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坂井真紀、人生は学び「歳を重ねても、学ぶことは絶えなくて、だからこそ面白い」 舞台「橋からの眺め」【インタビュー】

坂井真紀

 1992年にドラマ「90日間トテナム・パブ」(フジテレビ系)で俳優デビューして以降、数々の映画やドラマなどで活躍している坂井真紀。9月2日から上演される舞台「橋からの眺め」では、伊藤英明が演じる主人公エディの妻ビアトリス役を務める。20世紀を代表するアメリカの劇作家アーサー・ミラーによる社会派ドラマの本作は、ニューヨークの貧民街を舞台に、最愛のめいをひきとり暮らす夫婦のもとへ違法移民のいとこを受け入れたことで一家に巻き起こる悲劇を描いた作品だ。坂井に公演への意気込みや俳優業への思いを聞いた。

ー本作は、ローレンス・オリヴィエ賞やトニー賞に輝いた、アーサー・ミラーの骨太な社会派ドラマです。坂井さんが本作の出演を決めた理由を教えてください。

 翻訳劇に出演するのは今回が初めてなのですが、脚本を読ませていただき、人間ドラマとしてとても面白く感じたのが理由の一つでした。それから、演出の方が海外の方というのも初めてでしたので、やったことがないことにチャレンジしてみたいという気持ちも大きかったです。

ーエディ一家とビアトリスのいとこたちの絡まり合った人間関係が描かれている作品ですが、この作品を今、届けることにどんな意義があると感じていますか。

 アーサー・ミラーがこの作品を書いたのは、もう何十年も前ですが、決して古くは感じないんですよ。それはもしかしたら、私が昭和の人間だからなのかもしれませんが(笑)。ですが、私たちの魂にあるものは普遍的だと思います。人間は面倒くさいけれどもいとおしい。そうやって進んでいくのが人生だということが伝わればいいなと思います。暑苦しい人間臭さは、普遍的なものだと思いたいです。

ー(取材当時)稽古がスタートしたばかりだと聞いています。イギリスの演出家ジョー・ヒル=ギビンズさんの演出を受けて、どんなことを感じていますか。

 私たちは考えていることや自分の意見をきちんと言葉にすることに慣れていないなと、ジョーさんと話していて感じます。例えばジョーさんから「あなたはどう思う?」「あなたとこの役はどんなところが似ている?」と言葉にすることを求められるんです。「似ているところというか、こんなところに共感できる」と答えると、(ジョーに)「共感できるところではなく、似ているところです」とつっこまれ。でも時間をかけて考えていくと、似ているところが見つかるんですよね。さらに、この役の人生の足りていない部分はなんだろう、目的はなんだろうと、順序立てて考えていき、その役のゴールを見つけてみるという役の組み立て方も新鮮な経験です。これまでは台本を読み込み、行間を大切に感じて演じていたところがあったと思いますが、台本を論理立てて分析し、きちんと自分の言葉にするという、役へアプローチ、とても面白く感じています。

ーそうした稽古の中で見つけた、役と似ているところというのはどんなところですか。

 私も子どもがいるので、ビアトリスがキャサリンに対して感じている母性だったり、お人好しと言われるほど人が好きというところは似ているのかなと思います。

ー映像作品でも活躍している坂井さんですが、舞台で芝居をするときに感じていることは?

 ライブ感です。そのときに生まれるものを大切にしたいと思っています。慣れずに、焦らずに演じていきたいです。もちろん、生なので、お客さまからの反応が力になっているところも大きいと思います。せっかく同じ空間にいるので、何かを共有できたらいいなと思います。

ー映像作品で演じるときと意識の違いはありますか。

 舞台の場合、まさに今、本番を見せているので、映像とはまた違った緊張感があり、それが楽しくもあります。それから、映像よりも頭の先から足の先まで、全てを見られているという意識があります。一挙手一投足を見て、感じてもらうというのは、生でやっているからこそのものだと思いますし、そうした緊張感や刺激は舞台でしか得られないところではあると思います。

