ふじきみつ彦「トキとヘブンが本当に生きていた気がします」連続テレビ小説「ばけばけ」脚本家が物語を振り返る【インタビュー】

2026年3月16日 / 07:00

 NHKで好評放送中の連続テレビ小説「ばけばけ」も第24週を迎え、いよいよ残り2週となった。著書『怪談』で知られる小泉八雲(=ラフカディオ・ハーン)の妻・セツをモデルに、主人公・松野トキ(髙石あかり)と夫レフカダ・ヘブン(トミー・バストウ)の日常を丁寧に描く物語は、多くの視聴者から好評を持って迎えられた。クライマックスを前に、全25週の脚本を書き上げた脚本家のふじきみつ彦氏が、作品を振り返ってくれた。

写真提供=NHK

-最終回まで脚本を書き上げた今、改めて振り返ってトキとヘブンに対する思いをお聞かせください。

 髙石さんの演じるトキと、トミーさんの演じるヘブンを見れば見るほど、さまざまな困難を乗り越え ていく二人が、本当に明治の時代を生きていたような気がしてきました。僕の母が松江出身で、僕も生まれは松江なので、小泉八雲さんの旧居があることは子どもの頃から知っていましたが、育った土地は別なので、それほど身近に感じていたわけではないんです。それでも、松江にトキやヘブン、周りのみんながいてくれてよかったと思うくらい、「ばけばけ」の登場人物が大好きになりました。

-トキが出雲ことばでヘブンが英語と、言語の異なる二人がコミュニケーションをとろうとする姿がほほ笑ましく、夫婦の愛情がにじみ出ていますね。

 最初に朝ドラのお話をいただいたとき、NHKの方がモデルになる人物の候補をいくつか挙げてくださった中から、僕が小泉セツさんを選んだ理由の一つが、「言葉」でした。僕は会話劇が好きなので、出雲ことばと英語だったら、ゆっくりかみ締めるような面白い会話劇になるのでは、と思ったんです。本人たちは大真面目に、自分の意思や気持ちをなんとか言葉で相手に伝えようとする様子が、おかしさといとおしさのある会話になるはずだと。結果的には、僕が期待した以上の「ばけばけ」らしい会話劇になりました。

-お得意とする会話劇の中で、特に印象に残ったことを教えてください。

 「ばけばけ」が、多くの方から応援いただけるようになったのは、一度、第3週まで書き上げた脚本を書き直したことが大きかったと思います。最初に書いた脚本では、「トキは、武士の娘だからはしゃがない」、「当主の司之介(岡部たかし)を立てるため、妻のフミ(池脇千鶴)は会話に入ってこない」など、“武家らしさ”に拘り過ぎ、いまひとつ面白くならなかったんです。その出来に自分でも納得できなかったので、第3週まで書き上げた後、僕の方から申し出て、すべて書き直しをさせていただきました。

-そんな裏話があったのですね。

 その中で、特に印象的だったのが、第1回冒頭の“丑の刻参り”(深夜に白装束でわら人形にくぎを打つ呪いの儀式。劇中では、明治維新によって没落した松野家が、世を恨んで行う様子が、ユーモアを交えて描かれる)の場面です。書き直す前から“丑の刻参り”の場面はありましたが、会話が堅苦しい上に、「武士らしくない」という理由で勘右衛門(小日向文世)もいなかったんです。それを、書き直したときに、勘右衛門を立ち会わせて司之介に突っ込んだり、立ち寝するトキを加えたりした結果、松野家の空気をつかめた手応えがあって。あのシーンを面白く書けたおかげで、その後の執筆も楽しくスムーズに進むようになりました。

(C)NHK

 
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