「大嫌いなキャラクターを演じるのが結構好きなんです」『白日青春 生きてこそ』アンソニー・ウォン【インタビュー】

2024年1月27日 / 12:51

 「インファナル・アフェア」シリーズなどで知られる香港の名優アンソニー・ウォンがタクシー運転手を演じ、香港を舞台に、難民の少年と心を通わせる姿を描いたヒューマンドラマ『白日青春-生きてこそ-』が、1月26日から全国公開された。公開を前に来日したアンソニー・ウォンに話を聞いた。

アンソニー・ウォン (C)エンタメOVO

 

ー最初にこの映画の脚本を読んだ時にどう思いましたか。

 脚本を読んだ時は、このプロットなら映画化は可能だと思いました。ただ、物語のディテールの部分では、論理的につじつまが合わないところが結構あったので、そこは直さなければと思いました。

ーでは、監督と話し合いながら役作りをしていった感じですか。

 そうですね。人物像については、脚本の中にある程度描かれていたので、私が新たに何かを作るということはなく、ただ演じるだけでいいという状況でした。今回の役は、外見をどうするかがとても大事でした。この映画の中の私は、実際の年齢よりもはるかに老けています。

ーこの映画には、難民や移民、不法滞在など、さまざまな問題が描かれていましたが、日本では、こうした香港の実情はあまり知られていないので、この映画を見て初めて知る人も多いと思いますが、ウォンさんは、こうした問題についてどうお考えでしょうか。

 香港に住む者にとってはよくある話ですから、普通の出来事だと受け止めていますが、逆に、今回日本の皆さんのお話を聞いていて、とても不思議に感じました。日本の皆さんは、よその国で今何が起こっているのかを、あまり知らないんですね。これにはちょっと驚きました。何となく台湾の状況と似ていると思いました。これはあまりいいことではないと思います。私も、どうして日本はこうなるのかを研究してみたいと思います(笑)。

ー今回は難民の少年とのやり取りがとても印象的でしたが、彼との共演はいかがでしたか。私は、2人で海に入ろうとするけど、冷たいのでやめて、砂浜で語り合うちょっとユーモラスなシーンがとても印象に残ったのですが…。

 これはすごくいい質問です。実は、あのシーンには二つのパターンがありました。最初のパターンでは、私たちが一緒に海の中に入って、泳げないあの子に私が水泳を教えるんです。そして海から上がって、砂浜に座って、いろんな話をするというものでした。水泳を教える目的は、あの子が乗った船が万一沈没してしまった場合は、ひたすら泳がなければならないからです。でも私は、このシーンのポイントは、泳ぎを教えることではなく、2人が砂浜に座って語り合うところだと思いました。それに、夜の現場は暗くて寒くて、海に入って水泳を教えるのには危険がありました。だから監督に「この場面は、砂浜に座って、せりふも少しユーモアのあるものに変えて演出をした方がいいのでは」と言いました。監督もそれを受け入れてくれてあのシーンが生まれました。だから今、「ここを見てくださったのか!」と思って、すごくいい質問だと言ったわけです。

ーウォンさんが演じた白日のせりふで「俺はより良い場所に住みたいだけなんだ」「俺はいい人になりたいだけなんだ」というのがありましたが、それが中国の本土から香港にやって来たり、パキスタンから移民してくるというこの映画のテーマを言い当てていると思いましたが。

 おっしゃることはよく分かりますが、この男は普通の人と比べると、とても駄目なやつなんです。人生において失敗したにもかかわらず、反省もせず、仕事も家庭もうまくいかない。そのくせ、俺は一番偉いんだみたいなことを考えている。だから、嫌な感じの男なんです。でも、ほんの少しはいいところもある。だからこれは、普通の人が「将来はもっとより良いところで暮らしたい。いい人間でありたい」という希望を持つのとは違って、駄目なやつが語った愚痴のようなものだと思います。

 
  • 1
  • 2

特集・インタビューFEATURE & INTERVIEW

「光る君へ」第三十三回「式部誕生」人々を動かす「源氏物語」の存在【大河ドラマコラム】

ドラマ2024年9月7日

 NHKで好評放送中の大河ドラマ「光る君へ」。9月1日に放送された第三十三回「式部誕生」では、「源氏物語」の続きを執筆するため、内裏に出仕した主人公・まひろ(吉高由里子)の日常と、中宮・彰子(見上愛)との出会いが描かれた。  彰子の住まいで … 続きを読む

山口紗弥加「自分が役に乗っ取られたような感覚です」ネタバレ厳禁のミステリーで入魂の演技を披露「私の死体を探してください。」【インタビュー】

ドラマ2024年9月6日

 ベストセラー作家・森林麻美が、自身のブログに「私の死体を探してください。」と自殺をほのめかす投稿をして消息を絶つ。麻美の夫・三島正隆(伊藤淳史)や正隆と不倫関係にある麻美の担当編集者・池上沙織(恒松祐里)がその行方を探す中、次々にブログが … 続きを読む

河合優実「すごいところに羽ばたいていく予感はありました」金子大地「面白い映画になるのは間違いないと」恋人役で共演の2人が語るカンヌ受賞作の舞台裏『ナミビアの砂漠』【インタビュー】

映画2024年9月6日

 東京の片隅で暮らし、美容脱毛サロンで働く21歳のカナ。同棲中の恋人ホンダ(寛一郎)との生活に退屈したカナは、映像クリエーターのハヤシと新生活を始める。だが、まもなく2人のペースはかみ合わなくなっていき、ストレスを募らせたカナは…。  9月 … 続きを読む

【週末映画コラム】『エイリアン』の“その後”を描いた『エイリアン:ロムルス』/各国の映画祭で注目を集めた心理ホラー『映画検閲』

映画2024年9月6日

『エイリアン:ロムルス』(9月6日公開)  人生の行き場を失った6人の若者たち(ケイリー・スピーニー、デビッド・ジョンソン、アーチー・ルノー、イザベラ・メルセド、スパイク・ファーン、エイリーン・ウー)は、廃墟と化した宇宙ステーション「ロムル … 続きを読む

紅ゆずるの“ゼロ地点”は「宝塚歌劇団の公演を初めてテレビで見た日」【インタビュー】

舞台・ミュージカル2024年9月3日

 「ミステリーの女王」と呼ばれる推理小説家アガサ・クリスティーが1944年に発表した長編小説を原作とした舞台、ノサカラボ「ゼロ時間へ」が10月3日から東京・三越劇場ほかで上演される。ミステリーを専門に舞台を制作しているノサカラボの代表であり … 続きを読む

Willfriends

page top