「実は『ボレロ』はラベルにとっては大好きな作品ではなかったのです」『ボレロ 永遠の旋律』アンヌ・フォンテーヌ監督【インタビュー】

2024年8月8日 / 08:00

 フランスの作曲家モーリス・ラベルによる不朽の名曲「ボレロ」の誕生秘話を描いた音楽伝記映画『ボレロ 永遠の旋律』が、8月9日から全国公開される。日本公開を前にアンヌ・フォンテーヌ監督に話を聞いた。

(C)2023 CINÉ-@ – CINÉFRANCE STUDIOS – F COMME FILM – SND – FRANCE 2 CINÉMA – ARTÉMIS PRODUCTIONS

-今、なぜラベルの生涯を描こうと思ったのでしょうか。

 ラベルの音楽には、以前からとても興味を持っていました。こんなに素晴らしい曲を作るのは一体どんな天才なんだろうと好奇心をそそられていました。彼の曲は「ボレロ」に限らず、他の作品も素晴らしいですから。ただ、今回「ボレロ」という曲を通してシナリオを書くに当たって、ラベルのとても繊細で脆弱(ぜいじゃく)な部分や、簡単に曲の着想が浮かんでいたわけではなく、スランプになったりして、創作でとても悩む姿やそのプロセスも描きたいと思いました。

-「ボレロ」という曲のことはよく知っているけれども、作者のラベルのことはあまり知らないという人も多いと思います。ラベルのことをもっと知ってもらいたいという気持ちもあったのでしょうか。

 もちろんです。それを知ってもらいたいからこそこのテーマを選びました。ラベルは天才だと思われていますが、この映画では、インスピレーションが枯れてスランプになって…というところから始めました。意識的にそういう設定にしました。せっかく作曲の依頼が来たのに、それをきちんと受け止められない。内なる緊張感がどんどん高まっていく。そんな中で、生み出した曲が20世紀を代表するような傑作になった。そうした矛盾を描きたいと思いました。実は「ボレロ」はラベルにとっては、最も自信があったり、大好きな作品ではなかったのです。だから、成功と失敗、あるいは個人的な好き嫌いが合致しなかったところまで描きたいと思いました。

-この映画は、時系列を崩して、現在と過去が入り乱れたり、回想の部分があったりしましたが、それはどういう意図からそのように描こうと思ったのでしょうか。

 時代を行き来したりする自由さというのは、音楽の持つ自由さとも通じるものがあると考えました。「ボレロ」もそうですし、ラベルの他の作品もそうです。これはこうあるべきだという制約から逃れて、期待を覆すようなところも彼の音楽にはあったと思います。しかも私自身、時系列に合わせた伝記映画があまり好きではありません。どこか夢の中にいるような感じの方が詩情が出ると思うので、今回は彼の人生の断片的なものを夢のように組み合わせていきました。本当に真面目に時系列を追ったら何か映画が貧しくなると思いませんか。

-映画の中の「ボレロ」といえば、クロード・ルルーシュ監督の『愛と哀しみのボレロ』(80)が有名ですが、その中でモーリス・ベジャールの振り付けでジョルジュ・ドンが踊る場面がありました。それがこの映画のイダ・ルビンシュタインの踊りと重なりました。

 今回、イダ・ルビンシュタインの「ボレロ」のダンスを演出するに当たって、当時の写真を参考にしました。イダの衣装はもちろん、大衆酒場的なところに丸いテーブルがあってその上で踊ったという。ベジャールもその写真を基に振り付けを考えたというのは有名な話です。ただ、イダの初演は表現主義的というか、ダンスはあまりうまくはなかったけれど、とてもキャラの立つ人で、自分の考えを押し通すタイプだったようです。私も『愛と哀しみのボレロ』は見ていますし、ジョルジュ・ドンのバレエもライブで見ています。

 
  • 1
  • 2

特集・インタビューFEATURE & INTERVIEW

織山尚大、芸能活動10周年を迎え「今のこの年齢で演じる意味がある」 舞台「エクウス」で3年ぶりの主演【インタビュー】

舞台・ミュージカル2025年12月29日

 映画『うちの弟どもがすみません』やドラマ『リベンジ・スパイ』など、数々の映画やドラマ、舞台で活躍する織山尚大の3年ぶりの主演舞台となる「エクウス」が1月29日から上演される。本作は、実際に起きた事件を基に描かれた、ピーター・シェーファーに … 続きを読む

【映画コラム】「2025年映画ベストテン」

映画2025年12月28日

 今回は、筆者の独断と偏見による「2025年公開映画ベストテン」を発表し、今年を締めくくりたいと思う。 【外国映画】  2025年公開の外国映画を振り返った時に、今年の米アカデミー賞での受賞作は最近の映画界の傾向を象徴するようで興味深いもの … 続きを読む

【Kカルチャーの視点】家族の情緒が国境を越える、俳優ムン・ソリが語る「おつかれさま」ヒットの理由

ドラマ2025年12月26日

 今年のヒットドラマ、Netflixシリーズ「おつかれさま」。子どもから親へと成長していく女性の人生とその家族を描き、幅広い世代から支持され大きな話題を呼んだ。IU(アイユー)との二人一役で主人公エスンを演じたムン・ソリに、ドラマの振り返り … 続きを読む

田中麗奈「こじらせ男の滑稽で切ない愛の行方を皆さんに見届けていただきたいと思います」『星と月は天の穴』【インタビュー】

映画2025年12月24日

 脚本家としても著名な荒井晴彦監督が、『花腐し』(23)に続いて綾野剛を主演に迎え、作家・吉行淳之介の同名小説を映画化した『星と月は天の穴』が12月19日から全国公開された。過去の恋愛経験から女性を愛することを恐れながらも愛されたい願望をこ … 続きを読む

天海祐希、田中哲司、小日向文世、でんでん、塚地武雅「12年の集大成を見届けてください!」大ヒットシリーズ、ついに完結! 劇場版「緊急取調室 THE FINAL」【インタビュー】

映画2025年12月23日

 2014年1月にスタートしたテレビ朝日系列の大ヒットドラマ「緊急取調室」。たたき上げの取調官・真壁有希子が、可視化設備の整った特別取調室で取り調べを行う専門チーム「緊急事案対応取調班(通称:キントリ)」のメンバーとともに、数々の凶悪犯と一 … 続きを読む

Willfriends

page top