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仕事も結婚生活もうまくいかず、都会の生活に疲れた橙花(とうか)は、母の三回忌をきっかけに、離島にある実家へと帰る。ところが、そこで彼女を待っていたのは、亡き母の服を着て「母さんになろうと思う」と告げる父・青治(せいじ)の姿。しかも実家には、弟夫婦の他、父と結婚したいという中年男・和生(浜野謙太)とその娘・ダリア(モトーラ世理奈)も同居しており…。9月20日全国ロードショーとなる『おいしい家族』は、久しぶりに帰った故郷で思わぬ事態に直面した主人公・橙花の姿を通じて、新しい家族のあり方を見つめた温かな物語だ。橙花を演じた松本穂香、その父・青治役の板尾創路、ふくだももこ監督に撮影の舞台裏、作品に込めた思いを聞いた。
ふくだ 私は、人と人とが関係を作っていく上では、血のつながりや国籍、性別などは一切関係ないと考えています。そういう新しい関係性を、家族という形で表現したいと思いました。
ふくだ 「ひよっこ」(17)を見て、「(松本が演じた)青天目澄子ちゃんって、おもしろい女の子だな。この子が橙花をやってくれたら、きっと映画が豊かになる」と思って。プロデューサーも賛成してくれたので、すぐにオファーしました。
松本 お話を頂いて、とてもうれしかったです。台本を読んでみたら、すごく面白くてすてきなお話で…。久々に帰った実家で、置いてきぼりにされたような寂しさを感じる橙花の気持ちも、すごく伝わってきました。
板尾 特に違和感もなく、「そういう人もいるかな…」ぐらいの感じでした。女装も、コントでさんざんやってきましたし。僕は許容範囲が広いので(笑)。
ふくだ 最初に板尾さんと「この人はどんなたたずまいか」という話をしたとき、「役を作り込まず、いつも通りでいいよね」とおっしゃってくれたんです。その一言で、全部分かってくれているな…と。そういう認識が最初から共通していたので、私の方からは「そのままでいいです」とだけお伝えしました。
松本 しゃべり方も変えていないし、何かが大きく変わったわけではないのに、本当にお父さんであり、お母さんでもあるな…と。それはみんなが感じていたと思います。ただ、お母さんの服を着ていたので、久しぶりに帰った実家で「お父さんがお母さんの服を着ている…!」と戸惑う橙花の気持ちは理解できました。
板尾 松本さんとお仕事をするのは初めてでしたが、僕も松本さんぐらいの娘がいてもおかしくない年齢です。しかも、2人とも関西人なので、関西人特有の空気を感じる部分もある。そんなこともあって、お互いにちょうどいい距離感でいられました。
ふくだ 橙花が周りと少し距離のある役だったので、穂香ちゃんもみんなと距離を取ってくれたのがよかったです。
松本 自然とそうなった感じでした。あまり意識していなかったんですけど。撮影自体は、周りが面白い方たちばかりだったので、楽しく過ごすことができました。
板尾 食事は、家族を表現する上で大事な場面です。でも、実は演じるのはすごく難しい。普段はご飯を食べながら何げなく話をしていますが、お芝居になるとギクシャクしてしまいがち。「話がしにくい」という理由で、実際には食べない作品も少なくありません。そんな中で今回、僕は役柄的にお母さんなので、みんなの様子を見ながら、「この人、これ食べてないな」と思ったら差し出す、みたいなことを考えながら演じていました。食べながら話をする中で、感情が動いていく様子を見せられたらと。
ふくだ 食べながらしゃべる、飲みながらしゃべる、何か手を動かしながら…の「“ながら”でやってください」ということだけは皆さんにお願いしました。せりふがあるから手を引っ込める…みたいに食卓が動かなくなるのだけは嫌だったので。せりふのタイミングがずれてもいいから、そこだけは意識してくださいと。板尾さんが「肉、まだあるぞ」と促したりするのはアドリブですが、撮影していて、ものすごく楽しかったです。
松本 そういう意味では、私が一番楽をしていたと思います(笑)。橙花は一応、その場にはいるんだけど、反発しているから、食事には全く手をつけない。しかも、そうやって一生懸命アピールしているのに、誰も気付いてくれないという…(笑)。
松本 家族というのは、どんな形でもいいんだな…と。ちゃんとつながってさえいれば、たとえ血がつながっていなくても、どんなことでも言い合えて、家族でいられる。逆に、血がつながっていても、こういうふうにつながっていられない家族もいるでしょうし。大切なのは、もっと自由に、自分らしく生きること。そんなことを考えさせられました。
板尾 家系や伝統を重視した今までの日本的な家族とは違って、押しつけがましくないのがいいですよね。干渉し過ぎず、お互いを尊重し合って、本人が思うように生きればいいという。だけど、ちゃんとつながっている。そういうカラッとした感じがすごくよかったです。
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