【インタビュー】映画『ヤクザと家族 The Family』藤井道人監督「綾野剛さんと話したこと、一つ一つの中にヒントがあった」気鋭の映画監督が30代の今、思うことは

2021年1月26日 / 06:30

 綾野剛、舘ひろしら、豪華キャストが集結した『ヤクザと家族 The Family』が1月29日から全国公開となる。本作は、やくざの世界に足を踏み入れた山本賢治の波乱の生きざまを、1999年から2019年にわたる日本の世相を背景に描いた骨太なドラマだ。監督・脚本を務めたのは、多数の映画賞を受賞した『新聞記者』(19)で注目を集めた気鋭の映画監督・藤井道人。本作にも通じる30代の映画監督としての思い、初顔合わせとなった主人公・山本役の綾野の印象などを聞いた。

藤井道人監督

-この映画は「やくざ映画」に分類される作品ですが、それだけにとどまらず、今の日本の社会全体を見つめるような奥深さがあります。藤井監督のこれまでのキャリアを振り返ると、『デイアンドナイト』(18)や『新聞記者』あたりからそういった社会的な視点が表面化してきた印象がありますが、そういう意識はもともとあったのでしょうか。

 いいえ。全くありませんでした。高校時代は「ジム・キャリーの大ファン!」、「ベン・スティラー最高!」(いずれも、ハリウッドのコメディスター)みたいな感じで映画を見ていましたから。そういう意味で一番大きいのは、東日本大震災です。2011年に震災が起き、なにも意志を持つことができず、どうすればいいのかも分からなかった。映画監督としても食えず、20代はずっと葛藤していて…。自分の生き方と向き合えるようになってきたのが、『青の帰り道』(18)の脚本を書き始めた頃だったと思います。自分の中で、「モラトリアムを終わらせなきゃ」という意識が芽生えて。そのあたりから徐々に、3.11後の日本に対する自分の意見を脚本に書けるようになってきた感じです。

-なるほど。

 ただ、「社会的な問題を描きたい」ということではなく、人間を描いていると必然的にまとわりついてくるものが社会、という感じです。自分が感じたことや疑問に思ったことを、掛け算して書いていく。だから今回も、やくざという職業にフォーカスしていますが、そこには、コンプライアンス重視で「間違っているものは駄目」、「能力の低い人は、社会から排除します」といった不寛容な風潮に対する疑問が強く込められています。

-具体的には?

 例えば、世の中には「ある分野では不得意なことがあっても、得意としていることもある。そういう人もいますよね。そういう人にも、きちんと愛情を持って接することができる社会になってほしい。そういうものの掛け算で、この本が書けたと思っています。

-今回のやくざは、そんなふうに社会から居場所を失っていくものの象徴だと?

 そうですね。最終的に、完成してそう思いました。撮っている最中は、「これがテーマだ」とは分からないんです。必死に人間を撮っていく中で、剛さんとしゃべったことや、舘さんから聞いた昔の話など、そういうもの一つ一つの中に、ヒントがあったような気がします。

-そういう意味では、この作品は役者・綾野剛の真価が存分に発揮された映画でもあると思います。例えば、序盤のやくざに追われて逃げる場面、台本にはなかった車にひかれるアクションを、綾野さんご本人が演じていますよね。驚きました。

 あそこは、スタントコーディネーターの吉田(浩之)さんと「アクションを強化したい」ということで、「“車にひかれる”とかできますけど」、「でも、綾野さんやらないよな…」みたいな話をしていたら、ちょうどそこにやって来た剛さんが「やろうよ」と。すごく乗り気でやってくれました。でも、普通はできないですよね。海から落ちる場面も本人ですし、全部ノースタントでやってくれて。本当にすごいな…と。

-尾野真千子さん(工藤由香役)との2人の場面も、台本には「口論になる」と一言しか書かれていないところを、迫真のお芝居で…。

 尾野さんと剛さんって、やっぱり相性がピッタリなんです。「口論になる」もああしてくれるんだ…と。すごくよかったです。

-初めてタッグを組んだ綾野さんの印象は?

 運命的なものをすごく感じました。剛さんのように本を飛び越えてくる人とはなかなか出会えないので、素直に感動しましたし。恐らく剛さんの方もそう感じていて、お互いがそう感じたからこそ、加速していったんだろうな…と。例えば、「本当はこれをやりたいんだけど…」という場合でも、役者にそれを無理強いしたら、いいものは撮れないし、逆に俳優部が言って来たことを全部「はいどうぞ」とやっても、絶対によくなりません。だから、そういうアジャストの部分に関して、僕と剛さんの目指しているところが一緒だったんだろうな…と。

 
  • 1
  • 2

特集・インタビューFEATURE & INTERVIEW

エマニュエル・クールコル監督「社会的な環境や文化的な背景が違っても、音楽を通して通じ合える領域があるのです」『ファンファーレ!ふたつの音』【インタビュー】

映画2025年9月18日

 世界的なスター指揮者のティボ(バンジャマン・ラべルネ)は、突然白血病を宣告され、ドナーを探す中で、生き別れた弟のジミー(ピエール・ロタン)の存在を知り、彼の隠れた音楽的な才能にも気付く。兄弟でありながらも異なる運命を歩んできた2人。ティボ … 続きを読む

前田旺志郎「世の中に関心を持つ大切さに気付いた」窪塚愛流「止まっていた時間が動き出した」初共演の2人が福島原発事故を題材にした映画で感じたこと『こんな事があった』【インタビュー】

映画2025年9月16日

 東日本大震災から10年後の福島を舞台に、原発事故で引き裂かれた家族と青春を奪われた若者たちの姿を描いた『こんな事があった』が9月13日から全国順次公開中だ。監督・脚本は、『追悼のざわめき』(88)などで日本のみならず世界の映画ファンから支 … 続きを読む

グイ・ルンメイ、真利子哲也監督「お互いが思い合うからこそすれ違う。でもそこには愛があるという家族の形を描きたかった」『Dear Stranger/ディア・ストレンジャー』【インタビュー】

映画2025年9月12日

 ニューヨーク・ブルックリンで暮らすアジア人夫婦を主人公に、息子の誘拐事件をきっかけに夫婦の秘密が浮き彫りとなり家族が崩壊していく姿を、全編NYロケで描いた『Dear Stranger/ディア・ストレンジャー』が、9月12日から全国公開され … 続きを読む

【物語りの遺伝子 “忍者”を広めた講談・玉田家ストーリー】(3)無鉄砲小僧、恐れを知らぬ行動力

舞台・ミュージカル2025年9月12日

 YouTubeもNetflixもない時代、人々を夢中にさせた“物語り”の芸があった——。“たまたま”講談界に入った四代目・玉田玉秀斎(たまだ・ぎょくしゅうさい)が、知られざる一門の歴史物語をたどります。 ▼無鉄砲小僧、恐れを知らぬ行動力 … 続きを読む

北村匠海 連続テレビ小説「あんぱん」は「とても大きな財産になりました」【インタビュー】

ドラマ2025年9月12日

 NHKで好評放送中の連続テレビ小説「あんぱん」。『アンパンマン』を生み出したやなせたかしと妻・暢の夫婦をモデルにした柳井のぶ(今田美桜)と嵩(北村匠海)夫婦の戦前から戦後に至る波乱万丈の物語は、ついに『アンパンマン』の誕生にたどり着いた。 … 続きを読む

Willfriends

page top