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しじみ汁を飲んだトキが口にする「あー…」は、序盤の脚本を書き直したときに生まれました。書き直しをする中で、どうしたら面白くなるか考えていたとき、ふとひらめいて。しじみ汁を飲んだトキが、「あー…」と言うことで、司之介から「はしたない」という言葉を引き出すことができる。それによって、「ここは武士の家だ」という司之介の考えを、面白く、端的に見せられるのではと。トキには、大人になっても、ヘブンの妻になっても、変わらずにいてほしかったので、後々までそれを繰り返すようになりました。
ヘブンと出会ったことで、トキの日常にさまざまな西洋文化が入ってきますが、“異人さんがやってきた”ということを、“土足で家に上がる”みたいな使い古された描写でなく、もう少し“おかしみ”のあるもので表現できないかと考えていたんです。その中で、パッとひらめいたのが、スキップでした。それが後々、トキの心情表現など、さまざまな場面にハマるようになって。ヘブンと心を通わせたトキが、松江大橋でスキップするシーンは、僕も大好きです。
あれほど異人嫌いだった勘右衛門が、上手にスキップすることを、皆さんは意外に思われたかもしれませんが、僕の中では違和感はありませんでした。史実上、セツさんの養祖父がハーンさんの日本名“八雲”の名付け親ということもあり、スキップを通じて少しずつ歩み寄っていく感じも意識していました。
僕もあの二人は大好きなので、もっと一緒のシーンを見たかったです。当初は「大きな出来事もない中で、こんなに分厚い友情が生まれるかな?」とやや心配していたんです。でも、演じるトミーさんと吉沢さんの力で、脚本をはるかに超えた分厚い友情が築き上げられていって。錦織がヘブンに振り回される様子など「ばけばけ」の二人は、モデルになったハーンさんと西田仙太郎さんよりもかわいらしくなっていましたし。そういうお二人に、テレビを見ながら毎回、圧倒されっぱなしでした。
西田千太郎さんの史実に合わせ、錦織は亡くなりましたが、ハーンさんの著書『東の国から』にある「出雲時代の懐かしい思い出に、西田千太郎へ」という献辞を、宛名だけ「錦織友一」に変え、そのまま引用させていただきました。あの二人を今後見ることができないのは残念ですが、ヘブンにとっての「一番の友人」という思いを込めて僕がつけた「友一」という名前にふさわしく、第23週はトミーさんと吉沢さんが、脚本を上回る素晴らしいシーンを作り上げてくれました。
残り22週ですが、僕自身、実在の人物をモデルに物語を書くのは初めてなので、登場人物たちがこんなに愛おしく感じられるものかと、テレビを見ながら自分でも驚いています。もうすぐ『怪談』まで辿り着くので、ぜひ最後までトキとヘブンを見守っていただけたらうれしいです。
(取材・文/井上健一)
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