名脚本誕生の舞台裏「渋沢栄一さんは、すごく分かりにくい人だと思った」大森美香(脚本)【「青天を衝け」インタビュー】

2021年12月3日 / 08:16

 NHKで好評放送中の大河ドラマ「青天を衝け」。12月に入り、激動の幕末から近代を駆け抜けた日本資本主義の父・渋沢栄一(吉沢亮)の物語はいよいよ大詰めを迎える。本作を通して波瀾(はらん)万丈なその生涯に触れ、「新1万円札の人」のイメージが大きく変わった視聴者も多いに違いない。だが、脚本を担当した大森美香は当初、主人公の渋沢栄一について「すごく分かりにくい人」という印象を持ったという。そこからいかにして視聴者を魅了する物語を生み出していったのか。全41回の脚本を書き上げた大森が、その舞台裏を語ってくれた。

脚本を担当した大森美香

-最終回まで脚本を書き終えた今の気持ちは?

 途中でコロナ禍になり、「本当に放送されるんだろうか」など、いろんなことを心配しながら書いていましたが、きちんと最終回まで書き終わり、皆さんも元気に撮影を終えられて、すごくほっとしています。書いている途中からは、視聴者の方たちのお声も聞こえてきて、とても励まされました。今は無事に最終回まで放送されることを楽しみにしています。

-脚本を執筆するに当たり、コロナ禍の中でどんな苦労がありましたか。

 撮影開始が当初の予定よりも遅れましたし、実際に役者さんたちが動いている様子を見ながら書けたらいいな、と思っていましたが、それもできなくなってしまいました。そういう意味で、現場との一体感がなかなか感じられない中で書いていく心細さはありました。ただ、撮影された映像が届くようになってからは、すごくワクワクしながら書いていました。

-大変見応えのあるドラマになりましたが、物語は91歳まで生きた渋沢栄一の生涯の前半に重点が置かれています。その理由を教えてください。

 渋沢栄一さんを書こうと思ったとき、なぜこうなったのか、すごく分かりにくい人だと思ったんです。もともとは商売をしながらお百姓さんをしていたのが、なぜ尊王攘夷の志士になったのか? なぜそこから一橋家に入ったのか? そこからさらにパリに行き、パリから帰った後は、なぜか新政府で働き始める。「コロコロと意見を変える人なのかな?」と、精神的な部分の魅力がよく分からなかったんです。

-確かに、一見すると考えをコロコロ変えるコウモリ的な歩み方にも見えますね。

 そこから、いろいろ資料をひも解いていったところ、その根っこにあるのは、子ども時代の両親の教えではないかと。お母さんの大きな愛情と、厳しいけれど「人生とは」ということを教えてくれるお父さんの素養みたいなものが、すごく斬新だったんじゃないかなと。それと、子どもの頃から自分も畑に出て働き、お父さんと一緒に商売をしていたこと。そういう育ちをきちんと描かないと、「一本筋を通したから、こういう人生を歩むことになった」ということが理解されず、人物としての魅力が伝わらないと思ったんです。

-なるほど。

 そしてもう一つ、栄一さんが育った時代背景を、徳川慶喜(草なぎ剛)さんを中心に描かせてもらいました。黒船来航の前はこういうことを考えていて、来航後はこんなことを考えてと。それがないと、栄一さんの思想の変遷が理解できませんから。そんなことから、こういう描き方になりました。

-おっしゃる通り、栄一の真っすぐな人柄が生き生きと描かれ、とても魅力的な人物になっていましたし、それが視聴者に支持された大きな理由でもあると思います。

 本当は、もうちょっと後半生も描きたかったです(笑)。ただ、期せずして、途中から今の時代に合う作品になっていったような感じはあります。

-「今の時代に合う」という点では、岩崎弥太郎(中村芝翫)とのビジネスの在り方を巡る舌戦や、養育院の運営を巡る議論など、特に最近の回は今の世の中と重なって見える部分があります。SNS上でもそういう視聴者の感想が見られましたが、その辺はどのぐらい意識していたのでしょうか。

 それほど意識したわけではありません。ただ、書いているときに、ちょうど生活保護の問題がニュースになったり、スエズ運河の座礁事故があったり、栄一さんがたどってきた道は今につながっているんだな、と思うことはありました。だから、「こういう問題を盛り込もう」と意図したわけではなく、自然にそうなっていった感じです。

 
  • 1
  • 2

特集・インタビューFEATURE & INTERVIEW

【映画コラム】時空を超えた愛の行方は『楓』『ビューティフル・ジャーニー ふたりの時空旅行』『星と月は天の穴』

映画2025年12月20日

『楓』(12月19日公開)  須永恵と恋人の木下亜子は、共通の趣味である天文の本や望遠鏡に囲まれながら幸せな日々を送っていた。しかし実は本当の恵は1カ月前にニュージーランドで事故死しており、現在亜子と一緒にいるのは、恵のふりをした双子の兄・ … 続きを読む

北香那「ラーメンを7杯くらい食べたことも」天野はな「香那ちゃんのバレエシーンは見どころ」 「ラーメン」と「クラシック・バレエ」が題材のコメディーで共演 NHK夜ドラ「替え玉ブラヴォー!」完成会見

ドラマ2025年12月19日

 12月19日、東京都内のNHKで、1月5日からスタートする夜ドラ「替え玉ブラヴォー!」の完成会見が行われ、主人公・千本佳里奈(ちもと かりな) 役の北香那、佳里奈の親友・二木優美(ふたぎ ゆみ) 役の天野はながドラマの見どころを語ってくれ … 続きを読む

【物語りの遺伝子 “忍者”を広めた講談・玉田家ストーリー】(9)浅間神社で語る「厄よけの桃」

舞台・ミュージカル2025年12月18日

 YouTubeもNetflixもない時代、人々を夢中にさせた“物語り”の芸があった——。“たまたま”講談界に入った四代目・玉田玉秀斎(たまだ・ぎょくしゅうさい)が、知られざる一門の歴史物語をたどります。  前回は、玉田家再興にあたり「三つ … 続きを読む

石井杏奈「人肌恋しい冬の季節にすごく見たくなる映画になっています」『楓』【インタビュー】

映画2025年12月17日

 須永恵(福士蒼汰)と恋人の木下亜子(福原遥)は、共通の趣味である天文の本や望遠鏡に囲まれながら幸せな日々を送っていた。しかし実は本当の恵は1カ月前にニュージーランドで事故死しており、現在、亜子と一緒にいるのは、恵のふりをした双子の兄・涼だ … 続きを読む

染谷将太 天才絵師・歌麿役は「今までにない感情が湧きあがってきた」 1年間を振り返る【大河ドラマ「べらぼう〜蔦重栄華乃夢噺〜」インタビュー】

ドラマ2025年12月15日

 NHKで好評放送中の大河ドラマ「べらぼう〜蔦重栄華乃夢噺〜」。“江戸のメディア王”と呼ばれた“蔦重”こと蔦屋重三郎(横浜流星)の波乱万丈の生涯を描く物語も、残すは12月14日放送の最終回「蔦重栄華乃夢噺(つたじゅうえいがのゆめばなし)」の … 続きを読む

Willfriends

page top