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横浜さんは、蔦重さんをどう演じるか、常に誠実に真面目に考えていらっしゃいます。そういう空気がスタッフやキャストにも伝播し、しっかり取り組もうという空気感が現場全体に生まれています。同時に、空き時間には共演者やスタッフの皆さんと冗談を言い合うなど、横浜さんが空気を和ませてくださっていると感じることも多くて。無理はしないでほしいと思いつつ、自分の限界を知った上で振る舞っている気もするので、すごい方だなと。しかも、とてもフラットな方なので心強く、私自身も助けられています。
男性のために機能する存在ではなく、女性の主体的な人生を描いてくださるところが、森下さんの脚本の魅力です。私自身も、誰かをサポートする役回りであっても、常にその人自身の生き方をお芝居に反映させることを意識しています。ただ、当時の時代背景を鑑みると、「妻」という立ち位置上、おていさんの主体的な生き様を描くのは、瀬川(小芝風花)や誰袖(福原遥)に比べて難しいのでは…と思っていたんです。でも、脚本を読んでみたら、1人の女性としておていさんがより強く、さらに幹が太くなって自立していく様子がしっかりと描かれていて、うれしくなりました。

(C)NHK
常に心がけているのは、声と姿勢です。年齢を重ねたお芝居をするとき、いつも思い出すのが、樹木希林さんの言葉です。30代からおばあちゃん役を演じられてきた希林さんは、「役者はいつも背中から曲げるけど、違うの。腰なのよ」とおっしゃっていたんです。だから、私も腰を意識しています。ただ、おていさんはまだ若いので、そこまではいかないかもしれません。その代わり、年齢と共に落ち着きが出て肩が丸くなると共に重心が下がり、どっしりとした雰囲気になる気がしています。
声は、今でも徐々に変化していっています。初登場の頃は、それまで女郎たちと触れ合ってきた蔦重さんと向き合う上で、「こんな人とかかわったことがない」と思わせるように、色香を消し、硬くて低く、迫力のある声を意識していました。その頃に比べると、今は柔らかさも出てきていると思います。いずれは、蔦重さんのユーモアに影響され、茶目っ気が出てくる部分もあるのかな…と思いながら、色々と試行錯誤しているところです。
あのお芝居は台本通りですが、こんなシリアスな展開の中でやるのかと驚きました(笑)。でも、笑わせようとするのではなく、真面目なおていさんが真面目にやるからこそ生まれる面白さもあるのかなと思いながら演じました。
おていさんは、第24回でつぶれた店に残った本をお寺に無償で提供した際、「子らに文字や知恵を与え、その一生が豊かで喜びに満ちたものになれば、本も本望、本屋も本懐」と和尚さんに語っていました。それは、「書を持って世を耕す」という蔦重さんの信念にも通じます。私自身、本やテレビドラマ、映画などのエンターテインメントに人生を豊かにしてもらい、「恩」のようなものも感じているので、まさに実感を伴った言葉でした。また、エンターテインメントには社会を変える力があると心から信じ、作り手の1人として常に、その力を雑に扱うべきではないと覚悟と誠意を持って作品に取り組んでいるつもりです。そういう部分は、本に向き合うおていさんの気持ちと共鳴する気がします。
寛政の改革と共に出版統制が強まると、事態に向き合うおていさんと蔦重さんの間で意見が分かれるようになります。ただ、それで離れていくのではなく、異なる意見を持つからこそ、ぶつかり合うことで関係がさらに深まり、夫婦の関係は“阿吽の呼吸”とでもいうべきステージにたどり着きます。そんな2人を皆さんがどのように受け止めてくださるのか楽しみにしつつ、おていさんの信念を大事に演じていくつもりです。
(取材・文/井上健一)

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