大石静「紫式部は、どんな生い立ちの中で『源氏物語』を書ける人間に成長していったのかを描きたい」 脚本家が2024年の大河ドラマに込めた思い【「光る君へ」インタビュー】

2024年1月1日 / 05:00

ーそれは知りませんでした。

 第1回に、少年時代の道長が、「俺は怒るのが好きじゃない」と言う場面がありますが、それが道長の政治の基本です。常にバランスをとり、天皇に対しても、その権力が突出しすぎないように自分も力を持ち、過ちをいさめられるようにしていた。ですからこの作品では、横暴な政治家ではなく、みんなの気持ちをすくいとり、巧みにバランスを取りながら政治を行った優れた政治家として道長を描き、平安時代に対する皆さんの認識を改めたいと思っています。

ー道長役の柄本佑さんの印象は?

 元々名優だと思っていましたが、道長役もものすごくハマっていると思います。柄本さんは、台本に書かれた以上にキャラクターを掘り下げ、きちんと計算して演じていらっしゃる。改めて、すごい役者だなと。道長は当初、上昇志向がなく、のんびり過ごしていますが、父や兄など、周囲の人間が次々といなくなり、あっという間に権力の頂点に立つことになります。善人も悪人も自然に演じられる柄本さんが、そういう道長の変化をどのように演じてくださるのか、楽しみにしています。

藤原道長役の柄本佑(写真提供=NHK)

ー貴族だけでなく、劇中には平安時代の市井の人々も登場するようですね。

 当時、貴族と呼ばれる人たちは、千人くらいしかいなかったそうです。当時の日本の人口がどのくらいだったのか、はっきりとはわかりませんが、いずれにしても貴族はほんの一握りでしょう。紫式部も、下級とはいえ、貴族には違いありませんし。その千人だけの世界を描いていては、物語が偏り過ぎてしまいます。そこで、庶民の視点も取り入れようと、まずは「散楽」の一座を設定しました。そこからバランスを考慮し、藤原氏への反逆の心を持つ人物なども登場させることにしました。

ー「源氏物語」は劇中でどのように扱われるのでしょうか。

 「源氏物語」そのものを描くわけではありません。「源氏物語」は、男女の色恋に終始しているように見えながらも、その裏には人生哲学と権勢批判と文学論が込められた一大長篇作品です。そんな奥深い作品を書いたがゆえに、紫式部は欧米で“レディ・ムラサキ”と呼ばれるほど世界的にも高い評価を受け、「ユネスコが選ぶ世界の偉人10人」に、日本人で唯一名を連ねることになりました。私たちが描きたいのは、紫式部が、なぜ、どういう生い立ちの中でそういうものを書ける人間に成長していったのか、というドラマです。その点では、まひろと道長の出会いが、「源氏物語」における光源氏と若紫の出会いをほうふつとさせるように、紫式部の人生に起きた出来事が、後に「源氏物語」に影響したかも…とにおわせるようなちりばめ方はしています。

ー最後に、本作に賭ける意気込みをお聞かせください。

 視聴者の皆さんにとって、おおよその流れがわかっていて「本能寺の変」や「関ヶ原の戦い」といった象徴的な山場がある戦国大河などと違い、「誰にも知られていない物語を作り上げるのは大変では?」と言われることもあります。でも、私たちはそれを逆手にとって勝負していくつもりです。先がわからないからこその面白さを追求し、胸キュンのラブストーリーから骨肉相争う生々しい権力闘争、そして哲学的なテーマまで、多彩な魅力を持つ物語を作り上げ、従来の大河ドラマファンだけでなく、韓流時代劇ラブストーリーのファン、そしてお子さんまで、誰もが続きを観たくなる作品にしようとみんなで頑張っています。ぜひご期待ください。

(井上健一)

(左から)大石静氏、吉高由里子、柄本佑(写真提供=NHK)

  • 1
  • 2
 

特集・インタビューFEATURE & INTERVIEW

【K-POPもKドラマも深読みしたら韓国が見えた】#MOMOはなぜ、同い年のアナウンサーを「友達」と呼んだのか――韓国語「チング」のもう一つの意味

2026年8月25日

 K-POPや韓国ドラマは、エンターテインメントであると同時に、韓国社会を映す鏡でもある。何気ない言葉やしぐさ、習慣の背景をたどると、その国ならではの価値観や歴史、人との関わり方が見えてくる。この連載では、韓国カルチャーを入り口に、知ってい … 続きを読む

毎熊克哉、近藤華「見えないという恐怖をちょっと和らげてくれる映画だと思います」『見えない娘 THE INVISBLES』【インタビュー】

映画2026年8月25日

近藤 風子が映画を撮ることに興味があるのは、自分ともすごく似ているところだったので、近藤華のオタク的な部分を出して演じた部分はありました。風子は年齢的に子どもでも大人でもない時期なので、自分は大人だと思って背伸びをしているところから、だんだ … 続きを読む

上田竜也&川島如恵留、初共演の二人がバディを組んで事件を解決「お互いに切磋琢磨し合えるような稽古場に」 「ノッキンオン・ロックドドア THE STAGE」【インタビュー】

舞台・ミュージカル2026年8月22日

 上田竜也と川島如恵留が出演する、EX THEATER ARIAKE OPENING LINEUP「ノッキンオン・ロックドドア THE STAGE」が10月6日から上演される。本作は、数々の文学賞の受賞歴を誇る作家・青崎有吾による人気小説シ … 続きを読む

横浜流星「毎回皆さんをハラハラさせながら、しっかりと心に届く作品をお届けできるよう日々撮影に挑んでいます」「LOST10」

ドラマ2026年8月14日

-今回の小駒という役をどう捉えてアプローチをしていますか。  小駒は、分かりやすいというか、正義感や行動力があって、豪胆で短絡的で、出世欲もあって、何度も異動届を出しているけど、それが認められず、地方の高齢化が進んでいる警察署の中では一番の … 続きを読む

中川大志、三谷幸喜の最新作は「現代にも通ずる、過去の出来事として片付けられないもの」を描く PARCO PRODUCE 2026「アメリカン・ドリーム」【インタビュー】

舞台・ミュージカル2026年8月8日

 三谷幸喜が長年温めていたテーマを豪華キャストで描く、渾身(こんしん)の書き下ろし新作舞台「アメリカン・ドリーム」が8月15日からPARCO劇場で上演される。本作は、1940年代後半のアメリカを舞台に、反共産主義に基づく“赤狩り”によって告 … 続きを読む

page top