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あれは陽造さんのシナリオにあったんです。でも、あの時代のローラースケートは、遊園地のスケートリンクみたいなところで滑っていたんです。まだ道は舗装されていなくて凸凹だったので。だから最初に中也がローラースケートで滑ってくるシーンの場所にはものすごく苦労しました。それから最後のスケートリンクも、実際に遊園地にあるものではなくて、板張りのスケート場を作りました。
特に泰子の精神的な葛藤みたいなものが、やっぱり順を追っていかないと演じる方としても計算が立ちにくいんじゃないかなと思ったので初めから順番に撮っていこうという感じでした。僕の映画は割と順撮りにはしているんですけど、今回は最初の泰子が寝ているところから始まって、ラストシーンで撮影が終わるという流れでした。
歴史的に言えば、こんなとんでもない2人に愛されて、小林秀雄という非常に理知的な人間をあそこまで困らせた人。今回はそういうふうには描いていないけど、実際に2人は3年ぐらい一緒に暮らしているんです。だから、一体どんな人だったんだという興味はありました。ただ、主演映画は1本ぐらいしかなくて女優としては大成していない。だから、こういうとんでもない才能を持った2人の男の間に入ったことで彼女は自分が見えたと思うんです。言ってみれば、ある種のとても魅力的な部分と、平凡というかどこにでもいる女性という両面を持っていたと思うんです。だから、彼女がどんどんと才能を伸ばしていって大成したという話だと、みんな付いてこれないかもしれないけれど、そうではないところがいいなと思って。この映画ではそういうところを描こうと思いました。
泰子を演じるってことで、期待以上に応えてもらったと思います。彼女が持っているポテンシャルの高さというか、今まであまり表に出してこなかった彼女の演技力も含めて、感情表現みたいなものがしっかりと出て、誰も見たことがない広瀬すずが映像に現れていると思います。広瀬さんには5年ぐらい前に彼女が21歳の時に最初にオーダーをして、やりたいという返事をもらいました。それがなかったらこの映画はできなかったかもしれません。
彼らもすごくよかったです。今の時代を生きていながら、映画の中であの時代を生きなければならないというのは非常に難しいことだったと思いますが、そういう雰囲気をよく勉強して作ってきてくれたと思いました。岡田くんには、小林の著作をいくつか読んでもらって、彼がどう生きたのか、何を考えていたのかということをある程度は理解してもらえたかなと思います。木戸くんは、もちろん中也の詩も読んではいたでしょうが、(山口県)湯田の中原中也記念館にも行ってもらって、彼なりの中也像を作り上げた上で、この映画に臨んでくれたと思います。中也役はたくさんの若い人をオーディションしましたが、最後の最後に木戸くんを見つけられて本当によかったと思っています。
(取材・文・写真/田中雄二)

(C)2025「ゆきてかへらぬ」製作委員会
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