ーゆがんだ愛や嫉妬心が描かれた本作ですが、そうしたゆがんだ愛や嫉妬心を抱いたとき、どのようにするのが良いと考えていますか。

 今の私の年代になったら、そんなことを考えている時間がもったいないというところに行き着いているので、そういうことに執着しないよう心をコントロールするよう心掛けると思います。ですが、それは狭いコミュニティーである家族の中でのこととなるとまた違ってくるのかもしれませんよね。ビアトリスの状況を考えると、とてもつらいと思います。誰かに認められて生きてきたわけではないビアトリスが、旦那さんからも女として見られなくなっていくわけで、じゃあ、ビアトリスはどうすれば良かったのでしょうね…。それは、稽古の中で見つけていければと思っています。

ー自分だったらどうするかを考えさせられる作品ですね。

 みんなそれぞれの正義と思いがあって、それがぶつかり合っているので、正解がないんですよね。見る人によって、それぞれ当てはまる人物が違うんじゃないかなと思います。

「橋からの眺め」(上段左から)伊藤英明、坂井真紀、福地桃子(下段左から)松島庄汰、和田正人、高橋克実

 

ー本作の出演にあたって、「この作品に人生を強く感じた」というコメントを出していましたが、坂井さんにとって「人生」ってどんなものですか。

 修行と言うと重くなってしまうので、あえて「学び」とさせていただきます。歳を重ねても、学ぶことは絶えなくて、だからこそ人生は面白いなと思います。

ーそうすると人生の中で大切にされているのは「学ぶ」こと?

 そうですね。王貞治さんが「努力は必ず報われる」っておっしゃっていましたが、本当にそうだなと思います。今、53歳になり、達観する年代になったのかなと思ったら、全然違います。死ぬまで学び、そのために努力をすることで得られる喜びが尊い人生なのでは。ストイック?(笑)。

ーそうした努力を重ねている中で、疲れたときやどうにもならないときには、どうやって気持ちを切り替えているのですか。

 やっぱり、人に助けられています。家族や友人の笑顔だったり、みんなの頑張っている姿にも救われます。大谷翔平選手がホームランを打っている姿にも大きな活力をいただいていますよ。あと、心が疲れてしまうときって、人への感謝を忘れてしまっていることが多かったりします。だから、ひとつひとつ感謝することをあげていくと、あれ、私って意外とラッキーじゃないというところに行き着くんです(笑)。

ーでは、芝居をする上で、特に大切にしていることは?

 「役者はどこかで、自分と距離を持って見ていないとだめだ。自分が気持ちよくなって芝居をしたらだめなんだぞ」と緒形拳さんにおっしゃっていただいたことがあり、その言葉をお守りのように大切に持っていて、演じるときに思い出しています。しかし、役との距離感は本当に難しく、その言葉の重みと深さをいつも痛感しています。

ー俳優としてのターニングポイントとなった出会いを教えてください。

 緒形さんとの出会いももちろんですが、『銀河鉄道の父』という映画で、成島出監督とご一緒させていただいたことも大きな出会いになりました。キャリアだけは上がっていますが、できていないことも多いと思うんです。でもなかなか指摘されることは少ない現実があります。成島監督は、時間をかけて丁寧に、声の出し方やカメラの前でのあり方、台本の読み方を教えてくださいました。成島監督のおかげで、俳優としての意識が変わったことがたくさんあります。本当にありがたい時間でした。

ーこれから先、俳優としての目標やイメージしている未来像は?

 これまでさまざまな役を演じさせていただき、その恩返しという表現がふさわしいか分かりませんが、作品の中で自分の存在が確実な力となれればうれしいです。そして、自分しか出せない存在感のある俳優になりたいです。

ー改めて、作品の見どころを教えてください。

 走り出したら止まらない人間の感情の面白み、悲しみ、そして、人間臭さのある、情熱的な舞台だと思います。それらの人間の姿は、普遍的なものとしてあらゆる人の心に届くと思いますし、アーサー・ミラーの色あせない力強い戯曲の面白さをお届けできたらと思っています。ぜひ、劇場に足を運んでください。

 舞台「橋からの眺め」は、9月2日〜24日に都内・東京芸術劇場 プレイハウスほか、北九州、広島、京都で上演。

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