【インタビュー】舞台「喜劇 お染与太郎珍道中」八嶋智人 演劇は「人間らしく生きるために必要」

2021年1月26日 / 08:00

 渡辺えりと八嶋智人が喜劇で初共演する「喜劇 お染与太郎珍道中」2月1日から都内の新橋演舞場で上演される。本作は、作家の小野田勇が喜劇俳優・三木のり平とタッグを組み、落語や歌舞伎のエピソードを加えて作り上げた作品。江戸の街を舞台に、米問屋の箱入り娘・お染と、頼りない手代・与太郎のワケありの珍道中を描く。与太郎役を演じる八嶋に、本作への意気込み、そしてコロナ禍における演劇業界への思いを聞いた。

与太郎役の八嶋智人

-本作に出演が決まったときの気持ちを教えてください。

 新橋演舞場で、三木のり平さんが演じられていた役を、僕がやって大丈夫? という感じでした(笑)。でも、えりさんとの共演だということを聞いて、楽しみになりました。えりさんは、これまでも演舞場で多くの作品に出演されていますし、僕にとっては、同じ小劇場出身の同志であり、大好きな先輩ですから。

-制作発表でも、渡辺さんとの楽しい掛け合いが見られました。

 えりさんは「なんであんなこと言うのよ!」って怒っていたので、いい掛け合いだったのかは分かりませんが(笑)。

-今回演じる与太郎という役柄を、今現在、どのように捉えていますか。

 “おとぼけ”、“抜け作”といった人物です。われわれ、現代人には計り知れないぐらいのヒエラルキーがあった江戸時代に、それを飛び越えて生きられるあほうさと、間抜けさと、みんなから「ばかだね」って言われながらも許されているチャーミングさを持っています。本当にそういう人物がいたのかは分かりませんが、無礼だけど、それが許されるかわいい男だな、と。演出の寺十(吾)さんから「(与太郎は)妖精みたいなものだ」と言われたので、そう思いながら演じています(笑)。

-お染役の渡辺さんの、女優としての魅力はどこに感じていますか。

 まず、底抜けにピュアなんですよ。例えば、「(取材時に目の前にあった)このアクリル板、食べられるんですよ」とえりさんに言うと、「えっ、本当?」って、まずは1回信じますから(笑)。もう何回もそんなやりとりをしているのに、何回やっても信じてくれるんです。そこが大好きです。大店の無垢(むく)なお嬢さんというお染のキャラクターにぴったりだと思います。

 そういったかわいらしさがありながらも、一方では、劇団のプロデュースもしていて、このコロナ禍でも努力して、のたうち回って、演劇を存続させようと立ち上がった、ジャンヌ・ダルクのような方でもあります。そういう意味で、すごく尊敬しています。

-コロナ禍での演劇ということでは、八嶋さんも2020年に3本の演劇作品に出演しました。その中では、コロナ禍だからこその経験も多かったと思いますが、この1年を振り返ってみていかがですか。

 僕は俳優なので、えりさんの苦労とはまた違うものがありますが、大変な2020年に3本も芝居ができたというのは、とても幸せなことだと心から思っています。それから、改めて、お客さんは一緒に舞台を作る仲間なんだということを実感する瞬間が幾つもあったので、ありがたいことだなと思いました。

 僕の場合は、2月に出演していた「泣くロミオと怒るジュリエット」が途中で中止になり、6月に上演予定だった作品は、一度も幕が開くことなく中止になりました。正直に言うと、公演ができなくて、ふてくされていた部分があったと思います。でも、8月にえりさんが新作を書いて上演されていて、それを観劇させていただいたときに、えりさんは覚悟を持って演劇を続けることを選んだんだと強く感じたんです。たくさんのことをクリアして、ステージに立たれているということを勉強させてもらいました。

 その後に、(本作の演出も担当する)寺十さんの演出で「あなたの目」という作品を上演することができ、今までの経験でクリアできないお芝居に挑戦させていただき、今が踏ん張りどきなんだとも思いました。11月には、(八嶋が所属する劇団の)カムカムミニキーナの「燦燦七銃士」という公演を、「ザ・スズナリ」で上演することもできた。この「ザ・スズナリ」は、小劇場の中では、伝説の劇場なんですよ。そこで、劇団として初めて公演ができ、すごく背中を押されているような気がしました。超常現象じゃないですが(笑)、何かいる、何かに助けられたと思ったんです。そして、今作です。

-さまざまな思いを経た今、本作にはどのような思いがありますか。

 お話を頂いたのはコロナ前でしたが、そのときとは「喜劇」という響きが全く違うものに聞こえ、状況も変化していることは感じています。だからこそ、やってやろうじゃないか! と。笑わせてやろうという思いがあります。歴史上、どんなに有事があっても演劇はなくなりませんでした。今も、世界中の演劇人が、それぞれ条件が違う中で続けようとしています。そんな中で、小難しい作品ではなく、「喜劇」をやらせていただくのも何かの巡り合わせだと思うので、役者を続けられることに感謝し、精いっぱい務めたいと思います。

 
  • 1
  • 2

特集・インタビューFEATURE & INTERVIEW

【映画コラム】新旧監督の話題作が並んで公開に『TOKYOタクシー』『金髪』

映画2025年11月22日

『TOKYOタクシー』(11月21日公開)  タクシー運転手の宇佐美浩二(木村拓哉)は、85歳の高野すみれ(倍賞千恵子)を東京の柴又から神奈川県の葉山にある高齢者施設まで乗せることになった。  すみれの「東京の見納めに、いくつか寄ってみたい … 続きを読む

中川晃教「憧れることが原動力」 ミュージカル「サムシング・ロッテン!」で7年ぶりにニック役に挑戦【インタビュー】

舞台・ミュージカル2025年11月22日

 数々のミュージカル作品へのオマージュが登場するコメディーミュージカル「サムシング・ロッテン!」が12月19日から上演される。2015年にブロードウェイで初演された本作は、「コーラスライン」、「アニー」、「レ・ミゼラブル」などの人気ミュージ … 続きを読む

岩田剛典、白鳥玉季「全編を通してくすっと笑えるコメディー映画になっていますので、気楽な気持ちで映画館に来ていただきたいです」『金髪』【インタビュー】

映画2025年11月21日

 日本独特のおかしな校則、ブラックな職場環境、暴走するSNSやネット報道といった社会問題を背景に、大人になりきれない中学校教諭が、生徒たちの金髪デモに振り回されながら成長していく姿を、坂下雄一郎監督がシニカルな視点で描いた『金髪』が全国公開 … 続きを読む

加藤清史郎&渡邉蒼「僕たちも今、夜神月に巻き込まれている」 子役出身の二人が挑む「デスノート THE MUSICAL」【インタビュー】

舞台・ミュージカル2025年11月21日

 映画やドラマ、アニメなど幅広いメディア展開を遂げてきた人気漫画「DEATH NOTE」のミュージカル版「デスノート THE MUSICAL」が11月24日から上演される。2015年に日本で世界初演された本作は、原作のスリリングな物語を世界 … 続きを読む

なにわ男子・大西流星「“timeleszのお兄さん”な原くんは印象通り」 timelesz・原嘉孝「流星は優しくてしっかりしてる子」 1月期ドラマでW主演【インタビュー】

ドラマ2025年11月20日

 なにわ男子・大西流星と、timelesz・原嘉孝がW主演する「東海テレビ×WOWOW 共同製作連続ドラマ 横浜ネイバーズ Season1」が、2026年1月から放送がスタートする。  本作は、令和版『池袋ウエストゲートパーク』として注目を … 続きを読む

Willfriends

page top