか。
宇宙世紀(ガンダムシリーズにおける架空の紀年法)だけじゃなくて、地球にもちゃんと歴史があり、そこに生きた人、死んだ人がいるということを知ってもらいたいですね(笑)。
-井上真央さんはいかがですか。
子役の時代から好きでした。もともと持っている引き出しもあると思いますし、大人になってからもすてきな女優になられましたよね、映画『八日目の蝉』とか、非常によかったですね。長丁場の中で、かれんな文が力強い女性に成長していく姿を描き切ることを楽しみにしています。文ははまり役なのではないかと思っています。
-今回はホームドラマ的な一面もあります。
そうですね。でも人生はそんな甘いものでもないよとスパッと切っているところもある。ドラマの切り口がソフトに見えて怖い。女性脚本家らしい作品だと思います。
-「花燃ゆ」に何を感じてほしいですか。
私は語りで、幕末に生きた若い人たちの「におい」を香り立たせたいと考えています。現代は、若者たちにとってはあまり面白くない時代なのではないかと思っています。僕らのころは闘うものがありました。今の若い人には闘うものがあるのでしょうか。そういう意味では、「花燃ゆ」で描かれる幕末から維新のころはうらやましい時代。若い人たちには、このドラマを見て、松陰や久坂(玄瑞)ら志士たちの中に何かを見つけてほしいです。