「素晴らしい技術も、全ては皆さんを映画の世界に連れていくためのサポートに過ぎないと思っています」『猿の惑星/キングダム』ウェス・ボール監督【インタビュー】

2024年5月13日 / 08:00

-『猿の惑星:創世記(ジェネシス)』(11)のルパート・ワイアット監督は、スタンリー・キューブリック監督の『スパルタカス』(60)を意識したと聞きましたが、今回意識した映画はありましたか。

 幸いなことに、参考にできる作品(過去の9作)が50年分あったので…(笑)。タイトルだけ聞くと意外に思われるかもしれませんが、メル・ギブソン監督の『アポカリプト』(06)です。それは復讐譚(ふくしゅうたん)という部分ではなく、外からやってきた人々に村が襲われて、そこから外に出た若者が、自分が想像していたよりも、はるかに大きな世界があることを知っていくという部分です。後は子どもの頃から触れてきたたくさんの作品が自然にこの映画ににじみ出てきていると思います。

-乗馬のシーンはちょっと西部劇のようでした。

 この映画の一部は西部劇のようなものです。最初に脚本家と話した時に、「きみは黒澤明のような映画が作りたいんだね」と言われました(笑)。黒澤の映画で僕の1位は『用心棒』(61)、『乱』(85)が2位です。『夢』(90)もとても興味深いです。とにかく面白い作品がたくさんあります。最初に触れた黒澤映画が『用心棒』でした。子どもの頃だったので、最初は「白黒かよ。何か古くさそうだし、字幕も付いているし…」と思ったけど、見たらめちゃめちゃいけてて、すごくモダンで、ジャズっぽい音楽も最高だと思いました。それで、映画というものがいかにタイムレスで、力を持ったものなのかということを知りました。

-この映画には、廃虚になった人間の世界が出てきました。あれは68年版の自由の女神とつながる感じがしましたが。

 まさにあれが鍵でした。68年版は人類の造った物の名残が全てなくなってしまった世界。それがどんなふうにして消えていったのか。この映画はその始まりを描いています。そうしたつながりを描くことは楽しかったです。

-今回、監督が一番こだわったのはVFXだと聞きましたが、それはWETA(VFX制作会社)との関わりが大きかったということでしょうか。

 巨大ですね。製作費で一番かかったのもWETAへの支払いだったし(笑)。多分皆さんが理解できないぐらいのレベルでのディテールへのこだわりがあります。例えば、1つの絵があってそこにエイプがいる。エイプはデジタルなわけですけど、彼らの目標は、それが100パーセント信じられるかどうかというレベルではありません。後ろで風が吹いて葉っぱが1枚動いただけでも変えるみたいな、そのレベルで作り込んでいくんです。何か気になるところがあったら、1本の毛でも修整するとか、本当に膨大な仕事量で、いくら褒めても褒め足りないです。世界でも一番素晴らしいアーティストたちだと思います。彼らの仕事によってエイプが存在している世界が完全に信じられますよね。でも、それはイリュージョン、幻想です。でも僕は、やっぱり映画全体を見てほしいから、「ここはいいVFXだね」とは言ってほしくないんです。もう完全にストーリーとキャラクターに入り込んで、リアルだと思いながら見てほしい。だから、素晴らしい技術も、全ては皆さんを映画の世界に連れていくためのサポートに過ぎないと思っています。

-最後に、日本の観客へメッセージをお願いします。

 もちろん、これまでこのシリーズを見てきたファンの人たちにも楽しんでほしいですが、初めて「猿の惑星」に触れる方にもぜひ見てほしいです。普遍的な物語、深くてエモーショナルな心動かされる物語であると同時に、とても楽しい作品になっています。見知らぬ人たちと一緒にファンタジーの世界にいざなわれるという体験は他にはないと思うので、ぜひ映画館の大きなスクリーンで見てほしいです。

(取材・文/田中雄二)

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