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基本的に、脚本執筆の段階でこちらから吉田さんに「この場面を入れましょう」あるいは「これはやめましょう」とお願いしているわけではありません。いずれも、吉田さんが脚本を書かれる際に物語の展開において、必要な要素を入れている。だから、出来上がった脚本を読むと、生理については、女性の人生やキャリアを描くならあってしかるべきだと思えますし、逆に出産シーンはなくても違和感のない物語になっていました。
出産だけでなく、寅子の幼少期や終戦時の玉音放送などが、この作品にはありません。吉田さんは「虎に翼」の物語の中で、そのシーンが必要かどうか思考して脚本を作り上げています。すべてをゼロベースで見て、物語を組み立てていけるのが、吉田さんの素晴らしいところです。そういう意味で、吉田さんに執筆を依頼したわれわれが期待していた以上の脚本になっています。
終戦を迎え、新たなスタートを切る寅子が、裁判官への道を歩み始める過程も含めて「裁判官編」となります。再び法律と向き合う仕事を始めた寅子が、いかに職場で戦っていくか、というところから幕を開けるのが、第10週です。そんな寅子の前に現れるのが、久藤頼安(沢村一樹)、多岐川幸四郎(滝藤賢一)といった法曹界の人たち。寅子が彼らといかに対峙(たいじ)し、乗り越えていくかが今後の一つの見どころになります。ただ、久藤も多岐川も共に仕事に対しては誠実ですが、それぞれ個性的で、寅子を振り回す形になるので、コミカルなテイストも楽しんでいただけると思います。沢村さん、滝藤さんと対峙する伊藤さんのお芝居にもぜひご注目ください。
主人公は寅子ですが、この作品はさまざまな女性たちの物語でもあり、女子部で一緒に法律を学んだ同級生たちも、寅子同様に人生を重ねていくつもりで描いています。ですから、梅子だけでなく、その他の仲間も今後、寅子の人生と再び交錯する機会が出てきます。
花江は、仕事に生きる寅子と異なり、家庭を守って生きる女性です。吉田さんには、寅子だけでなく、花江のような生き方も肯定したいという強い思いがあります。ですから、花江も寅子と並んで人生を歩み、折々に背負っているテーマが寅子とは対照的な言動となって現れます。そういうことをしっかり描きたいという意味で、吉田さんは「もう1人の主人公」とおっしゃったのだと思います。伊藤さんと森田さんの息の合ったお芝居も含め、花江の今後にもぜひご注目ください。
やがて裁判官になった寅子の周りには、同僚の星航一(岡田将生)やその父で最高裁長官の星朋彦(平田満)、弁護士の杉田太郎(高橋克実)といった人物も現れます。さまざまな出会いや懐かしい顔ぶれとの再会を繰り返し、男性に囲まれた環境の中で孤軍奮闘する寅子が、困難や苦しさを乗り越えながら、やりがいや喜びを見つけ、女性としてキャリアを切り開いていく物語は今後、さらにパワーアップしていきます。ぜひご期待ください。
(取材・文/井上健一)
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