【インタビュー】『記憶の技法』石井杏奈「自分も華蓮と一緒に旅をした気分になって、自然と成長していけたと思います」

2020年11月26日 / 06:00

 東京に住む女子高校生の鹿角華蓮(かづの・かれん=石井杏奈)は、奇妙な記憶喪失癖に悩んでいた。幼少期の記憶の断片が不意に脳裏をよぎり、しばしば意識が飛んでしまうのだ。ある日、華蓮は自分が養子であることを知る。真実を知りたいと考えた華蓮は、同級生の穂刈怜(ほがり・さとい=栗原吾郎)と共に、出生地の福岡を訪れる。吉野朔実原作の同名漫画を、池田千尋監督、脚本・高橋泉で映画化した『記憶の技法』が、11月27日から公開される。本作で自分探しの旅をするヒロイン華蓮を演じた石井杏奈に話を聞いた。

石井杏奈(ヘアメイク:八戸亜希子/スタイリスト:粟野多美子)

-まず、原作漫画や台本を読んだときの感想からお願いします。

 台本を頂く前に、原作を読ませていただきました。ショッキングな題材ということもあり、悲しかったり、苦しかったりして、つらい感じがしましたが、台本を読むと、華蓮という役には、ネガティブな感情の中にも、悲しみだけではなく、明るさや優しさや温かい部分があり、柔らかいという印象を持ちました。華蓮は、悲しみの中に、強さや温かさを持って過ごしているから、前に進めるのだと、感じることができました。原作と脚本に対する感じ方の違いが、自分を華蓮に近づけようと思わせてくれました。華蓮の心はものすごくかき乱されるのですが、台本の最後で、温かさや柔らかさを感じたとき、絶対にすてきな作品になると思い、気合が入りました。

-かたくなに心を閉ざした華蓮が、人と接したり、事件のことを調べるうちに、だんだんと心を開いていきます。気持ちの変化を演じる上で心掛けたことはありましたか。

 最初に、(池田千尋)監督の前で稽古をした時、華蓮の心の変化を強調して演じてみました。すると、監督が「もう少し明るくしても大丈夫じゃない」と言ってくださったので、今度は、最初から普通の子でいようと考えて演じてみました。今回は、前半は東京、後半は北九州や韓国でロケをしましたが、その中で、自分も華蓮と一緒に旅をした気分になり、自然と成長していけたと思います。実際にその土地に行ったことによって、感じ方も変わっていき、海を見ながら華蓮の気持ちになって、自然に涙が流れてしまったこともありました。

-ロケ先で影響を受けたり、印象に残ったことはありましたか。

 華蓮が海を見ながら、「自分がここに来る意味が分かった」というシーンで、撮影前は、どう演じようかといろいろ考えたのですが、実際にその場に行ったら、壮大な海を前にして自分の居場所を見つけるってすごいことだなと思い、涙が止まらなくなりました。華蓮はこんなに重たいものを背負っていたのに、明るく振る舞っていたんだなと感じ、華蓮と自分との気持ちがリンクした気がしました。現場に行って感じるものはすごいなと実感しました。

-旅に同行する怜(栗原吾郎)の存在も大きかったですね。

 華蓮が彼に同行をお願いした大きな理由は、多分、自分と同じようなにおいがしたり、同じような境遇で過ごしていると瞬時に察知して、理屈ではなく心で感じた部分があったからだと思います。怜くんと一緒に旅をして、私も華蓮としてすごく心強かったです。怜くんは華蓮の脳とは違う脳を使っている感じがし、まるでパズルがはまったように、フィットした感じがしました。栗原さんとは、稽古からずっと一緒にやっていて、栗原さんもそんなにお芝居の経験はないとおっしゃっていたので、悩むと2人でこっそりとせりふ合わせをしたりもしました。だから、2人で一緒に作っていった戦友という感じがします。

-この映画は、原作、監督が女性でした。その中で感じた女性ならではの視点や演出のようなものは何かありましたか。

 池田監督はとても丁寧な方で、最初からずっと寄り添ってくださいました。自分の世界に包み込んでくださるような母性を感じ、身を委ねられる存在だと思いました。女性が主人公の映画なので、女性に共感してもらえる映画になったと思いますが、試写を見てくださった事務所の男性の方から「女性監督ならではの視点で描かれていて、女性の良さがすごく出ているから自信を持って」というメッセージを頂きました。多分、男性から見た女性の良さも描かれているのだろうなと思いました。

-実際の自分よりも少し若い高校生の役でしたが、ご自身との共通点は何か感じましたか。

 自分で何とかしようとするところはすごく共感できました。誰かに相談をしても、結局決めるのは自分ですし、自分が前に進めばいいと思う部分が多いです。何事も知りたがるし、つらくても結果を求めるので、華蓮に共感する部分は多かったです。だから、一つ一つかみ砕きながら、確かにそうだと納得しながら演じました。監督から「あなたが10代最後の、あのときだから撮れた作品だ」と言われました。だから、今撮ったら全然違うものになるかもしれません。

-この映画のテーマは「記憶とは…」ということですが、ご自身が考える「記憶とは?」

 記憶はとても大切なものだと思います。いいことも悪いことも絶対に忘れてはならないと思いますが、私は記憶や思い出は悲しいものだと思います。過去のことを考えると、うらやましかったり、悲しかったりします。例えば、家族と一緒にキャンプに行ったりしても、「あー、もうこの瞬間には二度と戻れないんだなあ」と思うと悲しくなります。だから、いい記憶も悪い記憶も、思い出すと全部悲しくなります(笑)。未来の方が好きです。今の自分は幸せだとは思いますが、10年後に思い出すと「あの頃には戻れない」と思って悲しくなると思います。

-では、特に印象に残ったシーンは?

 華蓮の今の両親(小市慢太郎、戸田菜穂)が出てくるシーンが、何度かありますが、華蓮がいないシーンの撮影を私は見ることができませんでした。なので、映画が完成してから見たときに、「お母さんたちこんな顔してたの…」と思うと、すごく感動的で、2人の愛を感じて、「好きだな、すてきだな、この家に帰りたいな」と思いました。

 
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