「賢治もさることながら、お父さんの魅力もあって、これは映画になると思いました」 『銀河鉄道の父』成島出監督【インタビュー】

2023年5月3日 / 08:00

 門井慶喜の直木賞受賞作を映画化した『銀河鉄道の父』が5月5日から全国公開される。宮沢賢治(菅田将暉)の父である政次郎(役所広司)を主人公に、究極の家族愛をつづった本作の成島出監督に、映画に込めた思いや主演の役所について聞いた。

成島出監督 (C)エンタメOVO

-「いつか宮沢賢治の映画を撮りたいと思っていた」と聞きましたが。

 その思いはずっとあったのですが、いろいろなことを調べて、いざ映画にしようと考えると、とても難しいということに気付きました。宮沢賢治には、今でいうところの分裂症や発達障害みたいなところがあって、(賢治の親友の)保阪(嘉内)くんという男性も出てきたりして、とっちらかるんです。やっぱりそれは、天才の宿命でもあるのですが、そうしたことを描かないと面白くならないし…。大森一樹さんと神山征二郎さんの映画(『わが心の銀河鉄道 宮沢賢治物語』(96)と『宮澤賢治 その愛』(96))も真面目に捉えていましたが、そういうことではないと思っていました。それで、やっぱり難しいなと諦めていました。

 そんな中、偶然本屋さんでこの原作と出会って、読んでみると賢治に振り回されたお父さんの話で、なるほど、お父さんが主人公なら、保阪くんも出てこないし、お父さんから見た天才、問題児としての賢治が描ける、これはいけると思いました。それに、お父さん自体がとても面白い人で、イクメンというか、散々賢治に振り回されながらも愛し続けるという、あの時代にしてはすごい人だと思って、賢治もさることながら、お父さんの魅力もあって、これは映画になると思いました。

-これまでは、賢治にとっては敵役のように語られることが多かった政次郎を、今回は、実は息子を愛し過ぎた保護者であり、最大の理解者であったという視点から描いてイメージを一新した感じがしましたが。

 理解者であったという点では前々から有名なんです。宗教も賢治に合わせて改宗したり、賢治がやりたいということをやらせたり…ということは全部残っています。なので、そういうことは前から知っていました。ただ、ここまで親ばかでイクメン的なものがあったということは、(原作者の)門井(慶喜)さんが調べていって出てきたことなので、それは初めて知りました。そこがすごく面白かったです。

-この映画は、とかく聖人、人格者、理想家として語られることの多い賢治像を、父へのコンプレックスを持った駄目男、ドラ息子としての側面から浮き彫りにしていくところが、とてもユニークでした。

 どうしても一元的に見てしまいがちですが、これも両方が本当のことですよね。アインシュタインもモーツァルトもゴッホも、世界中の天才と呼ばれる人にはそういうところがあります。賢治もそういうジャンルの人だったということです。だから、そのお父さんはさぞ大変だったろうなと。ただ、その一方で、賢治も学校の先生をして頑張ったり、農民のためにいろいろと尽くしたりしたことも事実で、どちらか一面というわけではありません。今回は、お父さんを振り回すという意味でいえば、菅田将暉くんのキャスティングも含めて、ちょっとやんちゃな部分を強調しています。

-「この映画は役所広司と菅田将暉で撮りたかった」という監督の談話を読みました。役所さんの持つシリアスな面とコミカルな味、菅田さんの持つ狂気性とピュアな感覚が生かされた適役だったと思いますが、実際にこの2人で撮ってみていかがでしたか。

 今回は、最初からこの2人以外は全く考えていなかったので、とてもよかったです。まだシナリオが一行もできていなかったときに、2人の事務所に原作を持って行って、「絶対映画にしますから、これを読んで前向きに考えてください」とお願いしました。事務所の人から「まだシナリオもないのに、こんなことは初めて」と言われました(笑)。そのぐらい、「この2人じゃないと駄目だ」と思っていました。出来上がった映画も、イメージ通りで、この2人で本当に良かったと思いました。

-2人以外でも、母・イチ役の坂井真紀さん、妹・トシ役の森七菜さんと、女性陣も印象的でした。

 実は、家族ということを考えた場合に、この2人の女性がいる意味はとても大きいと思いました。2人とも、とても頑張ってくれました。

-時折、画面を揺らしたり、構図を変えたりした意図は? 政次郎や賢治の心の揺れを表現するためだったのでしょうか。

 こういう明治の話で、収まりがいい形にはしたくないと思いました。賢治とお父さんの荒ぶる魂というか、そういうものをカメラと一緒に感じてもらえればと思いました。

 
  • 1
  • 2

特集・インタビューFEATURE & INTERVIEW

佐々木蔵之介「毎朝、亡き大森一樹監督に思いをはせながら現場に通っていました」名監督の遺志を継いで主演に挑んだ時代劇『幕末ヒポクラテスたち』【インタビュー】

映画2026年5月8日

 大ヒット作『ゴジラ-1.0』(23)からNHKの大河ドラマ「光る君へ」(24)まで、幅広い作品で活躍を続ける佐々木蔵之介。その主演最新作が、幕末の京都の小さな村を舞台にした医療時代劇『幕末ヒポクラテスたち』(5月8日公開)だ。中国・唐由来 … 続きを読む

ミュージカル「メリー・ポピンズ」通算250回公演達成! 濱田めぐみ「長く長く上演していけたら」 大貫勇輔「毎公演、奇跡を起こせるように」

舞台・ミュージカル2026年5月5日

 ウォルト・ディズニーが映画化し、アカデミー賞5部門を受賞した映画を原作とした、ミュージカル「メリー・ポピンズ」。現在上演中の日本プロダクションが、5月6日に記念すべき250回公演を迎える。それに先立ち、メリー・ポピンズ役の濱田めぐみと、バ … 続きを読む

三山凌輝、「愛の不時着」でミュージカル初挑戦 「これまでのパフォーマンスの集大成でもある」【インタビュー】

舞台・ミュージカル2026年5月3日

 元BE:FIRSTのメンバーで、朝の連続テレビ小説「虎に翼」でヒロインの弟役を演じて話題を集めた三山凌輝が、ミュージカル「愛の不時着」でミュージカル初主演を果たす。韓国の財閥令嬢と朝鮮人民軍軍人の国境を超えた愛を描いた本作は、2019年か … 続きを読む

「豊臣兄弟!」第16回「覚悟の比叡山」“守られる側”の農民から“守る側”の侍になった小一郎と藤吉郎の覚悟【大河ドラマコラム】

ドラマ2026年4月28日

 NHKで好評放送中の大河ドラマ「豊臣兄弟!」。戦国時代、主人公・豊臣秀長(=木下小一郎/仲野太賀)が、兄・秀吉(=木下藤吉郎/池松壮亮)を支え、兄弟で天下統一を成し遂げるまでの軌跡を描く物語は快調に進行中。4月26日に放送された第16回「 … 続きを読む

ゆうちゃみ「るり子が現実にいたらめっちゃ親友になれそうやなっていう感じでした」『アギトー超能力戦争ー』【インタビュー】

映画2026年4月28日

 仮面ライダー生誕55周年記念作『アギトー超能力戦争ー』が4月29日から全国公開される。本作で主要キャストの1人である葵るり子を演じたゆうちゃみに、映画初出演への思いなどを聞いた。 -出演が決まった時の心境は?  「マジ、ドッキリ?」みたい … 続きを読む

page top